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第135話

「おっ、体のダルさが少しずつ……」

 外壁を作る植物から注がれる光の影響か、先ほど浴びた、汚い混沌のシャワーで汚染された全身が少しずつ本来の調子を取り戻していく。上半身を起こせるだけの気力が戻ってきた。さながらゲームとかの回復魔法のよう。


「そうか。ここで休んで、アイツが花火を打ち上げるまでに止めに行ければまだ──」


 翡翠は頷き、

『猶予はまだあります。彼は時計塔に着いてもいませんから。歩き始めた彼の現在地は時計塔から数メートル離れてます。非常にゆっくりとした歩幅で燃える森の中を愉しむように呑気に歩いていますわ』


 勝ち誇ってとても気分が良いのか、それとも自分が作り出したこの光景をただ眺めていたいのか。真意は読めない。だが時間に余裕があるのは確か。


「なあ、どれぐらい休めばいい?」

『そうですね。十五分。それだけ休めば体も元の調子を取り戻すでしょう』


 十五分。このドームの中にいるだけでそんな短時間で回復出来ることに一筋の希望が見えた気がした。

 全速力で時計塔に向けて走ればまだ間に合うはずだ。走りには自信がある。屋敷の入口で時計塔が見えたのだから。今いる屋敷の表側から裏側まで回り込んで全力ダッシュすればいい。


 十五分後に向けて強い前向きになった時。ところで、と前置きを置いた翡翠。

『私の見た限りでは、諒花さんは稀異人ラルム・ゼノなのに、明らかにあの男との力の差を感じます』

「そりゃ、相手は帝王と呼ばれてるほどの奴だぞ。零にも気をつけるように言われた。けど、アタシはアイツを倒さないといけねえ。ぶっ倒さねえと……」


 絶対に許さない。両親を殺し、初めての学校で出会った初恋の相手も殺し、あまつさえ自分を手に入れようと目論む変態クソピエロ野郎。

 全てを裏から仕組んでいたあのピエロの目元を、覆ったマスクごと顔がボロボロになるまでブン殴ってやりたい。ところが翡翠の言葉で待ったがかかる。


『いえ、そういうことではなく。本来、稀異人ラルム・ゼノならば、あの男とはもっと戦えても不思議ではないと思ったのです』

「なんだそれ? アタシが弱いってことか?」

 その問いに対し、翡翠は続ける。


『弱いというよりも活かせていない──でしょうか。あなたの持っている一際大きなチカラを持つ異源素ゼレメンタル、まだ十四歳という若年ながらも持っている稀異人ラルム・ゼノとしてのチカラそのもの。その可能性は本物です。並みの異人ゼノよりも強いです──そうチカラだけは』

「それって、アタシがチカラを充分に使えてないって言いたいのか?」

『いえ、そうでもなく』

「なんなんだよ」


 何だか、これまでの自分を否定された気がして苛立ちが湧いてくる。言葉を荒げない翡翠の独特なマイペースな口調も相まって。だが滝沢家のトップに言われているのだから決して適当に言っているのではない事は分かっていた。


 五秒ほど間を置くと翡翠はゴホンと咳払いをして、


『あなたが全力で出してるつもりのチカラが、私からはどういうわけだか全て出し切っていないように映るのです』

「出し切っていない?」


 そのままそっくり返すが、どういうことなのか分からない。


 ──全て出し切っていないとはどういうことだ??


 目の前の敵に負けそうな時、死にそうな時もいつだって全力だ。加減など一切してはいない。


 それが出し切っていないと言えるのか……? 今出せる限界とは違うのか……?



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