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第32話

「──その矢先、XIED(シード)がいきなり押し入ってきて、令状片手に今回の捜査権を完全に向こうに持って行きやがったんだよ……!」


 蔭山は唇を強く噛み締めた。行方不明になった少女が最悪の形で見つかり、それを横槍入れられて実質蚊帳の外に追いやられた。もはや警察のメンツが立たない。蔭山ではない上の人間が令状突きつけられてあっさり捜査権をあげてしまったのも相まって。完全に行き止まり状態。


 その時、零は身を乗り出してあることを確認する。

「蔭山さん。その時に来たXIED(シード)の令状、誰の名前が書かれてたか覚えてますか?」

XIED(シード)東日本支部の長官、中郷利雄(なかごうとしお)。警視庁なら一番上の警視総監に相当する大物がなんで、殺人死体遺棄事件の一つにわざわざ首突っ込んでくるのか……全く分かんねーよ」

 裏社会の無法者にとって、XIED(シード)は警察と双璧を成す壁だ。そんな組織の東日本支部のトップ、中郷を忌々しく語りながら、蔭山は気を紛らわそうと再び緑茶を口にした。まるで酒を豪快に飲み干すように。


「どこから情報聞きつけたのかは知らんが、XIED(奴ら)は被害者のことや事件状況もある程度知っている様子だった。ズケズケ入って来やがったよ」

「きっと、別の事件で由里さんと関わりがあったのかもしれない」

 零が呟くようにして言ったことに蔭山は指を鳴らした。

「そうか! 円藤由里が異人(ゼノ)、もしくはXIED(シード)が捜査していた別の事件の関係者という線もあり得るな」

「いや、由里さんは異人(ゼノ)ではないのは確実。諒花のケースがあるから」

 そう言って零はこちらの顔を見て、視線で話の流れをトスしてきた。

「蔭山さん、アタシがメディカルチェック不合格で空手部入れなかった話、覚えてる?」


「あぁ、その話か。あれは俺も驚いたな。まさかあの検査に不合格なんてあるとは。それならば、彼女は異人(ゼノ)ではない……か。剣道部だしな」

 異人(ゼノ)には表社会のスポーツへの参加権はあるように見えて実は無い。プロアマ関係なくスポーツをやる者にはメディカルチェックを義務づけられる。生前、円藤由里は剣道部主将だった。


 表社会は検査をした上で異人(ゼノ)を不合格として処理することで、理不尽かつ強引な手段を用いることなく、自分たちの掲げる公平(フェア)という名の秩序を守っている。

 学校に通ったり授業を受けることは出来るが、自分が他の人間とは違うことを、それ以前からたとえ自覚していたとしても、改めて検査結果という現実をもって突きつけられる怖さは諒花の中に強く焼きついていた。


「蔭山さんの力でXIED(彼ら)から情報得ることは出来ないんですか?」

「そうだよ、アタシの母さんと関わりがあったわけだし、蔭山さんなら余裕だろ!」


「いや、俺はあくまで警察側でXIED(シード)との橋渡し的役目でしかない。あとは俺らでやるからって状況だ、言った所でどうにもならねえよ。XIED(シード)側から何か協力要請でも来ない限りはな」

 窓際刑事である蔭山はXIED(シード)との連絡係をしている。それは警察とXIED(シード)の双方が事件に関わる際、連携を強化出来るように取り持つ役割だということを諒花と零は知っていた。


「タラレバだが、もしもお前たちが円藤由里に関する何か有力な情報知っていたのなら、こちらも情報知ってるから捜査協力させてくれと掛け合うことは出来てたかもしれない」

「蔭山さん、ごめん。アタシ達じゃ力になれなくて」

「別に謝ることじゃねえよ。めんどくさいが、他に回り道を模索するまでさ」

 メディカルチェックの件といい、オトナの権力というものはいつもズルい。権力を使う人間とそれに与する側にしか良い効果をもたらさないのだから。



「さて、花予さんに宜しく言っといてくれよ。俺はそろそろおいとまするよ」

 その後、蔭山は緑茶を飲み干すと、二人は去っていく蔭山の背中を見送った。


「蔭山さん、すげえよなあ。たとえ冷遇されても自分の道を貫いてる」

 回り道を探してでも真実を追い求める。窓際に追いやられ、階級も半ばお飾りと化し、出世の道を絶たれても自分の道を貫く──蔭山の姿勢は諒花にとって密かな憧れでもあった。


「ある意味、今の諒花に似ているかもしれない。本来なら行けたはずの道を絶たれてもなお、自分の道を進んでる。蔭山さんはもうとっくに確かな道を見つけてる。だから諒花も──」

「あぁ、見つけてみせる。メディカルチェックの件もまだアタシの知らない何かがあるんじゃないかって気がしてきた。まずはあの女騎士と、そしてどこかにいる変態ピエロをとっちめないとな」

 何か裏があるかもしれない。心のどこかにあるそんなモヤモヤが改めて強固なものへと変わった。納得いかないならどこまでも突き進めばいい。そうすれば自ずと答えは見えてくる──そんな気がした。


「諒花、ごめん。私もやることを思い出したから今日はこれで」

 零も続くようにして帰っていった。蔭山と違い、急いでいるのかその足は小走り気味であった。事件のことに違いない。


 八日前、樫木を倒した日に円藤由里が失踪。その二日後に捜索願が出され、更にその翌日に起こったのが港区のヤクザ襲撃事件、昨日諒花達に襲ってきた謎の女騎士、今日になって行方不明となっていた円藤由里が遺体となって発見される──相次いで起こった事件の数々。

 今日早退した歩美のことも、諒花にとっては気がかりだった。スマホを開いても既読の二文字はつかない。


 そして、彼女はまだ知らない。更なる脅威が迫っていることを── 



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