第18話
ここから第二部です。
闇夜に包まれつつある薄暗い森の中。景色が黒一色に染まりつつある中、秋風で木々がざわつき、双方の刃が交錯し衝突する──
「くっ……あなたはいったい……」
顔を確認しようにも兜で口元以外が隠されていて、その正体は掴めない。相手の剣撃を防ぎながら、目元を覆う兜の隙間から、こちらを見る双眸を見つけることも出来ない。
黒條零と剣を交えるのは、この現代社会にはそぐわない格好の騎士。全身を西洋の鎧に身を包み、華奢な体躯、太ももの白い肌、膨らんだ胸部の形。ここから中身は女性だということは分かる。
二刀の黒剣を使うこちらに対し、女騎士は一刀の剣を両手で構え、勇猛果敢に怯まず切り込んでくる。戦いの中で生まれる刹那の隙が勝敗を分ける。隙を作らず、止まない剣撃を受け止めていく。その振り下ろされる一刀から伝わる、異様な重みを感じながら。
剣を振る掛け声も無い。攻撃的で重く冷徹な刃を機械的に容赦なく振り下ろしてくる様は、まるで無人の殺人兵器を思わせる不気味さが伝わってくる。
「零! どいてろ!」
背後から人狼の拳で飛び出したのは監視対象の彼女。その勇敢な言葉を耳にして、一旦、間を取ると彼女の青白く燃える人狼の拳が女騎士に迫る。
非常に鋼鉄な鎧だ。重々しく、強力で得体の知れないチカラがオーラとなって全身を覆っているのを間近で剣を交えて感じた。更に優れた一刀流剣術も相まって、こちらの攻撃を殆ど受け付けない。
しかし、彼女の──初月諒花の剛拳ならば、その防御を打ち破ることが可能かもしれない。
監視対象を死なせてはならない。何があってもこの身をかけて守らなければならない。しかし、彼女には背中を預けることもあった。これまで何度も助けられてきた。時には頼ることも必要だ。突如現れた謎の敵を撃退する一筋の光を期待して──
──二人はこの時まだ知らなかった。これが新たなる序章の始まりだということを。