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第147話 

 青山の女王により与えられた十五分の休息時間。初月諒花は植物ドームの中で体育座りをして膝に顔を埋めて考えていた。

 この戦いに終止符を打つ鍵は世界のどこを探しても無い。だがそれは自分の中にあった。首にしてある赤いチョーカーによる封印。それをどうするのか──


『……十五分経ちました。どうです、考え直せましたか?』

 天井から降ってくる、女王こと滝沢翡翠の落ち着いた声に顔を上げる諒花。

 

「……ああ」

 十五分考えた結果、答えはもう頭の中に出ていた。時間を確認しないでずっと視界を闇で覆った十五分という時は長いようで短い。あっという間だった。


「この戦いを終わらせるには、もうアタシがこの手でやるしかねえ。踏ん切りはついた」

 首にしてあるコレを外せば、あの変態ピエロ(レーツァン)を倒すチャンスにグッと近づく。これまでの敵以上に強力なアイツともう一度戦える。

 覚悟はできた。だが、今は外す時ではない。外せばこの身がどうなってしまうのかも全く分からないからだ。しかしこの眠りしチカラを解き放つのは奴との戦い以外にない。


『では、そこから急いで時計塔に向かって下さい。今ならばまだ追いつけるはずです』

「……ああ」


 翡翠によって形作られた植物ドームがその形を崩して地に戻っていき、緑炎が煌めく世界が見え始めると諒花はすぐに立ち上がり、走り出した。屋敷の裏にある、都市と緑の融合した青山を一望できる、一つのシンボルでもある時計塔のある方角へと全速前進にひた走った。


 緑炎が激しく燃え立つ森を走っているうち、この十五分のことが脳裏に蘇ってくる。首にしている赤いチョーカー。

 これまでの長い間、幼少の時から自分の中に眠っている、強力すぎるチカラを抑制し、制御しやすくするためにつけているものだ。チカラに飲まれないように守ってくれる。早い話、アクセサリーというよりも生活を補助する医療器具に近い。


 そのストッパーを外す事で、これまで長い間ずっとこれまで抑えられていたチカラが解禁される。そのチカラは翡翠よりも強く、彼女曰く稀異人ラルム・ゼノの中でも特に強力だというレーツァンとも渡り合えるほど。想像も出来ないモノが眠っている。


 自分のチカラで解禁した事もない部分であるそれは、身近に見えて実はそうじゃない。得体の知れないものと思うと途端にチョーカーを外す事に躊躇いが生じた。封印を施されるほどのチカラを果たして制御出来るのか。あのピエロには勝てても、持つだろうか。この身体が。


 もしも制御出来ずにチカラに飲まれて暴走でもしてしまったらどうなる? 死ぬのか? それとも今の自分ではなくなってしまうのか?


 ──それだけは嫌だ。


 帰ってこれなくなる。待っている誰にも顔向け出来なくなる。隣にいてくれた零だけでなく、花予にも。みんなにも。リスクを伴うくらいならば、こんな危険なチカラを使わないであのピエロを倒す方法を考えた方が良いのではないか。


 いや、それもダメだ。時間は有限だ。戦いの中でモタモタしていたら、奴の宣言通りに花火が打ちあがる。それが上がった時、この場所はどれほど痛ましく残酷な世界になってしまうのか。それを阻止する鍵もまた、この喉元にある。


 奴とはこうして相まみえる事が、一番最初から確定していたのかもしれない。物心つかない時に両親は交通事故で亡くなり、小学校の頃の恋人も一家全員が火事で亡くなった。それらは不運にも起こってしまった事故と思っていた悲劇──と思っていたが実は陰で演出し、裏からあれこれ仕組んでいた史上最悪の黒幕がレーツァンだった。


 奴はずっと遠くからこちらを見てきたとも言っていた。裏から一つ一つを仕組み、筋書き通りに事を運ばせた。奴の最終目的はこちらを自分の女にすること。こちらのチカラを買い、この可笑しな世界をとろうとも言っていた。その先の事は分からない。だが、そんな事は今は考える必要はないだろう。


 この戦いは滝沢を、ひいては青山を救うためだけのものではない。ここで奴を倒せなければ、全てが奴の思い通りになってしまう。奴の言う、花火によってこの一帯が攻撃されるだけでなく、花予も実質人質にとられている。


 負けは許されない。絶対に負けられない戦い。その過酷な一戦を首元にあるコレを外す事で終える事が出来るのであれば──もう迷う必要はない。もし病院で療養とかする事になっても仕方がないことだ。


 走りながら首元についている赤いチョーカーに右手で触れる。湯船に浸かる時やシャワーを浴びる時も殆どつけたままのコレを、外すのは恐らくこれが初めてだ。


 やるしかない。この状況をどうにか出来るのは、内に眠る、この更なる人狼のチカラだけだ。意を決して走る足の速度が上がる。



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