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第154話

 これは、滝沢翡翠が『この戦いは本当に終わったのか?』と、疑問を抱いた少し前のこと────



 天よりの蹴りで大きく落下し、大きなクレーターが森の中に開いた。その真ん中には大の字で倒れて動けない裏社会の帝王の姿があった。


「フヒャハハハハハ……」

 諒花がその倒れている所へ近づくと、静かにかすれた声で笑う帝王──レーツァン。


「ブラボー……諒花。このゲーム、お前の勝ちだ……! おれ様の挑戦状を受け……よくぞおれ様を倒した……! プハッ!」

 こうなってもなお、不気味な笑みを浮かべているその紫色の唇がベットリと吐血によって赤く染まった顔はとてもグロテスクで恐ろしい。最早、人間と思えない。


 着ている派手な服も輝かない金髪も、全てがボロボロになり、不気味に膨れ上がった右目はヒビが痛々しく入っている。あの怪しく光ってこちらを惑わす不気味な眼差しは生来のものではなかった。


「その眼……作られたものだったのか」

 既に生ものではなく人工物である事を決定づけている。

「ああ。稀少な異原石ゼムライトを使って出来た、おれだけの特別な義眼()だ」

異能武器ゼオプロや歩美の着てた鎧と同じか」

 義眼という純粋な武器ではない、異原石ゼムライトで出来た特別な代物。ここまで来るともう何でもありだ。異原石ゼムライトを使えばもう何でも出来るのだろう。


 さしずめ義眼に使われた石には、見た者の精神を惑わす効果があるのだろう。その魔眼で睨まれた時、目の前にいたはずの奴の姿が急に見えなくなったとこちらに錯覚させた。かかっていなければすぐ目の前にいるのに。

 それだけではない。そのチカラで両親が死んだあの車の追突からなる交通事故を起こした運転手、更には歩美と円藤由里を操って手駒にし、事件を起こさせた。まだまだコイツしか知らない、かつコイツしかやらないような使い道があるのかもしれない。こんなにも悪用出来る強力で恐ろしいチカラは皮肉にもこの男の性格をよく表している。


「もう(コイツ)で遊んでやる事も出来ねェな……だが良い!! お前という存在におれごと打ち砕かれたのならば、ワケが違う!」

「変態ピエロ……なんでドヤ顔で笑ってんだよ」


 時計塔から落下し、その上豪快に叩きつけられたピエロ。ここまで多くの者を利用し、自分のやろうとしていた計画を潰され、あまつさえ帝王として戦いに臨み、このように無様に敗北したのだから、負け惜しみの一つや二つ出ても不思議ではないはずだ。

 にも関わらず、このピエロは自ら負けた事を素直に受け止めるだけでなく、この状況を戦う前と同じく愉快そうに笑っている。この戦いはまるで逆に自分の勝ちだと言えるくらいに。


「言っただろう? おれはお前のチカラをこうして見れるのがたまらないと。生まれながらにママを超えた、稀異人ラルム・ゼノであり、異人ゼノとして大きな素質を持ったお前と殺し合ってこうして倒される事は……逆におれが勝って、この街を破壊し、ハナの命をもらうよりも実は千倍もの価値があるのさ!」

「つまり、お前は本当はアタシの事を最初っから試していたっていうのか?」

 コイツは昔からこちらをずっと見ていたと言っていた。それは間違いないだろう。虫唾が走る。コイツのせいでどれだけ……


「そうだ。だが手を抜いてわざと負けてやったわけじゃねェ。お前自身がそのチカラでおれから勝ち取ったんだ」

 その褒め言葉も、全くそうとは聞こえない。称賛されても、それは結局このピエロの思惑通り。


「おれ自らが出向いて挑戦状を叩きつけ、女騎士事件を起こしたのも、おれがここまで裏で糸を引いてお前に仕掛けてきたこれまでの総仕上げさ。おれをぶっ倒してでも、おれを阻止出来るほどの根性とチカラがあるかを試すためにな」

「逆にアタシが負けていたらどうなっていたんだよ?」


「そんなもの、負けてもお前はおれの女に変わりねえ。だがな、おれに負けていた場合はチカラや可能性はあっても、所詮はその程度どまりだったという事だ。同時におれの見込み違いだったってな。たとえアイツ(初月花凜)の娘でも」

 つまりは負けていた場合は一生このピエロといちゃつくだけの女にされていたという事になる。


「改めて称えよう、コングラチュレーション!」


 全然嬉しくもない。釈然としない。

 この男は、こちらを自分の女にすると戦う前から散々言ってきていた。その執着力ゆえにこの戦いは絶対に落とせないはずだ。

 にも関わらず負けた事を自ら喜び、笑い、こちらを祝福し、実は試していたと吐いている。これまではそのふざけた見た目らしくジョーク、軽い冗談だったのか?


「ん? 頭上にクエスチョンマークが出た顔をしているな? 安心しろ、おれがお前を手に入れたいのは本気だぞぉ? むしろ今ならばより高みに上ったお前が欲しいぐれえだ……!」

 その悪魔のような目つきが一瞬、ますます気色悪く嫌らしいものに変わった。

「うわっ……誰が安心なんかするかよ! アタシが欲しいと言いながらも実は試していたワケ、聞かせてもらおうか。もう逃げられねえぞ!」


 本当に欲しいならば腕づくでも奪いに来るはず。現に最初はそう見えていた。だがこうして倒してみると、それらも全て自分を止められるかを試すための演出の一部だったと言っておきながら実は本気。

 欲しいと言いながらも実際は試していたと言い、結局この男は何がしたいのか。ただのこの時を愉しんでいる変態ストーカーピエロなのか。



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