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第65話

 ビルの中を行き交う通行人を避け、休日のタワー内部を縦横無尽に駆けていく四人の影。先頭を突っ走るのは頭に巻いた赤いバンダナをなびかせるシーザー。その背中を黒條零、初月諒花は見失わず追いかけ、更にその後ろには一歩遅れて滝沢紫水も続いていた。


 上へと続く三つの扉。その横のボタンに人差し指を伸ばし、上へ向かうための土台エレベーターの現在地を確認すべく、ドアの真上にあるフロア表を見て、ハッとあることに気づいたのは先に着いたシーザーだった。


「クッソォォォ! ここじゃ26階まで行けねえじゃねえか!!」


 三人の少女達が追いつくと同時に、シーザーはエレベーターが来ようとしている扉を放棄してビルの更に奥へと突っ走っていった。扉の横を抜けていく時、その理由に零は気がついた。

 このオランジェリータワーにある全てのエレベーターが一般客の利用出来るフロア最上階である26階、即ちレストランと展望ロビーのあるフロアまで続いているわけではない。


 現在いる3階より上の4階から25階の間は一般企業が事業所を構えるオフィスフロア。仮に全てのエレベーターが26階までの各階に続いていれば、レストランと展望ロビーの利用客とオフィスフロアに勤務する会社員でごった返してしまう。それを見越し、このビルはこういった設計をしている。


 エレベーターの近くに案内が書かれた立て看板があり、『レストラン・スカイオランジェリーと展望ロビーをご利用のお客様はこの先の専用エレベーターをご利用下さい』。

 案内に従い、向かった先は高価そうな黄金の柱が左右に立ち、レッドカーペットが敷かれた通路。通って行った先には26階への直通エレベーターがあり、シーザーは既にボタンを押して立っていた。奇しくも、その場に自分達以外は誰もいなかった。


「ちっ、今まさにエレベーターが来る所かよ」

 辿り着くや否や、すぐには行けないことを示す彼の舌打ち。降下する分と浮上する分、時間が消費される。天空へ続く昇降機を示す光はたった今、26階からこちらへと急降下している。ゴールは当然、26階ではない。目指す場所は27階を抜けた先のてっぺん、屋上だ。

 

「なあ紫水、こうなったら階段駆け上がって行くか?」

「あたし、駆け上がりならば自信あるよ!」

「――待って」

 シーザーも痺れを切らしている。そう言うだろうと思っていた諒花と紫水を声だけで制止したのは零。


「二人とも、急ぐ気持ちは分かるけどエレベーターで行こう。体力を温存して。これから戦う相手は、ここにいる四人をもってしても敵うかどうか分からない」

 偶然に偶然が重なり、タイミングよく居合わせて出来た四人パーティ。だが、相手はたった一人で滝沢家の軍勢に甚大な被害を与えたほどの存在である。気は抜けない。


「そ、そうか……悪い。焦ってもしょうがねえよな」

 軽率だったと反省して諒花は大人しくなる。

「確かにそれもそうだよね……急ぐあまり消耗したらダメだよね。先輩を止めるためならあたし、待つよ」

 紫水は苦笑し決意する。


「バーッハハハハハ! 体力温存は戦いの基本だぜ?」

「ああ!?」

「何さ!?」

「あなたもそれでいい?」

 諒花と紫水がその一言に反応して突っかかりそうになるよりも前に、零の厳しい視線がここぞとばかりにマウントをとっていた赤バンダナを制すべく向けられた。

「グッ……フ、フン! いいさ。お前が仕切るのも気に食わねえが、ド正論だ。ここは大人しく従っといてやるよ」

 腕を組み、そっぽを向くシーザー。


 それから、時が来るまで辺りは自然と沈黙した。誰もが『早く来い』とエレベーターを内心待つがゆえに。その沈黙を打ち破ったのは──


「──来た。零、行こうぜ。奴に逃げられないうちに」

 諒花に言われて、零が正面を見るとちょうどエレベーターの光が現在のフロアである3階を示していた。目の前の扉が開かれるも、エレベーターから降りてくる客の数はまばら。

 とはいえ、これからがお昼どきなので直に混み出す頃合い。


 屋上での交戦。相手はあの女騎士だ。レストランと展望ロビーに被害が及ばないことを零は心の中で願った。



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