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第31話

 つい先日、ニュースで改めてその名前と存在を確認したばかりだった。それ以前に名前だけはうっすらと聞き覚えがあった。

 その名前の人物は今はもうどこにもいない。まさかと思った時は既に遅し。蔭山から飛び出したのはあまりにも加速した話であった。


「じゃあ、私たちに訊いたのは、遺体が由里さんだった時のため……」

「その通りだ」

 零の問いに蔭山は即答した。

「行方不明から二日後、この渋谷で女子高生の捜索願出されて、それで今日になって同じ渋谷の路地裏で、若い女の遺体が見つかったってんだからな。異人(ゼノ)で事件にも居合わせることのあるお前たちなら何か知ってると睨んだんだ」


 いくら窓際に追いやられても、警察という組織の方針にただ従うのではなく、目の前の事件に対して、直近に起こった別の事件との関連性も踏まえるなどの独自の推理で積極的に動く。それが刑事蔭山であった。

「情報は少しでも多い方が良い。変わりゆく現状に対処するための武器になるからな」


 以前、花予が話してくれたことがふと頭に浮かんだ。彼の型破りな所は一部の者から評価される一方で、枠から外れているとして組織を重んじる一部の者達からは煙たがられているという。

 懲戒免職ではなく、窓際にされているのも彼のことを評価している者も一定数いるため、そして懲戒免職にしたらしたで、この混沌とした裏社会に精通したこの男はまた好き勝手動く。それが警察の捜査の障害になっては困る。そうなるくらいならば辞表出すまで窓際に置いといた方が都合が良い。というものである。


「何か知ってるというと蔭山さん。昨日のことなんだけどさ、ちょっと聞いてくれない?」

「なんの話だ?」

 関連性があるかは分からない。だが、隠しとくくらいなら喋った方が良いと諒花は話を切り出した。

「昨日、アタシ達は全身が銀色の鎧姿の女騎士に襲われたんだけど、逃げられちまったんだ。たぶん異人(ゼノ)か何かだから知らないと思うけど」

「全身鎧姿の女騎士か……ふむ……まさか……」

 蔭山は顎に手を当てて考え込んだ。


「何か心当たりがあるんですか? 蔭山さん」

 黙っていた零が問うと蔭山は頷き、

「実は六日前からこの渋谷区の東に隣接する港区の暴力団事務所が相次いで何者かに襲撃される事件があってな。いずれも組員たちが残らず剣で斬り殺されていた」

 六日前というと、樫木を倒し、同時に円藤由里が失踪した日から翌日である。

「その女騎士も武器は剣だったんだろ?」

「あぁ、零が迎え撃ったけど、硬いしなかなか強い奴だった」

 そのくせ、ロボットのように言葉もなく襲ってくる通り魔であることも諒花はつけ加えた。


「港区の暴力団を襲った犯人に目星はついてるんですか?」

「いや、そのヤクザ狩りの正体も掴めずじまいだ」

 零の問いに蔭山は残念そうに首を横に振った。


「凶器の共通点から二人を襲った女騎士という線もある。念のため、女騎士の特徴、教えてくれ」

「分かりました──」

 零と諒花が謎の女騎士の特徴を説明すると蔭山はメモ帳に素早く情報をメモっていく。全身が西洋の鎧、声を出してこない、言葉を交わさない、恐らく左利きで左手で一刀の剣を使って戦う、誰かに呼ばれたようにして立ち去って行ったこと──


「ありがとう。もし女騎士にまた出くわして、何か分かったら教えてくれ」

「あのさ蔭山さん。円藤由里を殺したのはその女騎士という線はない?」

「いや、円藤由里は首を絞められたことによる窒息死だ。女騎士ならば剣で殺すだろ。気持ちは分かるが、現状では女騎士の仕業とは思えない」

 諒花の推理を蔭山は腕を組んで首を横に振った。確かに自分は拳を使うが剣は使わない。仮に女騎士がやったならば、なぜ剣ではなく首を絞めて殺したか。それを示す証拠も無い。今は結びつけるのは早計だった。


「じゃあ他にも敵はまだいるってことか……蔭山さんのことだから、誰に何言われてもどんな相手でも捜すんだろ? 円藤由里を殺した犯人」

「そうしたい所だが、今のままではちょいとムリだな。警察は捜査を殺人、死体遺棄に切り替えた──」

 蔭山は悩ましそうにしながら腕を組んだ。

「ところがな、そこにXIED(シード)が介入してきたんだよ」

 そのアルファベットの通称を諒花はよく知っていた。

「母さんの古巣か……!」

 蔭山はそっと頷いた。


 そう、その正式名称は異人(ゼノ)専門捜査局(せんもんそうさきょく)

 XIED(シード)は英名の「Xeno Investigation Expert Department」の頭文字をとったもの。日本の裏社会サイドの警察業務を一手に引き受けている、表社会の警察とは対照的の影の治安を預かる組織だ。

 異人(ゼノ)、そして異能を行使するための道具が蔓延る裏社会。しかし表社会の秩序を乱そうとするものなら、XIED(シード)の存在が必ず付きまとい、逮捕どころか最悪、武力をもって粛清される。この世界の裏と表のバランスを保つ影の抑止力。


 諒花の今は亡き母親、初月花凛はXIED(シード)の捜査員だった。


「もしも犯人(ホシ)異人(ゼノ)であれば、警察は手に負えねえ。だから事件の状況に応じて、公に全てを出せない裏の世界の事件を専門とするXIED(シード)に捜査協力を依頼するわけだ」

 そうなれば警察はディフェンス、XIED(シード)はオフェンスってな、と蔭山は最後に付け加えた。


 蔭山はテーブルに置いてある、湯気の立つ緑茶を啜ると、

「だが、今回は異常だった。遺体が円藤由里と分かって殺人死体遺棄事件として捜査を始めた。捜索願が出されていた段階では警察だけの仕事でXIED(シード)に協力を要請する必要もない段階と踏んでいた──ところがな──」



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