表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/175

第45話

 マンティスはカマキリ人間。ただ空を舞うだけの虫は氷にはるかに脆い。

 零の剣先から放たれた氷の塊。マンティスはそれを空中に羽ばたいて横に避けるとカマキリの羽で高速飛行しながら両手の鎌を振り下ろした。


「シンド倒したからっていい気になるなよ!」

 二刀の黒剣とカマキリの鎌が互いに交錯し、ぶつかり合い、火花を散らす。打ち合いの隙を突いて零は一歩距離を取って素早く氷弾でマンティスの腹部を狙った。

「なっ……!」


 避ける間もなく、マンティスに命中した氷は彼のコートの下に着たシャツの中心から凍てつかせていく。カマキリのチカラは全てを燃やし尽くす炎と同じぐらい氷と相性が悪い。生身で銃で撃たれたのと同じように機敏な動きを傷口からの痛みで奪う。氷が重りとなって羽による浮力を奪っていき、マンティスはその場のうつ伏せで横たわった。

「クソッ……コイツ、ひいっ!」

 そんな彼に零の容赦のない二刀を振り下ろす攻撃が襲いかかる。慌ててマンティスはその場で全身を転がし起き上がって距離をとった。だが、先ほどの氷が全身を徐々に侵食を開始し足が鈍る。


「……ち、ちくしょぉーー!」

「──私はお前を許さない。花予さんは一人ぼっちだった私に温もりをくれた。それなのに……!」

 零の輝く左の瞳から悲しみの滴が流れ落ちる。黒い眼帯で覆われた右目からも微かに涙腺からの一粒が流れた跡があった。

 その涙を振り払うように両手の剣のうち左手のものを前に構えた。


「お前のような卑怯者に味あわせてあげる。大切な人を奪われた苦しみを!」

 零の姿が一瞬消えた──と思いきや既にマンティスの間近に迫っていた。

「ひっ……!」

 再び空に逃げようとした所に追撃の一刀が振り下ろされた。羽ばたいて間一髪避けるも、先程の氷が身体の半分を内側から凍らせ、羽をもがれたように飛行できない。四つの羽が羽ばたいても地面から足が全く離れない。

「クソックソックソッ! 飛べねえ……!」

 足で逃げよう。マンティスがそう切り替えた時は既に遅かった。逃げようにも逃げられない、もう狩られる寸前のカマキリの全てを二刀の剣が交錯し、木っ端微塵に粉砕した。


「グゥァァァァ……! 翡翠さ……ん、俺は……あなたと……」

 凍てつかせていた氷が欠片となって散り、マンティスとともに地面に叩きつけられた。死んだのかは分からない。だが死んでも消えた命は帰って来ない。いや、今はそんなことはどうでもいい。それよりも──


「……うっ」

 その場にフラついて膝をついた。燃え上がる銀色のオーラが止む。戦闘のダメージと怒りのあまり急激に強いチカラを行使したことによる、忘れていた疲労がどっと零の身体に覆い被さった。

 

 こちらが有利な属性でなければ逆に圧倒されていたかもしれない。ハーモニーインセクターズの攻撃面を担うマンティスの弱点を突けたからこそ。あれが弱点の突けない相手であればシンドロームの狂音も相まって、より追い詰められていたかもしれない。

 辺りには氷の欠片が散乱し、目の前には大の字で横たわるマンティス。口を開けたまま動かない。その姿を見て、ほっと息をつくとポケットからスマホを出し、吹き出しが並ぶ画面から受話器のマークをタップ。

 ──プルルルルル。


「もしもし! 零、どうした!」

「り、諒花……今から私の言う場所に来て……異人(ゼノ)を二人、倒した──」


 そっと立ち上がり、スマホを耳に当てながらその場を早々と後にした。待ち合わせ場所を声を潜めて口頭で指定した。電話の向こうにいる諒花も走っているのか息が荒い。既に滝沢家の襲撃があったのかもしれない。

 諒花はこちらの家に向かっている途中らしい。好都合だ。早く合流しなければならない。敵は数で押して攻めてくる。街の至る所にはもう滝沢家の兵隊が闊歩していることは間違いない。外は危険だ。そうなると、残っている安全な場所は一つだけ。


 過去に閲覧したデータベースの記憶を思い返す。滝沢家には当主含めて五人の異人(ゼノ)がいる。その四人をまとめあげているのが青山の裏社会を掌握する当主、滝沢翡翠だ。

 残りまだ遭遇していないのは翡翠含めて三人だ。だが青山を縄張りとする兵隊(ヤクザ)含めて数も戦力も依然、こちらを圧倒的に上回っている。

 これほどの戦力を投入してくるのにも何か理由があるはずだ。滝沢家は充分すぎるほど、青山の支配者として既に裏社会で名が知られている。名の知れ渡り始めた強者を一人や二人屠りに行く草むしりに行くくらいなら、他のことに兵力を使うだろう。


 これまでの敵とは当然、一線を画す。この状況を打開するには、諒花と力を合わせる他ない。


 ──急いで家に戻ろう。上官と通信するためのパソコンを隠したり、花予さんのことを知らせる準備とか、やることが山積みだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ