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第42話

「ヘイ! シルバーガール! もうユーに逃げ場は残されてないぜえ!」


 声に反応して後ろを振り向くと、がに股でラップをとりながら、バックに夜空広がる坂道の上より、シンドロームが近づいてくる。ゴーグルをかけているがその視線はこちらをしっかり捉えていた。


「ユーはもう袋のネズミ! チューチューネズミ退治の時間だぜえ! オーイエイ!」

 零は左手に意識を集中させ、それを黒剣の形で出現させる。右手にも同じものが現れ、二刀の一閃を振るい身構えた。


「あなたのふざけたライブもこれまでよ。速攻で決めさせてもらう!」

 真っ直ぐに向かっていき、二刀の黒剣を高く勢いのままに振り下ろす。向こうは特別硬い防具も身につけていない無防備状態だ。一気に攻勢をかければ短期決戦も可能──と思っていた。


「オウ!」

 シンドロームは素早く後ろに跳んで避けると、

「ノイズィー・ウェーブ!」

 両手を前に広げ、叫声とともに放たれたそれは大気を騒音で震わせた衝撃波。至近距離から迎撃として放たれたそれを、間一髪の所で黒剣を交差させて障壁を展開し防ぐ。


「ワァーオ! 二刀の剣でおれの攻撃を防ぐとは! こうなりゃ、奥の手だぜおらァ! 刮目しろおらァ!」

 

 戦闘中もその喋り方(スタイル)をやめない。荒々しいラップで宣言した奥の手とはなんだと思った所で、彼は懐からギザギザした刃渡り10cmほどの得物を取り出した。紫色に禍々しく光るそのナイフはサーベルのように持ち手が輪になっている。ラップ調で喋る彼の陽気なイメージとは正反対の残虐性が滲み出た凶器。


「それは──」

「ヘイ! これは毒蛾のナイフ! 刺せばユーはビーリビリ! ビリッビリのビーリビリィ!」


 そう言って斬りかかってきたシンドロームのナイフを二刀の黒剣で相殺させる。二刀の剣と打ち合うには小さくて長さも短い不向きなナイフだ。しかし一片も隙を見せてはならない。その一撃を食らえば、文字通り傷口から体内に毒が侵入し、たちまち全身が麻痺に飲み込まれる。

 あの武器もハッタリではない。異能武器(ゼオプロ)だ。その刃を製造する過程で、毒のチカラを持つ異原石ゼムライトの粉末を混ぜることで、刃全体に麻痺を引き起こす神経毒が染み渡っているも同じ状態となっている。

 異原石ゼムライトはいわば異人(ゼノ)も持つ異能エネルギー異源素(ゼレメンタル)の塊だ。たとえ粉末状になっても異能をもたらすカケラとして効力は持続する。


「ノイズィー・シンフォニー!!」 

 ナイフだけでなく、シンドロームが一歩下がった位置から咆哮とともに響くその技は耳を塞ぎたくなる凄まじい騒音。耳の中を震わせ、聴覚から攻撃する。思わず両手の剣から手を離し、両手を耳で覆わなければ立っていられないほどだ。


 ──まずい。これがヤツの……音を操る能力(チカラ)

 ただ音を出すだけなら何も殺傷能力はない。だが、それを大音量で響かせればどうだろう。大気を揺るがすことで発生させて放つ衝撃波とは違う、耳の中から殺しにかかる怪音を作り出せる。


「もらったー!」

 無防備になった所にシンドロームがナイフの先端を大きく振り下ろしてきた。依然として辺りに反響する騒音による激痛。思わず目も閉じてしまう。微かに目を開けて、振り下ろされる毒蛾の刃を間一髪避ける。

 耳を塞ぎながら何とか距離をとると全身が硬い何かにぶつかった。そう、それは先ほどまで背後にあったビルの付け根を構成する灰色の壁。

 ここにきて奴がヘッドホンをしている意味がよく分かった。ラップをするためだけではない。奴は自分の出した音で響くこの騒音空間で自滅しないように、音楽を流して自分自身をコントロールしているのだ。


「ヘイ! ヘイヘイヘイヘーイ! ユーの集中力も聴力もエンプティー! さあ、食らって膝つけよ、ノイズィー・ウェーブ!」


 ──来る。

 剣を出す余裕はなかった。迫りくる衝撃波を跳んで避けたと同時に、着地の衝撃で全身が痛めつけられる。


「レッツアンコール! ノイズィー・シンフォニー!!」

 止んだのも束の間。またしても耳がやられる悪魔の騒音。一度発生すれば、約十秒は反響してフィールドとして残る音の前に体制を整えることさえ困難である。聴覚から強く刺激され、視覚を揺さぶられるそれは、攻撃力は皆無でもチカラを使うための集中力を削ぐ。


 どうすればコイツを攻略出来るのか。一つ言えることは奴の行動パターンはこの狂音で動けなくした相手に対して一気に畳み掛けることだ。耳栓があれば最も有効な対策になるが、今は家に置いてきてしまっている。

 異人(ゼノ)能力(チカラ)を行使するエネルギーは無限ではない。体内に宿る異源素(ゼレメンタル)を消費し、枯渇すれば回復するまで息切れ状態。この反響する音も異源素(ゼレメンタル)を上乗せすることでより強力な爆音として放っているのだろう。

 再び動けないこちらを毒で切り刻もうと襲い掛かってくる。響く音を我慢して己を奮い立たせて、二刀の剣を構えた時。更なる追い打ちとなる恐れていた事が起きてしまう。


「遅れちまった。シンド! 俺も混ぜてくれよ!」

 騒音が止むと空から声がした。虫の羽音が夜空に響くと異形な影が舞い降りてきたのだ。

「マサルか! 良い所に来てくれたな!」

 ──やばい。


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