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第58話

「しっかし、思えばこんな街中によくこんな立派な学校建てられたよな」


 そんな世間話をしながら志刃舘、三軒茶屋キャンパスの外側を零と二人で歩く。右側の道路には車が行き交い、歩いている歩道を挟んで左側にはレンガを土台に伸びる鉄柵が続く。鉄柵からは学校の中の様子が見える。休日なのもあり、白い校舎の大きな窓の向こうの人影はまばらだ。 

 ビルの建ち並ぶ大都会に囲まれた広い敷地にドドンと建つキャンパス。よくこんな街中にこんな大きなマンション四件分の広さにも相当する学校を建てられたものだ。


「これは私の調べた情報だけど」

 前置きして零は話し出す。

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「マジかよ、ここ全部が? よくこんなに整えられたもんだな」

 思わずツッコんだ。十四年ほど前というと2010年である。自分達はまだ生まれて間もない頃。知らなくて当然だ。零はパソコンも扱え、幅広い情報網を持つ。こういう生きていない時代の情報を入手するのもお手の物なのは、諒花も昔からよく知っていた。


「だけどこんな街中にそんな場所があるのは治安を悪化させている原因にもなっていたから、紆余曲折の末に今の三軒茶屋キャンパスが建った」

「悪い奴らの住処になってたからとか?」


「そうね。更に言うともっと昔は巨大な暴力団組織の事務所だった。けど、時が経つにつれて使われなくなって廃墟同然、裏社会のはみ出し者達の根城と化した。だから取り壊して学校にしてしまった方が地域にも社会にもありがたいと考えたのが自然だと思う」

「要するに大規模なハチの巣駆除か」

 都会の真ん中で柵に囲まれた、清潔感のある白いコンクリートで出来た建物がそびえ立つ、この広大な敷地が丸ごと廃墟だったとはとても想像もできない。まるでこの街が忌まわしい過去を丸ごと切り取って、消し去ったようだ。


 広大なキャンパスの周囲を数十メートル歩き、学校から少し離れた所に自販機と一緒に休憩スペースと言わんばかりのベンチがあったのでちょっと腰掛けた。零も隣に座る。零の白い左手の上で銀色に光る粒が太陽の光で輝いていた。

「それ、この前の……」

「念のため持ってきた」

 赤い布袋から出てきたそれは一昨日、女騎士と初めて戦った時に散らばった鎧の欠片だ。一見すると石ころにも見える塊。だが異人(ゼノ)同様に異源素(ゼレメンタル)が宿ったこれは、異能を内包した小さな異原石(ゼムライト)だ。あの硬い女騎士の肉体を守る鎧を構成していた一部分。

「あれから何か分かったのか?」

 零は首をそっと横に振った。


「女騎士に関する手掛かりは無し。けど、この欠片から分かることは、とても強いチカラが宿っている質の良い異原石(ゼムライト)があの鎧には使われているということぐらいかな」

「やっぱそこらの異能武器(ゼオプロ)とは違う代物ってわけか」

「ヤクザやギャングが得物として扱うあれは、個々の持つ武器に使われている異原石(ゼムライト)の質よりも、低コストで沢山の数を揃えることに重点を置いているのが殆どだから、あの女騎士の鎧はそれらと比べて十倍のチカラはあると思った方がいい」


 質を求めればそれだけ金や資材とかが必要になるのは裏社会も一緒だ。異原石(ゼムライト)の質が悪くても相手が無力な人間相手ならばそれで充分な上、数で攻めれば異人(ゼノ)にも深手を負わせられる可能性はある。自分より弱い相手には威張るくせに、格上の相手にはなすすべのない下っ端にはまさに、おあつらえ向きの装備である。


「十倍……! 攻撃力も守備力も異人(ゼノ)と殆ど同等かもしれねえな」

 零はそっと頷いた。

「普通の人間が異能武器(ゼオプロ)を装備して戦うのとはワケが違う。ほぼ全身を鎧で固めているわけだから。でも諒花はあの鎧にダメージを与えられた。それがこの成果よ」

 そう言って、鎧の欠片を見せる零。

「打ち破れる望みはある」

 親友の掌にある欠片こそがその証拠。少なくとも無敵ではない。十倍は武器を持った人間が十人相手する意味ではなく、その十倍相当の重みとなるチカラが一人に凝縮されているという意味であることは想像に難くなかった。

 それがどれだけ強いのか。戦うことが楽しみというよりも、鎧の中身も分からないその得体の知れない不気味さもあり、諒花の気は一層引き締められた。



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