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第38話 

『何をそんなに怒っているんだ?』

 繋いで早々、険しい表情で問う黒條零に対し、上官はそう苦笑した。


「どうして、警視庁から捜査権奪うような真似をしたんですか?」

 早々と帰宅し、向こうの所定の時間に押し入れの中から即ノートパソコンを立ち上げてパスワードを入力し、上官に繋いだ。時計の針は午後十八時半を回ろうとしていた。


『無論、被害者のために決まっているだろう』


 上官はそっけなく即答した。そこには頷ける理由が見えない。諒花の家で蔭山貴三郎から経緯を聞いて、衝撃が走った。警察が捜査していた円藤由里死体遺棄事件の捜査権を半ば、強引に奪い取ったからだ。

 その際に蔭山の口から出た根源の名。零にとっては見過ごせなかった。確かに聞いた。それは紛れもなく上官の名前だった。


 謎の女騎士襲撃事件のさなか、起こったもう一つの事件。そこにわざわざ上官──中郷利雄(なかごう としお)が首を突っ込んだことがとても不可解であった。

 まだ事件が起こって一日も経っていない。現場の捜査指揮官に判断を任せればいいものを、日本のXIED(シード)を統括する立場にある東日本支部長官の鶴の一声から始まって捜査権は奪われた。

 何せ動きが早すぎる。理由もなくこんなに唐突で迅速、特別な対応をするものだろうか。何かを隠している気がしてならなかった。


「殺された円藤由里さんのこと、上官は何かご存知なんですね?」

『勿論だ。彼女は我々にとって赤の他人ではない。警視庁なんぞには任せておけん。我々で解決すべきなのだ。根回しをしたのはそういう事だ』

 拳に込めた強い正義感がその言葉には込められていた。異人(ゼノ)が関わる多くの事件を見てきたからこその発言だろう。彼らが現れればただの警察は到底敵わない。

「どうしてですか? 詳しく聞かせて下さい」

『これは他言無用だぞ。万が一お前から情報が漏れたら()()()()も無しだ』

「はい……!」


 約束。それは当然、自らの出生について教えてもらうということ。機密事項に触れる時は今までもこうしていつも脅しをかけられてきた。だが、今年で五年目になる任務を遂行し続けてきてそれも慣れている。そっと首を縦に振った。


『よろしい。円藤由里はな、来年度から我々XIED(シード)東日本支部の新人捜査官として配属が決まっていた一人だったのだ』

「──えっ?」

 まさか、被害者がそんな関係だったとは全く露知らずだ。


『高校生でXIED(シード)を知り、外から受けに来る人間は珍しい。お前のように天涯孤独な子供は珍しくはないがな』

 XIED(シード)の採用活動の全貌については知らない。一つ分かることは、受かるのは一般的に大学および大学院、あるいはそれなりの専門学校を出ている能力の高い人間ということだ。

 一方で学力やスキルを問わない面もある。実際に見てきて知っている。身寄りのない子供がどこかから集められ、将来はXIED(シード)の捜査官やそれに付随する職に就いていることを。捜査官以外にも事務職や研究職など幅広い職種があり、英才教育の末にそれぞれの道に進む。


「彼女、なぜXIED(シード)に志願したのですか?」

 警視庁や自衛隊といった一般的に知られている組織を受けるのとは違う。XIED(シード)はそれほど公には知られていないグレーな立場にいる。知られているようで知られていないこともある。白でもあり黒でもある。それもそのはず、活動は異人(ゼノ)が関わっている事件を主に扱い、影から治安を預かっているのだから。

 異人(ゼノ)XIED(シード)。表社会の一般的なメディアはそういった存在に対して嘘をつき、それらの実態を正しく映さない。

 たとえ街中でテロ事件が起こってそれが異人(ゼノ)の仕業だったとしても、逮捕された容疑者をただの人間と同等に扱い、その容疑者が戦闘の末に殺されたとしても『警察との銃撃戦で射殺された』と表社会にとって都合の良いものに捏造される。

 警視庁、自衛隊とかと違ってその名前は公にあがることは殆どない。そんな組織に高校生で志願するというのはとても常軌を逸している。


『彼女の父親の兄が元XIED(シード)捜査官でな、彼女は幼い頃から彼に憧れていた。受けられるならば大学に行かずすぐにXIED(シード)に入局したいと。私も最後に面接を担当したが、そのひたむきに夢を追いかける姿勢を評価した。その後、協議の末に正式に内定を出すに至ったのだ』


 それを聞いて、彼女の見方が大きくひっくり返った。彼女は純粋に憧れの夢としてこの道を選んでいる。生まれてきて、物事ついた時からXIED(シード)として育てられた自分とは実に正反対だ。


 恐らく夢のために並外れた努力をしたに違いない。この道は決して楽ではない。武器やチカラを使いこなすための戦闘訓練も知識をつけるための勉強も。時には泣きたくなっても泣いたり逃げ出すことも許されない。

 常に命懸けだ。レーツァンのような闇の向こうに蔓延る凶悪な異人(ゼノ)達を前にして死ねばそれまで。生き残るためには力をつけるしかない。彼女はこの過酷な道とこんな修羅の世界を全て受け入れてでも入る覚悟だったのだろうか。大人しくこの世界を知らないで暮らす道もあったはずなのに。


 ──監視役になって温度差で驚くこともあった。こんな自分にみんなが凄く優しくしてくれるから。花予さん、歩美。そして、諒花。



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― 新着の感想 ―
[一言] 祝・更新再開! じっくり時間をかけて書かれるのがスタイルだと思っています。ご自分のペースで更新していけますように。 零ちゃん、苦労してるんだなあ。
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