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第48話

「奴ら──ハーモニーインセクターズは単独よりも二人組で戦うことで有名な異人(ゼノ)。私が遭遇した時はシンドローム単独だったけど、今ならマンティス勝が最初いなかったのも頷ける。倒したけど」

「マジかよ……」

 動揺と緊張が走る。目の前の現実に俯く。小さい頃から花予は実の両親に代わって、女手一つで自分を育ててきた。叔母であり義母を失った。だが──


「零。ちゃんと安否は確認したのか?」

 諒花は一瞬青さめたものの、顔色が戻る。まだ現実を飲み込みきれていない。受け入れきれていない。こんなあっさりと家族が死んでたまるかと。


「してない。あっちの家がどうなってるか分からないから」

 零は首を横に振った。

「どうしてだよ。ダメ元でも確かめた方がいいだろ!」

 零は手を前に制止して続ける。

「もし滝沢家がこちらが戻ることを見越して諒花の家を占領していたのだとしたら、連絡した瞬間に私達の所在がバレる可能性がある」

「なんだよ、それ……アタシよく分からねえけど、電話しただけで位置情報なんて調べられるのか?」

「通話から正確な居場所特定は警察とかでないと無理。だけど、滝沢家はこちらの情報をある程度調べてから来てるのは明確。敵がこちらの声を聞いたら、向こうを刺激することになる」

「刺激したらどうなるんだよ?」

「より強力な第二波の軍勢を青山から送ってくるかもしれない。私にはその覚悟が出来ない」


 零は膝に顔を埋めて嗚咽する。花予の死。普段は平静を保っている零が動揺して泣くのも諒花はよく分かっていた。唯一の家族である親戚が冷たいのだから、優しく接してくれる花予は零にとっても大切な存在だからだ。花予の存在は零の苦しみを和らげている。


 家はマンションなので、さすがに建物ごと破壊されていることがないのは推測がついた。そんなことをすれば警察とかが飛んできてこちらを捜すどころの騒ぎではないからだ。

 滝沢家が家を占領してあぐらをかいてこちらの帰りを待っているとなれば、花予のスマホも当然奴らの手の中にあるだろう。そう考えると迂闊に電話もメッセージも送信出来ない。


「第二波なんて来たら、ここが見つかるのも時間の問題──かもな」

 紫水は撤退し、彼女から聞いた二人組は零が倒した。これで残りは総大将である姉の滝沢翡翠だけ。しかし、ここまでの道のりでも下っ端のヤクザが数の暴力で邪魔をしてきた。連中は依然、ここを嗅ぎまわっている。

 あの集団を上回ると思われる第二波を迎撃することは厳しい。紫水は言っていた。2500人のうち、500人が渋谷に来ていると。第二波だけではない。第三、第四……敵は強力な戦力を投入してくることは想像に難くない。


「幸いまだここは知られていないだけ。諒花の家は知られてて、同じく狙われてる私の家がまだ知られていないのは謎だけど……」

「よほど熱心に調べたのかもしれねえな。アタシのことを特に狙って」

 このような事態になってしまったことに納得がいった。紫水はこちらの事情を理解して撤退していったが、姉の翡翠は本気で殺しに来ている。冷酷で、容赦なく、標的の大切な家族や家を破壊することも厭わない。二人のうち一人が稀異人(ラルム・ゼノ)ならば、まずそちらに労力を集中させるのも必然だ。


「だとしたら、諒花のチカラのことも滝沢家は知ってるのかもしれない」

「かもな。一体、どういう情報でアタシのことや家の場所まで調べたんだろうな」


 ──まだだ。

 どちらにしろ敵に情報を知られたことでこうなってしまった。まだわずかな可能性を感じておもむろにスマホを開いた。死んだと言われてすぐ信じるか。信じきれなかった。

 花予はどんなことがあってもちゃんと無事でいてくれた。そんな花予があっさりと死んだ? 1ミリでも嘘っぱちの可能性もある。この眼で事実を確認するまでは認められない。


 もしかすれば直前に家を出て避難しているかもしれない。ゆえに既読もつかなかった。そのわずかな可能性に縋る。スマホで花予との吹き出し欄を確認すると出てきたそれに目が止まった。


「……な、なあ、零! ちょっとこれ見てくれよ!」

「……え?」

 スマホに映る画面を零につきつけると、彼女も顔を上げてそっとこちらを見た。



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