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第7話

 ──零が危ない……!


 行き交う通行人を上手く避け、道路を走るトラックの荷台の上を華麗にジャンピング。やがて誰もいない閑静な住宅街の細道に出る。

 この先を行けば住宅街の大通りに出る。そこを右折したら見えてくる路地裏の先だ。細道を抜けて大通りに出ると曲がって横断歩道がある場所まで迂回する。

 走った先に見えてきた目標の路地裏へと駆け込んだ先にはそびえ立つビルの壁に背中を預けている銀髪隻眼の少女の姿があった。


「零! 大丈夫か!」

「諒花……」

「具合はどうだ?」

「平気……交戦したけど、あいつに吹っ飛ばされて、背中から強く打っただけ……少し休めば回復する」

 それでも制服がボロボロで痛めつけられた後なのは明確であった。


「あいつって誰なんだ? 誰がお前にこんなことしたんだよ!?」

「──(おお)バサミのシーザー。最近、この渋谷にやってきた、あっちの世界ではそれなりに名の売れてる異人ゼノ。狙いは諒花──あなたよ」

「え、アタシ?」

 思わず自分を指差した。

「気をつけて。両手で巨大なハサミを操る危険な男よ。新時代の切り裂きジャックとも呼ばれて恐れられている」

 話を聞いてるうち、戦慄とは違う感情の炎が着火し徐々に燃え上がっていく。零がやられたこともそうだが……

「──クソッ……零、待ってろ! 今すぐそのジャック・ザ・リッパーをぶっ倒してやるからな!」

 身体中から、一気に沸き上がる闘志。不謹慎かもしれないが、敵が自分と同じ異人ゼノである以上、どこか燃えてくるものがある。野蛮なチンピラをボコすのとは訳が違う。


「シーザーはこの先のあなたを待っている。実力は本物よ。油断はしないで」

「ああ、お前の忠告、今度はしかと胸に刻むよ」

 零の優しい言葉を一心に受けた諒花はその道を真っ直ぐに突き進んだ。その時、気のせいか零は微かに笑ったように見えた。

 

 そこは細道を抜けた先のコンクリートに囲まれた狭い空間。真上の青空から暖かい陽が差してくる。その前方にはクワガタの頭が描かれた緑の服に赤いバンダナを巻いた男が立っていた。


「バーーッハハハハハハ!!!! 来たなあ、待っていたぞ!! お前が初月諒花だな!?」

「アタシの大切な友達を傷つけやがって!! 絶対に許さねえぞ!!」

 諒花はすかさず、両手を人狼のものに変化させ、その野生感溢れる爪を前に出して突撃し、その振り下ろしたパンチは奴の身体を引き裂いた。

 いきなりの不意打ちでシーザーは体制がとれず、引き裂かれて倒れ込んだ。

「ぐあっ!! 早速やってくれるじゃねェか!!」


 シーザーは腹部が赤く染まった緑色シャツを軽く擦った後、両手が光を帯びて変化させる。それは人の首も跳ねられるほどの鋼鉄の大ハサミ。

「そちらが狼なら、こっちはコレだ!! オレのパンチはかってえぞ!! シザー・バスター!!」

 白く発光した両手の大バサミで諒花に殴りかかる。その鋼鉄による一撃は少しかすった摩擦によっても傷の数を増やす。

 重たいハサミを軽々しく操るシーザーのパンチを一発ずつ見切った諒花は素早く的確に左右に避けていく。


「オラァ!! とっ捕まえて、ズタズタにしてやるよ!!」

「ズタズタになるのはテメエの方だ!!」

 負けてはいられない。殴り合いになるなら埒が明かない。下手に近づけばそのハサミで肌にかすり傷がつく。避けながら右手に気を集中させる。内に宿るチカラが全身を伝って集まり、


初月流(はつづきりゅう)魁狼正拳(かいろうせいけん)!!」


 青白い満月のように美しい輝きの光弾がその剛拳から放たれる。

 頭から高速で獲物に突っ込む狼の如く、高速至近距離でシーザーに直撃し、背後にあったコンクリートの壁をブチ破って豪快に大煙が立った。


「ちいっ……! なんてチカラだ……バスケのボールサイズの光弾で、このオレがこんなに吹っ飛ぶだと!?」

 すぐさま瓦礫の山から這い出てきたシーザーはまだ倒れる様子がない。諒花も身構える。


「こうなりゃお返しだ!! シザー・カッター!!」

 両手のハサミの刃を交錯させ、その摩擦から生まれし左右から挟撃するように飛んできた三日月の斬撃。まず左から来たそれを跳んで避けると、続けて後ろから迫りくる三日月の刃を右手の拳で打ち破った。

 

 そしてシーザーの間近まで迫る。彼が次の攻撃体制に入ろうとした時には──遅かった。

「そこだぁぁ!!!」

「グホォァッ!!!!」

 顔面に白目を向くほどの正拳突きがシーザーに炸裂する。だが、すぐに立ち上がって、歯を食いしばり両手の大ハサミで応戦する。

 人狼の手でこちらを切断しようと口を開けるハサミを抑え込み、その爪と刃がしのぎを削り合う。


「やるじゃねえか……やっぱそうでねェとな。あの眼帯の女を餌に、待っていた甲斐があったってもんだ! このオレをここまで苦戦させるとは!」

「零を狙ったのはアタシを誘き出すためか! なんでアタシを狙うんだこのカニ野郎!」

「バーッハハハハ!! 威勢いいじゃねェかよ女。いや──稀異人(ラルム・ゼノ)さんよ!!」

「──!」

「オレはお前の話を聞いて、この渋谷に来たんだ。もっとオレを楽しませてみせろォ!!」

 動揺してる隙を突かれて、押し飛ばされるもなんとか踏みとどまる。


 唐突に脳裏に昨年のあの日の出来事が蘇る。自分が夢の第一歩だった空手部に入部出来なかった理由(ワケ)に更に追い撃ちで突きつけられたもう一つの事実。


『いいかい? 落ち着いて聞いてね。キミは異人(ゼノ)であることに加えてもう一つ。キミはもっと一段大きなチカラを宿した稀異人(ラルム・ゼノ)なんだよ』


 メディカルチェック後、男の医師から優しく落ち着いた声で伝えられた言葉。それは今も忘れていなかった。

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