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第61話

 時計の針が一つ、また一つと時を刻む度に意識していなくても次第に胸騒ぎが強くなっていく。早く知りたい。早くこの状況を打開する手掛かりが欲しいと。

「なあに険しい顔してるんだよ?」

 それは向かいに座って頬杖をついてこちらを見る諒花にも気づかれていた。

「そ、そう?」

「さっきから急に機嫌悪そうに見えたからな。また何か抱えてるんじゃないかと思って」

「別にそうじゃない。ちょっと、考え事をしていただけ……」

 目を背け、俯いて素直に気持ちを吐露する。勿論、諒花もこちらを思って言ってくれているのは分かっていた。


 ──まただ。守る側はこちらなのに。

 今のうちに精神をすり減らしてどうする。原因はもう既に分かっていた。今に始まったことではない。

 頭の中にある現在の事件に関連する情報量は段違いだ。監視対象の諒花と比べてもその差は歴然。諒花が知らなくて、こちらは知っていても彼女には話せない情報。それも相まって、事件のことを考えているうちに推理が進み、自ずと前に進むための紫水の持つ情報が早く欲しくなる。

 時計が三十分を回った頃合いを見て店を後にした。


「ごめーん! お待たせー!」

 店を出て、暫く近くで待っていると遠くから全速力で彼女は右手を挙げながら駆けて現れ、目の前で急ブレーキするようにその場に立ち止まった。


「追試お疲れ」

 諒花が軽く手を挙げて挨拶すると紫水はこちらの顔をそれぞれ見た。

「ありがとー、待っててくれて。大変だったよ……あたしも早くキミ達から話聞きたいからさ、走って来ちゃったよ!」

 その顔はとても明るく裏表を感じさせない。まるで太陽のように元気な笑顔。紺色ブレザーの制服に短いスカート。これだけ見ると普通の学生だ。港区の端っこに拠を構える滝沢家の一人とは想像もつかないほどに。


「早速だけどさ、二人とも円藤先輩について何か知ってるなら教えてよ。あたしも色々話せることがあるからさ」

 紫水の方から先に出たその言葉はとてつもない期待に包まれていた。追試で登校して来たというが、本当に追試に合格出来たのかも疑問に思えてくる。何しろ一大事だ。これからする話が気になりすぎて集中力が途切れたなんてことがないのを願うばかりだ。

 念のため、先に断りを入れようかと思ったが、ここはそっと言葉を選んで、

「紫水さん。ここじゃ難だから、どこか人気のない場所に移動しよう」


「お、それだったら良い場所があるよ。ついてきて!」

 ひとまず、ここは自信有りげに語る紫水の背中についていくことにした。制服姿の彼女の右に束ねてある髪が歩く度に揺れる。


 てっきりここから出て少し歩くのかと思いきや、紫水が向かった先は目の前にそびえ立つオランジェリータワーの内部だった。三階まで続く高い天井、長いエスカレーターが上の階に伸びていて、各フロアには様々な店や施設が見える。

 二階と三階の通路からは下の景色を一望できる作りになっていて、四階から上に行くにはエレベーターを使う。


 先を行く紫水に連れられ、入ってすぐ正面から上に伸びるエスカレーターを二つ上がって三階。カフェや洋服店などが並ぶ通路の反対側、端の静かな窓際の方にひっそりある通路を歩いていくとドアが見えてきた。


 ドアを開けると奥から風の吹き通る通路。その脇にある、緑の非常口のマークの真下の通路の先には上下に続く階段があった。

 通路奥にはバルコニーが広がっていた。風の音だけがする空間で三階とはいえ、ビル近くの街並みを眺めることが出来る開放的な空間。そこには自分達以外は誰もいなかった。 



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