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第40話

 一方、円藤由里。こちらは斬殺ではない。首絞めで殺されている。その証拠、首筋には手で鷲掴みにされた赤い跡が残っている。

 資料には遺体発見時の様子の写真がハッキリと載っていた。白く艶やかな肌、黒い長髪、全身が映っていて静かに眠っているような顔。


 遺体の状態。それを言葉にするのは(はばか)る。蔭山は路地裏のゴミ箱から発見された遺体の状態を詳しくは話さなかった。しかしこの様では当然である。

 そう、ゴミ箱の中に詰められていた遺体は衣服を全く着ていなかったのだ。写真には生まれたままの綺麗な少女の状態で写っている。普段は冷静でもさすがに零も口元に手を当てた。

 蔭山は聞き手であるこちらが女だからと遠慮したのだろう。いや、喋れなかったのが正しいか。あの場で直接訊こうと思ったが、この状態ならばあえて訊かなくて本当に良かったかもしれない。


 謎の女騎士襲撃事件と円藤由里死体遺棄事件。上官はああ言っていたが、同時期に起こったこの二つは関連性があるのではないかという考えが離れない。バラバラになった二種類のパズルのピースのうち、一つがちょうど合ってしまったような。


 上官の推理は確かだ。そもそも殺され方が違うので円藤由里を殺したのは女騎士ではない。同時期に偶然起こった全く別の事件だと思う方が自然だ。だが──


 円藤由里は志刃舘(しじんかん)高校の剣道部主将だ。諒花が言っていた。テレビに映るぐらいのちょっとした有名人らしい。因みに今いるこのワンルームには相変わらずテレビは無い。

 以前、諒花にテレビが無いことは驚かされたが、スマホやノートパソコンだけで事足りてしまうことやそもそも任務上不必要と判断された物はこの部屋には最初から無かった。補充の予定も無い。


 女騎士と初めて戦った時をもう一度思い出す。あの時、最初に諒花に片手で剣を振り下ろした時、奴は左手で剣を握っていて、その後は両手で構えていた。こちらが二刀の剣に対し、向こうは終始両手で剣を握っていた。その構えと太刀筋は剣道の構えと同一で冴えていてとても強かった。

 そして諒花に対する最初の一振りから奴は左利きであることが分かる。同じ左利きゆえ、しっかり印象に残っていた。


 ただの偶然かもしれない。だが、女騎士が現れた翌日に剣道部主将が遺体で見つかった。この前日、円藤由里はどこで何をしていたのだろうか。

 鎧の中か? あるいは──詳しく調べる必要があるのではないか。資料には謎の女騎士の鎧を形作る異原石(ゼムライト)の文言はなく、鎧についての情報は何もない。諒花と歩美から預かった数少ない手掛かりであるこの鎧の欠片も異原石(ゼムライト)だと分かるだけで今はどうしようもない。


 明日は土曜日だ。二つの事件、女騎士と円藤由里に関連性があるか否か。円藤由里の情報がアリバイをはじめ格段に少ない。

 女騎士の行方は全くもって不明だ。これ以上調べるには襲撃事件のあった青山や赤坂に乗り込んで探るしか方法はない。しかし青山は滝沢家のお膝元。

 シーザーと樫木を倒してこちらの名が知られ始めている以上、裏社会の勢力が幅を利かせている地に踏み込めば、諒花を余計なことに巻き込んでしまう可能性がある。危険を冒してまで乗り込むのは今は得策ではない。


 と、なると残る道はただ一つ。円藤由里を調べていけば手掛かりが見えてくるかもしれない。この事件が女騎士と無関係かも分かるかもしれない。

 この渋谷から地下鉄に乗っていった先、志刃舘の高校のキャンパスが目と鼻の先にある三軒茶屋付近に手掛かりがあるとしたら、一度探ってみるのもありかもしれない。女騎士を捜すという口実で。


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― 新着の感想 ―
[一言] 動いてきましたね。大きく舵を切った感じがします。 頑張ってください。
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