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第132話

「ゲーームセットーー!!」

 全身が地面に叩きつけられた直後、勝利宣言とも言うべき奴の宣言が響いた。


「勝負あったな!! ど根性で向かってくると思ったが、それだけでおれに勝つことは出来ねえ。ククク……フヒャハハハハハハ!!」

「くっ……そっ……」

 一歩、また一歩と近づいてくるレーツァン。


「まだ立とうとするのか。こりない奴だ、いい加減降参(サレンダー)しろよ? ──と、言いたい所だが、どうせ飲まねえんだろ?」

 するものか。それは自分からコイツの女になりますと言っているようなものだ。

 ──体さえ動けばこんな奴……


「なあ? 言わないのか? おれにハナを殺さないでくれと」

「フッ、どうせ聞き入れずに懇願するアタシを見て笑うに決まってるだろ」

 くどい。その詮索一つ一つがこちらの神経を逆撫でしてくる。追い打ちだ。だったらお返しとこんな事を訊いてみた。意地悪な笑みを浮かべるピエロがその場で歩みを止めたのを見て、


「お前も、そんなにアタシを自分の女にしたいって言うなら、歩美みたいに洗脳しようと思えば出来るのにしてこないんだな……?」

 その問いが彼の耳に入った直後、一瞬その動きがピタっと止まった。その沈黙の間が一瞬、恐怖を煽る。


「フッ……! 生意気なこと言うじゃねえか。そんなにして欲しいならしてやるよ!!」

 思わず、両目を閉じた。が、その直後、


「と、それは冗談で。お前は操り人形じゃダメなんだよ」

 その脅かしのオチが分かると恐る恐る目を開けた。わざとらしくこちらに目を合わせず、首を横に振る変態ピエロが映った。ダメという理由は薄々浮かんでくる。


初月花凛(アイツ)の娘であるお前は、幸運にも生まれながらにアイツ以上に強いチカラを持った異人ゼノとして生まれてきた。生まれながらの稀異人ラルム・ゼノなんかそうそういねえ。あと、おれは純粋にお前が欲しいんだ。分かるかァ?」


 やっぱりそうだった。コイツはこちらの持つチカラもそうだが、女である自分が欲しいのだろう。やっぱり変態だ。そしてここで一つ、前々から気になっていた疑問があることを思い出し、すかさず追及する。


「母さんのこと、どこまで知ってるんだよ?」


「お前のママは強くて立派だったぞ。お前のように良い女だった。その黒髪とパープルな瞳はママとハナ由来の遺伝だな?」

「ああ」

 写真に映る花凛と実際にいる花予と自分を比較された時も同じことを言われたことがある。何も知らない者からは、花予とは実の親子と間違えられたこともあった。


「あの女とバディを組んでいた器用で頭の良い男が、あの女とくっついて、お前が生まれたんだ」

 花凛と諒介はXIED(シード)で出会い、そして結婚した。父は異人ゼノではないが、強い異人ゼノだった花凛のことを支え、愛していた。旅行へ行く途中の高速道路での事故で亡くなるまで。


「さて。このゲームはおれ様の勝ちだ。最後にでかい花火を打ち上げて、それからハナを殺しに行くとしよう……満足に動けないその体で破滅の時をここで見ているがいい……ククク」

 そう勝ち誇り、奴は森の向こうに歩み去っていった──と一歩踏み出した直後、人差し指を立てて、何かを思い出したように再び向き直った。


「そうだ。残念賞として一つ、いいことを教えてやるよ」


 コイツの言ういいことはコイツにとって面白いだけで、ろくでもないのは目に見えている。コイツだけが愉しいのであって、こちらには全く笑えないものに決まっている。何を喋るのか内心身構える。

 だが、諒花は知らない。この後予想を斜め上に行くことを。


「お前のママとパパが死んだ交通事故。覚えているか? そう、高速道路上で運転中の車同士がぶつかり、玉突き事故を起こして炎上したあれだ」

「覚えているに決まっているだろ」

 夢にも出てくるあの出来事を忘れるわけがないだろう。

「だったら、お前が小学校に入って出会った、初恋の彼が死んだ小3の頃のあの火事は覚えているか?」


 ────えっ?


 衝撃が走る。なんで急にその話になる? どちらも体験した悲劇としか繋がりがないはず。関係は全くないはずだ。次の言葉を今か今かと待つ。


「大切なパパとママ、それから初恋の相手。全部ただの不幸な事故で失ったと思っちゃいないか?」


「……おい、この二つが何か関係があるっていうのかよ?」


 高速道路のアスファルト上での交通事故で車ごと炎上した両親、ストーブが原因の火事で家ごと炎上した彼。いずれも炎が飲み込んでいった。炎は悪魔のようにいつも大切な人の命を奪っていった。

 後になって、奇跡的に生き残った者として、残された者として、精一杯生きなければならないことを決意させた。が、彼は本当に突然呆気なく死んだ。未だにあんな火事で死んだのかが疑問なくらいに。


 そう言うと思ってました。と、言わんばかりに、ニヤリと変態ピエロは口を開く。


「それら二つはな、偶然起こった事故じゃねえ────」

 早く続きを言えと焦燥感が滲みに出てくる。

   

「初月花凛とその夫の諒介、それからお前の初恋の野崎始(のざき はじめ)! あの炎を引き起こし、殺したのは────全部おれ様なんだよ!!」




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