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第155話

「クッ……フフフフ……いいだろう。今更逃げも隠れもしねえ。トロフィーの代わりに教えてやる。おれはもうじき死ぬんだ」

 どうして死を恐れる事もなくこの男は、こんなにも無邪気かつ愉快に笑っていられるのだろう。見ていて不愉快になる。


「まず、お前の両親と恋人の命を奪ったのはおれ様だ!」

「知ってる。邪魔だから消す必要が出てきたって言ってたよな? なんで殺したんだ。なんでなんだよ? 死ぬ前にそれを教えろ!!」

 苛立ちとともに湧き出てきた並々ならぬ怒りをぶつけた瞬間、次々と脳裏に犠牲になった大切な人達の顔が浮かぶ。その笑顔と未来を奪ったのだ、この男は。


「おれの目的のためだよ、諒花、お前を欲しがっているのはな、おれだけじゃねェ。()()()()いるんだ」

「おれだけじゃない!??」

 思わずそのまま返してしまい、目を丸くした。これまで、事件の裏から糸を引いていたのはこの男だ。一番の巨悪はコイツなんだ。コイツしかいないはず。


 なのに、ここに来て、更なるもう一人がいる。それは一体誰なのか想像もつかない。一つ言える事は敵であり、レーツァン同様に自分を欲しがっている。


「そうさ……おれの目的はそいつを後ろから突き落とし、全てを奪う事だ。お前のママやパパや恋人の命を捧げたお陰で、今おれはそいつに近しい立ち位置にいるのさ」

 コイツの背後にもう一人いる。裏社会の帝王レーツァンをも動かす強大な黒幕というべき存在が。そして三人の命を奪った遠因とも言える。


「誰なんだそいつは!? 言え!!」 

「すぐ分かるさ。既にそいつの息がかかった奴が、お前のすぐ近くにいるんだからな」

「なんだって……!」

 不敵な笑みを浮かべて出たまたしても衝撃の事実。敵はすぐ近く、あるいは身近などこかにいる。それは表面的には味方なのか、これまで顔を合わせた事のある中に紛れているのか。考えた途端に寒気が走った。


「その黒幕と、そいつの息がかかった奴は誰なんだ!」


 黒幕の手はもう、すぐ傍に迫っているのかもしれない。対処のためにコイツから聞きださなければならない。それを問おうとその胸ぐらを掴んでやろうと手を伸ばした時──


「うわあっ!」

 大の字で倒れているレーツァンの全身が、突如激しい緑炎が燃え上がって追わず両手を離す。その身体が緑炎の火だるまになっていく。


「グッバーイ……! タイムオーバーだ。こっからはその綺麗なお前の目で直接確かめな!?」

 そう言いながら向けられた紫の爪先の人差し指。

「そうだ、翡翠にでも訊いてみたらどうだ?」

「おい、待て!!」

 自らの炎で自分を飲み込み、跡形もなく消えてなくなるようであった。


「諒花よぉ、最期におれはお前に殴られてハッピーだったぜ……あの世でお前のママとパパに会えたら伝えといてやるよ……お前らのガキは最高に良い女になったってな──!」


「フヒャーッハハハハ……! アハハハハァ、アーーッハハハハハハハハハハハハ!!!」


 激しく燃え上がる緑炎はより激しさを増し、高らかに笑い続ける彼の身体を完全に覆うと、そのまま勢いを失ってひとりでに炎は地を焦がす事もなく消えていく。

 彼の亡骸は一切無い。焦げ跡もない。混沌に抱かれ、消えゆく笑い声とともに大地へと還っていく。


「待てっ! くそおっ!」

 消えた後の草むらを握りしめるも、そこには彼の姿などない。あの変態ピエロの影に一体誰がいるというのか。


 裏社会の帝王の上でふんぞり返っている、もう一人いる黒幕とはいったい誰なのか。そしてその息がかかった奴とはどこの誰なのか。


 結局、自分の両親と恋人が殺された理由は何なのか。あの変態ピエロがのし上がるために殺したとはいえ、ハッキリとした経緯も具体的な理由も分からないままだ。


 たまらない悔しさで強く歯を噛みしめる。すぐ目の前に見えていたゴールが更に遠のいた事を事実上告げられた。

 それにまるで勝ち逃げみたいな態度。因縁の相手に勝ってもそれはただの序章に過ぎなかったことを突き付けられたかのようだった。


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