第140話
「わたしがあなたに助けを求めてる? ハッ、冗談はやめなさいよ!」
虚勢を張り、一旦は乱れた心を振り払い、一刀の剣で斬りかかってくる歩美。こちらがかける言葉を受け入れたくない。戯れ言など聞きたくない。そう意志を示すように。
横振りの一撃を二刀の黒剣で防ぎ、互いに交錯する鍔迫り合い状態となる。油断すれば押し切られる。それぐらい今の歩美の剣には異様すぎる圧がある。
「歩美──」
「やめて!!」
歩美の持っている剣から突如、稲妻が走る。再び説得に乗り出そうと口を開いたのを読まれた。
「うわっ!!」
走る稲妻の発光の衝撃で思わず後ろに吹っ飛ばされ、尻餅をつく。
「わたしはあなたの友達なんかじゃない──」
こちらを斬ろうという思いに呼応し、その両手に握られし剣が赤、青、紫、黄、緑、水色、朱色、黒、白と、形容しがたい色とりどりの光を帯び始めた。
混ざり合う色の一つ一つの正体はその剣で今まで斬られた者達の持っている異源素だ。それがこちらに牙を剥くようにその刃で輝く。今までは潜んでいたチカラの本性が目の前に現れた。
普通の人間も異人も関係ない。とにかく今まで斬った者ひとりひとりに宿っているもう一つの魂とも言うべきエネルギーの断片がその剣には宿っている。
円藤由里の分も入れて、何人この剣で斬ったのかは想像もつかない。斬った数は異人よりも何もチカラを持たない普通の人間の方が多いだろう。
普通の人間でも本来ならば到底チカラにもならないくらい極小な異源素がある。だが何十、何百の普通の人間から異源素を抽出し、そこに元々強い異源素を持ち、チカラを操るがゆえに異人と呼ばれる者達の異源素を重ねれば──
そのエネルギーの質量は想像もつかない。もうその一太刀で敵だけでなく、眼前の世界を構築するもの全てを消し飛ばしてしまうかもしれない。
──いけない。
歩美の剣に様々な色をした無数の異源素が集中している。急いで尻餅をついた体を起こす。その一太刀は絶対に阻止しなければならない。その膨大なエネルギーを帯びた剣を二刀の黒剣で受け止められるはずもない。剣だけでなく、最悪この身体も何もかもが消し飛んで無へと帰すだろう。
──ならばどうする?
剣に宿りし怪物は歩美の意志、心に呼応している。だったらその剣を源たる歩美から離してしまえばいいだけの話だ。剣単体では暴れることは出来ない。
だがどうやって握られている剣をその手から離す? これほど未知で強大なエネルギーだ。剣を握っているのが歩美でなければ、その腕を切断してでも阻止している所だろう。
「零さん。この剣には今も沢山のチカラが集まっている。もうお姉ちゃんを生き返らせるまであと一歩。斬られて」
両手で握られたその眩しく光る剣の切先が真っ直ぐと零に向けられた。それは当然、剣道の構え。だがその一太刀を許した瞬間、彼女の眼に映る世界は消える。
正面からぶつかることも出来ない。このままその一太刀を見ている他ないのか。
──何か、何かないのか……




