表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/175

第29話

 ひとまず、言われた通りに事件現場の歩道から迂回して学校に向かうことにした。二人並んで歩いてるとさっきまでの喧騒な現場を離れたのを見て、零の方から口が開いた。

「諒花、円藤由里って誰?」

「知らないのか?」

「初めて聞いた」

 零は昔からテレビもろくに観ない。情報もインターネットで仕入れているという。だが、なぜか知らないらしい。唐突に訊いてきた蔭山も蔭山だが。


「先週から行方不明になってるんだと。志刃舘の高校の剣道部主将でハナ曰く、時々テレビで映ることがあるぐらいのちょっと有名人ってやつだ」

「その学校は知ってる。元々は男子校だった。スポーツが凄く強くて、中でも剣道、柔道、空手は折り紙つき。私たちの通う碧庭(へきてい)学園中等部からそこに進学する人もいるぐらいだから」


 志刃舘はこの渋谷から地下鉄二つで三軒茶屋に行った先にある。中学、高校の上には大学があり、その地域近辺の各所には志刃舘の大学、大学院絡みのキャンパスが点在する。

「碧庭は中高一貫高だけど、高校行くにも受験が必要だからな。目指す道によってはそういう選択もありかもな」

「碧庭は諒花の目指した空手、歩美のやってる剣道はあって、その先の大学受験の段階でスポーツ推薦を狙えるけど、それも限られた人間だけ。ならば頑張って勉強して一般でも行けるように頑張るのが良いのかもしれないね」

「やっぱり勉強かぁー、アタシは──」


 常に満点の零とは対照的に勉強が完璧に出来るわけではない。進路の話題は頭を痛くする。

 受験も今はあまり考えたくなかった。現在は十月。もう二ヶ月過ぎれば受験の年が始まってしまう。それでも今は漠然としていてどうすればいいか分からない。まだ裏社会で答えを見つけていないのに。受験から先はまさに白い霧も同然。


 ここで話がいつの間にか話題が学校や進路の話になっていたことに気づく。

「と、いけねえ。円藤由里のことだけどさ、歩美に訊けば何か分からねえかな?」

 いきなり話題を変えたことをムッとした視線で見られているが気にしない。零もこの場での追及を諦めて表情を元に戻し、話に乗ってくる。

「クラス委員長の歩美がどこまで知ってるかは分からないけど、生徒会の仕事で他校の生徒とも交流する機会があるみたいだから、訊いてみる価値はあるかも。志刃舘の中学とも、もしかしたら……」

「それじゃあ、学校着いたら確認してみるか」


 善は急げだ。学校に着くと当然歩美がやってきた。最も、それはホームルーム開始直前。駆け込んできてすぐに机に顔を埋めてしまう。よほど疲れているようだ。しかも鞄を手に持ったまま。

 遅刻寸前の所で駆け込み登校してきたのが丸分かりで教室中が「遅刻かよ」「あゆみん危なかったなー」だのざわつく。


「ホームルーム始めるぞー。席につけー」

 無論、声をかける間もなく、メガネを光らせて担任の荻野(おぎの)が入ってきたのですかさず席についた。が。


 その後も零と二人で休み時間に歩美に聞き込みを狙ったが、休み時間が始まってすぐにもう予定を決めていたかのように、そそくさと歩美は教室からいなくなってしまう。

「歩美!」

 去っていく歩美の背中に向かって、零が呼びかけた。

「ごめん、零さん! 忙しいからまた後でね!」

 その後も次の休み時間も、その次の休み時間も、歩美は何か用事を抱え申し訳なさそうなそぶりで教室から姿を消してしまう。


「クソッ、歩美の奴、そんなに忙しいのかよ今日は」

 教室を出ていくその姿を遠くから見ていた。

 前の休み時間にその背中を二度追いかけたものの、歩美の席が離れていて、かつ教室の入口近くなのもあり、急いで後を追いかけてもその後、どこに行ったのかが全く分からなかった。


 そこに生徒会に確認に向かっていた零が戻ってきた。

「諒花。今日は特に歩美に仕事を頼んだり、会議の予定もないみたい」

「なんだって? じゃあ歩美は別の用事で席を外してるのか?」

「それ以外考えられない。昼休みになれば、機会はあるからそれまで様子を見よう。今の歩美にとっては私たちが迷惑かもしれない」

この時点では、全く想像がつかなかった。

「そうだな。急いでるんじゃないんだし」

 昼休みになると大抵、屋上などで零だけでなく、歩美とも話せることが多い。

「ついでに生徒会にも円藤由里について訊いてみたけど、有力な情報は何も掴めなかった」

「そうか」


 歩美に訊いても返ってくる答えは同じだろう──しかし、当の彼女は朝から様子がおかしい。それもそのはず、今日はいつもと何かが違った。それを確信したのは音楽の授業が終わり、教室に戻って昼休みになった後。歩美の姿がどこにも無かったのだ。

 直前の四時限目の音楽の時は確かにいた。昼休みになれば会えると思って、授業が終わって誰よりも早く音楽室を出て行った歩美を追わなかったのが間違いだった。

 最初は昼休みになったらそのうち歩美の方から来るだろうと思っていたが、昼休みの間も一向に歩美は姿を見せなかった。


「ちょっとアタシ、職員室行ってくるわ」

 痺れを切らせて廊下に出ると、階段を下りて早歩きで職員室に向かう。零も後ろから背中を追ってきていた。

 二人は職員室にいる荻野の座るデスクを訪れた。


「先生、歩美どこに行ったか知りませんか?」


 諒花は荻野に対して開口一番にそう尋ねた──が、直後に想定外の言葉が二人に突き刺さる。


「笹城ならば、四時限目終わった後に体調悪いって言って早退したぞ。いきなりだったな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ