第151話
「初月流・真・魁狼正拳!!」
諒花の体中から猛烈にチカラが湧き上がってくる。燃え上がる。首の赤いチョーカーを外した事で奥底から解放されたチカラが一気に燃え上がる。青白い満月の如く輝く光弾が強大となって剛拳から放たれた。前にシーザーに放った時以上の光弾は地をなぞりながら、レーツァンに襲い掛かる。
「いいぞ……そうでなければなァ!」
レーツァンは飛んできた渾身の光弾をそっと左手を前に出し、横に振ると光弾は軌道を逸らして後ろに飛んでいき、混沌の結晶の壁に激突して爆発、結晶の欠片がいくらか降ってくる。
「フヒャハハハハハハハ!!」
レーツァンの両手が緑炎に覆われ、カニの手の形になり、飛び掛かってくる。後ろに跳んで奴の着地地点から距離をとる。
「これは……カニ野郎の真似か!」
「ただのパクりじゃねえぜ食らえ!!」
緑炎で模倣された両手のハサミが口を開くと、そこから緑炎の塊が連続してバカスカバカスカと放たれる。さながら二本のバズーカ砲のよう。緑炎の塊はこちらに狙いをつけて追尾してくるホーミング式。この避けられない攻撃は今に始まった事ではない──冷静に。
「……一つ! 二つ!」
人狼の拳で次々と飛んでくるそれらを正拳突きで砕く──そうだ後ろだ。と、背後に徘徊していた塊も砕く。更に続く砲撃も次から次へと砕く。
「フヒャーッハハハ!!」
漂う緑炎を全て排除すると、レーツァン本人が突っ込んでくる。ハサミのままで突っ込んでくるのかと思いきや、再び緑炎が奴の手で燃えると細長い三日月型の大鎌を出現させた。その姿はさながら死神。
「今度は樫木か! まるでアタシが今まで戦った相手全員の真似しているみてえじゃねえか!」
「お前が今まで戦った奴らの事も、おれにはいくらでも分かる!」
当人が使っていた小さい鎌よりも大振りが冴えるその大鎌が振り下ろされると、三方向に地面から連なる状態で連続した衝撃波が噴き出してくる。振り下ろされた先の地面から混沌のエネルギーが連続して噴き出してくる。恐怖の連鎖が諒花に迫る。
「野郎!」
地上では食らってしまう。高く跳び、空中から飛び掛かる。しかし、レーツァンはその大鎌で障壁を作り、繰り出した空中からの鉄拳を防いだ。ゴリ押してもこれ以上打ち破れない。諒花は背後に跳んで再び距離をとった。
「これは……零の技!」
「そうさ。お前の相棒──いや御守りの得意技さ」
幾度もピンチを救ってくれた零の障壁。だがコピーではない。真似をしているだけ。が、それでもその防御力の高さは本人と殆ど同じだ。
奴はデタラメな混沌のチカラを自在に操る。そしてこちらにゆかりのある人物の技をチカラを意図的に真似して追い込む。
今はそういう腹積もりなのだろう。さっきまでは全くして来なかったのだから。ここが最終決戦の場ゆえか、青山ごとこちらを派手に終焉させようとしている。どこまでもふざけた男だ。
「逃げても無駄だ!」
レーツァンが一つの緑に黒いブチ模様の球体を宙に放り投げるとそれは十倍にも巨大化して空中に止まり、レーザー光線を照射してきた。それは適当かつデタラメに四方八方を蹂躙し、地面に跡を残し、地面を撫でるようにレーザーを照射してくる。
「なっ……!」
こちらに照射されるレーザーを跳んで避け、更に着地した直後に降ってくる光線も避ける。このままでは消耗させられる。これは翡翠の植物から放つ技を意識しているのかもしれない。
サーチライトの如く、左斜めから狙って放たれる光線を避け、また逆から飛んでくるそれも避ける。レーザーを撃ちまくりながらグルグルと回転する球体の真下に立って微笑するレーツァン。
「フッ……フッフッフッ……!」
その動きを見逃さなかった。これまでの行動から、奴はこちらが近づいてくると決まって、左手から緑炎を放って反撃してくる。その時左手はこちらの顔から胴体に向けられる。
今度もそうだった。なので目掛けて放ってきたそれを──
人狼の拳で貫いた。そうして出来た隙を諒花は見逃さなかった。
「な──!」
一瞬だけ怯んだ諒花の豪快な拳が、白と黒で分けられた面で覆われたピエロのふざけた顔をぶん殴った。同時に浮いている球体の動きも止まる。殴られた右頬を右手で抑えながら距離をとってこちらを見るレーツァン。
「クッ……フッフッフッフッフッ……フヒャーッハハハハハ!!」
「何がおかしい!」
「いやあ、たまらないんだよ。花凛から生まれたお前が、これほどのチカラを持っていてそれをこうして間近で見れる事がな! お前は戦えている。そのチカラで。それが今まで封じられていたのも納得──ぐはっ!」
そうして笑う彼の顔を高速でぶん殴ると、彼は大きく吹き飛び仰向けに倒れこんだ。駆け寄って胸ぐらを掴む。
「お前がアタシの母さんと、父さん殺さなきゃ、こんな事にはならなかったんだよ! それなのにお前はアタシのことを自分の子供のような目で見てやがる! アタシの事を嫌らしい顔で見て、懐かしんでるお前、気色悪いんだよ! アタシの大切な人を消す必要があったとかふざけた事言いやがって! アタシから奪ったもん返せよ!!」
「フフフフ……大人の事情ってもんがあるんだよ……お嬢さん!」
「ふざけやが──うわあっ!」
突き飛ばされて諒花は尻餅をつく。再び立ち上がるレーツァン。
「今ので残り六分切ったぞ!」
宙の上に浮いていた、先ほどまでレーザー光線を四方八方に放っていた球体にレーツァンが手を向けるとそれは諒花に向かって一直線に落ちてきた。
ズドーーーーーーン!!
落下してきた球体を何とか避ける。その球体は間近で見ると圧し潰されれば全身がペチャンコになってしまうほどの重さがある事を実感させる。
「うわああっ!!」
すると動かないと見ていたその球体が突如高速で体当たりを仕掛けてきて、諒花は再び突き飛ばされた。するとその球体は縮小してレーツァンの手元に戻っていき、彼はそれをタイミングよくキャッチする。
「諒花。キャッチボールは好きか? おれ様の剛速球受けてみろォ!!」
片足をあげて左ストレートに投げられたその玉はこちらに向かって飛んでいる最中に再び巨大化し、大きさは変われど小さかった時の速度をそのまま継承し、倍増した威力でこちら目掛けて飛んでくる。打ち返すしかないと人狼の拳をタイミングよく前に出した時。
高速で飛んできた巨大な球体が諒花に当たる直前で、それは縦に真っ二つに裂かれた。
「えっ?」
スタっと、その前に現れるように綺麗に着地したのは──
「諒花は──私が守る」
「零!!」
親友であり相棒の姿がそこにあった。二刀の黒剣を手に構えている。
「クソッ! 良い所だったのに」
ここに来て心強い味方が現れてくれた。二人で力を合わせれば残り五分近くでも倒せるかもしれない。
「お前……ここにいるという事は歩美に勝ったな?」
その言葉を聞いて諒花は安堵する。どうやら女騎士にされて戦わされていた歩美は零が助けてくれたようだ。
「ええ。あなたが歩美にかけた洗脳も解除した」
「零! 歩美は大丈夫なのか?」
すると零はこちらを一瞥して頷き、
「屋敷の外で待ってた蔭山さんに預けてきた。後は彼を倒せば、この戦いも終わる」
再びレーツァンのいる方向を見る零。
「よーし! 二人で絶対にあの変態ピエロぶっ倒して帰ろうぜ零!」
唇を噛み、さながら狼の如く、怒りの目でレーツァンを見る。
「時間も残り少ない。行くよ、諒花」
零が来てくれた今、勝機がグッと見えてきた。ここまで来たらもう勝つ以外ない。
『お二人とも。盛り上がってる所恐縮ですが、残り時間が一分を切った所で、時計塔を爆破する事にしました』
タイミングよく横から入る翡翠の声。勝さんに時計塔にダイナマイトを仕掛けさせたと付け加えて。
『諒花さん、生きて帰ってきて下さいね。五分切りました』
「分かってるよ」
危機的状況なのにマイペースに喋れる翡翠の神経は置いといて、目の前に集中する。この状況になってもまだ何か隠し持ってそうに不敵な笑みを浮かべるこの男に。




