表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/175

第138話

 ガシィィン!!ギャシィィン!!


 双方の刃が交錯し火花を散らす。鋼と鋼が激しくぶつかり合う音が響くとともに黒條零の中に歩美との思い出がそっと蘇ってくる。水面の上に広がる波紋のように。


 物心がつく前から上官に拾われ、XIED(シード)の下で育てられた。自分はどう生まれて、どこから来たのか。この任務を終えれば全てを教えてくれる。


 それを知るために上官と交わした約束の下、監視対象の彼女と同じ小学校に転校生として送り込まれた。初月諒花を監視する目的で表向きは生活をともにし、裏では監視役として。そんな生活が始まって一年経った時に出会ったのが歩美だ。


 今の彼女はそんな忘れるはずのない出会いさえも忘れてしまっている。そう、良くしてくれたことさえも。遊びに行こうよとか、今も忘れていない誕生日パーティをやろうよとか。こちらにアプローチし、これまで体験したこともない事に引っ張ってくれたのが歩美だった。


 諒花の家に初めてお邪魔し、花予と会えたことも歩美がいなければ無かったかもしれない。が、それらの記憶は今の彼女には無い。ただの殺戮操り人形だ。その狂暴性は三軒茶屋での時以上かもしれない。


 剣撃の一つ一つが冷たく非常に重い。それは姉を生き返らせたいという思いの強さから来るもの。それは二刀の剣を持ってしても、押されてしまいそうなほどだ。時間をかけすぎて、これは受け続けていては無論こちらが消耗し、朽ちるしかなくなる。


「歩美。あなたはレーツァンに騙されている……」

「騙されていない! 零さん斬られて! それでお姉ちゃんが生き返る!」

「くっ、歩美……!」


 苦しみからもがく悲痛にも聞こえる慟哭とともに力強く振り下ろされた重い刃を二刀で受け止める。いつもならば、相手を押して仰け反らせ、反撃に転ずる所だが、その返しをする機会も相手が歩美だと失われる。


 一旦、後ろに下がり、間合いをとる。すると歩美は逃さぬと言わんばかりに斬りかかってくる。


「くっ……! あなたが信じるレーツァンは何が目的なの?」

「死んだ人間を生き返らせるための研究。お姉ちゃんを亡くして大阪で失意に暮れていたわたしに彼は言ったの!! 力を貸して欲しいって!!」

 荒げる言葉とともに強く振り下ろされる剣。レーツァンが最初から仕組んでいるのか、こちらの質問には答えるようだ。


 その邪な研究が実れば、亡き姉に会える。研究を主導しているというレーツァンのためにも剣を振るう。

 ──歩美、果たしてそんな事で、お姉さんは喜ぶの?


 三軒茶屋で聞いた諒花や花予の話から察するに、妹がこんな危険なマネをして喜ぶ人物像とは程遠く見えた。自分にも優しくしてくれたあの花予とともに、歩美のことを常に気にかけていた姉なのだから。


 剣を手にこちらにぶつかりながら歩美は続ける。斬りかかってくるその剣をこちらから防ぐ。

「彼はわたしにチカラをくれた。最初は半信半疑だったけど、この剣に異源素ゼレメンタルが集まっていけばいくほど、このエネルギーを使えばお姉ちゃんは生き返るんじゃないかって感じたの」

「分からない……! どうしてそんな理屈になるのか……」



 一刀の剣に色んな人間や異人ゼノから異源素ゼレメンタルを集めて、人が生き返る事などまず有り得ない。あるはずがない。レーツァンはその集まったエネルギーを使って、何かふざけた復活の儀式でもやろうというのか。


 今の歩美はレーツァンに植えつけられたものによって動かされている。植えつけられるよりも前に体験した出来事に関する記憶は保持しており、それを今のこの状態の主観でただ喋っているにすぎない。激しく剣を交えながら思考を巡らせる。こうも考えられる。


 姉が死んだから生き返らせたいというのは元を辿れば、こうなる前の歩美が心の奥底でほんの少しでも思っていた願望によるものではないか。

 姉を失ったショックで悲しみのあまりわずかに生じた微粒子レベルの思いが根底にあるのではないか。そこをレーツァンにつけこまれ、洗脳で亡き姉を求める感情が肥大化するあまり、それを信じ、行動理念に直結している。


 思い返せば三軒茶屋の時、戦いの最中に一瞬だが元の本当の歩美に戻ったことがある。


『なあ、歩美。お前がこうして騎士になるまでの経緯ってなんなんだ? 教えてくれ』


 あの時、恐る恐る諒花が話しかけようとしたら突然歩美が苦しみ急変した。あの現象で一つ言えることは元の歩美に戻る前に意識が乱れたことだけ。そういえば、その急変した歩美は突然苦しみ出すとこんな事を呟いていた。


『なっ、なに……? うん。わ、わかった、ソウスル……オネエチャンノ……タメ……スベテハ……タメニ……』


 今ならば分かる。あれはレーツァンが遠くから指令を送っていたからだろう。早い話、遠隔操作。円藤由里と同じく黒幕の彼の駒として。誰かに返事をする物言いがそれを裏付ける。そして重要なのはこの直後だ。


『──くっ……二人ともぉ! この前、戦った女騎士はわたしじゃない! あれは円藤由里さ……ん……』


 奴の干渉後、ほんの一瞬だが歩美の意識は確かに元に戻っていた。まるでこちらに助けを求めるよう急いで言い残し、その後は空に消えた。

 確かに一瞬だけ戻っていた。洗脳がまだあの時は浅かったのか、レーツァンの干渉によって出来上がった心があの屋上で乱れ、その隙に元の本当の歩美が表に出てきたのかもしれない。植えつけられて心を操作されても、奥底にある歩美の本当の心までは支配しきれていなかった。だったら──


 振り下ろされた剣を後ろに跳んで避け、斬りかかってきた所を二刀の剣で防ぎ、


「歩美、私達……友達だよね? どうしてこんなことをするの?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ