第20話
最初に花予を見た時、とても知的で穏やかな人という印象を受けた。
──実際は俗に言うゲーマーという意外な人だったけど。
紫水晶の如き双眸を持った諒花と似た同じ色の瞳を持ち、髪も彼女に似た色に独自のウェーブのかかったふんわりとした長髪、そして整った顔立ちに桃色の眼鏡をかけている。それらが調和し、おしとやかで優しいしっかり者な雰囲気を醸し出している。
初月花予と初月諒花。端から見ればまるで姉妹かと間違えるぐらいの美しさのある二人。これだけならば、親子ですと言われてもその見た目の共通点から納得がいくだろう。
そう、見た目だけは。
実際は違う。上官から提供された資料で零は知っていた。この二人は血の繋がった親子ではない。
では、あの花予の娘そっくりな髪の色や双眸は何なのか。理由は単純である。
花予は諒花の実母の妹なのだ。厳密には親子ではなく、叔母と姪の関係。花予は彼女の育ての親をしているにすぎない。
では肝心の実母は何処へ行ったのか。真実は残酷だ。実母は諒花を産んでその後、夫婦共々交通事故で亡くなっているからだ。そこから奇跡的に諒花だけが生還した。まるで、二人が我が子を守って死んだように。
花予に訊けばその生々しい詳細をもっと話してくれるのかもしれない。しかし、これまでの自分にはなかった新しい発見をくれて、自分の存在意義や飢えている感情による苦痛を和らげてくれる花予にそれを軽々しく訊く覚悟は出来なかった。
元々与えられた任務は監視活動及び護衛。全く関係のないことだ。よそ者が興味本位で軽々しく訊くものではない。
異人──稀異人として生まれた娘を引き取って育て、更には自分にも理解を示して優しく接してくれるのは、相当な何かがあったのかもしれない。
「ねえ、零さん。そろそろわたしにもやらせて♪」
考え事をしながらゲームを黙々と回していると、隣に座って自分のプレイを眺めていた歩美がねだってきた。ここに帰ってきた時、なぜか歩美は連絡無しに一足先にお邪魔していてこちらを待っていたのだ。
花予曰く、たまには一緒にどうかと思って足を運んできたらしい。
「いいよ、歩美。あ、今のでМPが底をついたから宿屋に泊まるの忘れないでね」
コントローラーを歩美に手渡した。
「はーい」
代理プレイしているこのゲームは現在、ラスボスである魔王が鎮座する城の近くだ。それを倒し世界を救い、エンディングを見るためには修行という名のレベル上げが必須であった。
ラスダンである魔王城には回復ポイントもセーブポイントもない。道中を阻む、いかにも以前戦ったことのある強者達と同じ顔をした量産型の群れをなぎ倒し、魔王がふんぞり返っている部屋を目指す構造だ。
しかも魔王は七回変身する。瞬殺されないためには充分なレベルと装備が不可欠であった。今の黙々としたレベル上げは装備品を揃えるための金策も兼ねている。
「それでねー、零さん、聞いてよ」
ゲームをしながらノリノリと歩美の口が動く。
歩美も昔このゲームをやったことがあるらしく、今戦おうとしているラスボスには更に影の黒幕がいるだとか、クリア後に更にダンジョンがあってそこにいるボスを特定のターン以内に倒すとご褒美がもらえるとか、自分が体験したことのない楽しい思い出話に耳を傾けつつも、ふと諒花の方を見た。
樫木に撃たれた左肩を癒すためにソファーで安静にしながら、小さい額縁に入れられた写真を眺めていた。
その近くにはさっきまで使われていた小型の鉄アレイが置かれていて、ちょっとした怪我でも身体を常に動かしていたい彼女の性分がよく分かるものだった。