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第25話

「まずは──人狼女、お前からだァ!!」

 シーザーはこちらの動きを読んでか諒花に狙いをつけ、助走から高く跳び上がり、夕闇の微光で輝く両手の四刃を広げ、斬りかかった。

「ほら! 女、守ってみろよぉ!!」

 当たれば上空の四刃によってたちまち傷だらけ。だが、初手のそれが振り下ろされると同時に、無防備となる弱所があった。そこに怯まない人狼の剛拳が豪快に炸裂した。

「ぐはっ……!」

 凹まされた痩せ型の腹部。そこから一気に全身へ伝わる痛みは胃を通って喉を突き抜け、白目を向き、口を大きく開けさせた。彼は諒花を狙えばこちらが前に出てくると読んだのだろうが、その必要はそもそもなかった。大きく吹き飛ばされて背中から全身を打撲、倒れ込んだ先の落ち葉が舞い上がる。が。

 普通の人間なら即ノックアウトだろうが、これで終わりではない。やはり奴はこの程度では倒れず、すぐに仰向け状態から立ち上がった。


「バーッハハハハ! ワンパンで終わるオレじゃねえ!! 今度はこれはどうだ? シザー・クロスカッター!!」

 放たれたそれは両手のハサミを交差させた摩擦から、左右挟撃の三日月の斬撃を繰り出す技──ではなかった。

 緑のオーラを纏ったハサミを交差させ、集中して力強く繰り出されたそれは、二重に連なった巨大な三日月型の斬撃を一直線に飛ばすもの。正面からマトモに食らえば最悪、斬撃で胴体を切断し、集団で食らえば、それはそれは酷い肉片の山へと変えてしまう。

 その標的は無論、諒花だった。奴はこちらを守る動作に誘導する以外にも、最初に因縁の彼女から葬り去る魂胆なのは明確だった。


 だが──そんなことはさせない。

 零が瞬時に諒花の前に現れる。そっと目を閉じて自らの双剣に念を送ると漆黒の刃は白い光に包まれ、駆けて描かれる聖なる斜線は二重の三日月型斬撃を一瞬で引き裂いた。

 辺りに散った残光にシーザーは唖然とした。


「零、サンキューな」

「気にしないで。これぐらい当然」

 零さんカッコイイーと後ろからの歩美の黄色い声援が聞こえながらも、互いに息をピッタリ合わせる諒花と零。


「馬鹿な、オレの最強の遠距離攻撃が破られただと!? クッソォーあの女、そんな技持ってたのか……小癪なマネをしやがる!」

 ──来る。

「諒花、ここは任せて」

 両手のハサミを前に出し、獲物を狙うザリガニのように迫ってくるシーザー。あのハサミは挟まれればこちらの剣も切断する馬力があることは前の戦いで分かっている。

 剣を決して挟まれてはならない。黒剣が一度破壊されて、再び出現させるのにもチカラを消耗する。無防備になって全てが終わりだ。


 大ハサミを使った計四つの刃を巧みに操る、斬撃のまた斬撃。剣を交差させ、両方から挟み来る刃を二刀の剣で同時に受け止めて、挟ませない。奴の餌食にはならない。

 危なくなれば一旦後ろに跳んで距離をとる。そして再度攻撃を仕掛ける無限の刃との根比べ。

 こちらは内側からチカラを使って武器を召喚する一方、シーザーは手そのものが能力で武器に変化している。弾き飛ばして無力化することは出来ない。自らの肉体を強化し、変化させて戦うチカラはそういう意味でも白兵戦に分がある。


「ちょっとは剣の訓練でもしたか?」

「諒花は私が守らなければならないから。でも今は──歩美を巻き込んだあなたを許さない。歩美は私に大切なものを沢山くれたし教えてくれた」

「……グッ、悪かった──だが、戦いの中でそれとこれは話は別だァ!!」


 その友達思いの真剣な眼差しに怯み、先ほどの突き刺さった猛烈なショックが浮かんで謝る。が、再びシーザーの斬撃が次々と零に襲い掛かる。獲物に食いかかるように。

「人狼女に負けた後、オレを買ってくれたレーツァンからも見捨てられた。この世界は勝ち負けで決まる残酷なもんだ! 時に負けで多くのものを失う。その現実も受け入れないとやっていけねえ!」

「けどよ、オレはいっぺんお前らをこの手でブチのめさねえと満たされねえ!! 負けたことがとにかく悔しいんだよ!!」

 激しい斬撃と言葉でショックからの謝罪を訂正してまくし立てまくる。零はそれらを巧みに防ぐ。

「気を満たすためなら、手段は選ばない……か。なら私は大切な友達に手を出してきたあなたをこの手で倒す……!」


 互いに火花を散らす二刀の黒剣と両手の大バサミ。零の二刀の剣の刃が発光するとシーザーは一歩後ろに退いた。

「零!!」

 そこに諒花が追い打ちをかける。飛びかかって繰り出される人狼の拳。それを避けてシーザーは充分な距離を取ると、


「甘えんだよ!! 潰れてしまえ!! ギガンティック・シザー!!」

 振り上げた右手のハサミが巨大化を始めた。二倍、三倍と大きくなったハサミはもはや破壊力と重さがケタ違いの巨大な斧だ。その重みから叩き込まれようとする一撃は大地をかち割り、眼前の全てを粉砕する。その常人には到底無理な重りを叩き込もうとする彼の実力もかなりのものだ。


 隣にいた諒花の目を見た。するとそれを見た彼女もうんと頷く。分かっているようだ。今にもその巨大バサミを振り下ろそうとするシーザー。


「バーッハハハハハハ!!! この森ごと、ペチャンコになれー!!」

 高らかに振り上げる巨大ハサミを振り下ろしてくるシーザーの前方に二人で突っ込んだ。

 パワー全開の攻撃にも分かりやすい決定的な弱点はある。重さをかけるということは繰り出す速度がそれだけ落ちるということ。


「ぐはあっ……!」

 クワガタの描かれた緑の長袖シャツを着た無防備な上半身を二刀の剣をクロスさせて引き裂くと、やはりコントロールする余力を失い、奴はバランスを崩し始める。

 不安定なバランスを支えきれず、倒れこむ顔面に人狼少女の鉄拳がちょうど直撃し、豪快に吹っ飛ばされ、空気の抜けた風船の如く、巨大化していたハサミもみるみるチカラを失ってしぼんでいく。

 そして、またしても途中にある落ち葉が舞った。何とも、あっけない。


「やった……か?」

 諒花は遠くから仰向けに倒れている彼の様子を遠くからうかがう。

「ぐっ……グ……」

 ──まだだ。

「バーッハハハハハハ!!! まだだ!! これで勝ったと思ったか!?」


 むくりと起き上がり、再びハサミとなった両手で構えた。頭から血を流し、左目の瞼を通って、顎の下に赤い水滴が落ちた。

「ところで、お前らマ──樫木の奴に勝ったんだってな?」

 何かを言いかけたが、シーザーは続けた。恐らく下の名前で呼ぼうとしたのだろう。

「あぁ、アタシと零であの透明野郎はぶっ倒したぜ!」


「面白ェ……! やっぱりか。お前らを倒せば、リベンジを果たせるだけでなく、オレはあのメガネも超えられるってわけだ!!」

 したり顔で獲物を狙う目でこちらを見るシーザー。樫木とはどういう関係なのか。

「待って。その情報はどこから仕入れたの?」

「バーハハハハ!! お前らのことは裏の界隈で話題になってるんだぜ? つええ人狼女と眼帯の女剣士がこの渋谷にいるってな!」

 降りかかる火の粉は払わねばならぬとはいえ、懸念していたことが現実となった。裏社会で大きく名をあげていた大物を二人も倒したということは、それだけこの世界において注目を集めるということ。

「歩美をさらってまで私達を誘き出したのもそういうことね。他の連中にとられないうちに……!」


「そうだ。お前らが他の奴にやられでもしたら困るからよォ、先にここでオレがお前らを倒す!! 覚悟しろ──」


 その時、彼は全く気づいていなかった。背後に忍び寄っていたものに──


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