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第113話

「ついてきて下さい。諒花さんの所にお連れしましょう」


 翡翠の案内に従うことにした。諒花が地下にいると分かった以上、もうこの女とやり合う必要はない。それに向こうの敵意もなくなったようにも見える。が、同時に気になることがあった。


「一つ教えて欲しい。先に諒花を連れてきて、紫水と戦わせたのはなぜ?」

「いいですよ」


 諒花さんにも同じことを話しましたが、と前置きを入れた上で歩きながら翡翠は話し始めた。

 まず最初に、彼女の口から飛び出した内容に驚かされることになる。翡翠はこちら側を女騎士だとは思っていなかったのだ。全ては諒花を試すためであり、一番最初に渋谷を攻めたあの軍勢に諒花がやられていたならば、所詮はその程度の実力だったということ。


 諒花のことを知っていくうち、翡翠は部下には伏せた上で独自にある計画を立てた。表向きは明るくても裏ではメディカルチェックを不合格になったことで陸上への夢を絶たれた苦悩を持つ妹を、同じ境遇の諒花に会わせたい。そのために翡翠は一人、芝居を打つ。

 諒花と零、どちらかが屋敷および組事務所を襲った女騎士であると勝手に疑い一方的に敵視することで、刺客を送り込み、理不尽な戦争を仕掛ける傍若無人な侵略者として。


「諒花のことは最初どうやって知ったの?」

「ちょっとしたツテですわ。私は交友関係が広いですから」


 そのツテはどこなのか。尋ねたが翡翠は全く答えようとしなかった。誰から知ったのか。具体的にハッキリさせず茶を濁す。支配領域は青山という一つの土地とはいえ関東裏社会の一勢力の長である女王として、裏社会で築いているコミュニティが広いのは想像がつく。この世界(裏社会)で勢力を持っている者は時に個々の繋がりも大事にしなければ潰されてしまうからだ。


 三か月前に池袋で壊滅したベルブブ教がそれだ。教団が円川組、およびその背後にいるレーツァンとメリットのある関係を築けていれば、傘下や隣人として生き残れていた可能性は少なからずあっただろう。だが彼らは独自に信者を増やして勝手に勢力を拡大、やがてその存在は彼らの脅威となり、消されたのだから。


「女騎士がここを襲撃したのは本当なの?」

「本当です。単騎で乗り込んできました。私の執事が体を張ったことで入院していますが、退けることには成功しています」


 石動千破矢。滝沢家の執事であり、翡翠の右腕。異人(ゼノ)であり当然、その地位に相応しく腕が立つ。そんな者がなぜ負けてしまったのか。原因はその女騎士というよりもあの鎧。普段は戦闘力も持たない人間が異人(ゼノ)と渡り合えるほどになるチカラがあの装甲には秘められている。


「当初は名をあげたあなた方のどちらかが女騎士ではないかという線も考えていて、思うこともありましたが、妹のために、部下だけでなく、妹本人も渋谷に行かせて、諒花さんを試す作戦をとっているうち、女騎士はこの二人ではないと心の奥底で思いました」

「それで、紫水、諒花、二人に個々に説明した上で二人だけで会えるようにこのような場を設けたと」

「ええ。生憎、本日は妹が追試だったのと、女騎士がこの青山に飛んでいったという目撃情報も重なったので、渋谷に行った者を帰還させ警戒を強化したりでドタバタしていましたが」


 翡翠は肩をすくめ、その苦労を語る。結果、そうした甲斐もあって、二人を引き合わせることに成功したという翡翠。メディカルチェックで夢を絶たれた者同士、紫水だけでなく諒花にとっても利となる出会いになることは間違いないとで見込んで。双方が互いに新たな一歩に繋がるように。


「全ては妹のために行動していた。けど、そこに女騎士が現れて襲撃を受けたことで、逆に利用しようと思いついたあなたの策に私達は翻弄されていたのね」

 当然、妹の過去も、それを想う姉の思いについても表立った情報ではない。そういう情報はXIED(シード)のデータベースにも記載されていない。


 だが、一つ引っかかることがある。女騎士が滝沢家を襲撃し、その正体が自分と諒花と考えての行動ならば分かる。しかし目的が諒花を試す方向にシフトしてから、右腕の仇討ちが彼女の眼中にもはやない状態になっている。ただ青山の警戒を強化するだけで特別、大規模な捜索に乗り出している様子もない。自らの右腕にただ一人置いているのだから、普段から信頼や重要性は高いはずだ。それなのに。


 更に言うと翡翠は、屋敷を襲った女騎士の中は誰なのか。それを恐らく知らない。その中にいた歩美の言うことを鵜呑みにするならば、滝沢家を襲った騎士は円藤由里だ。だが、紫水から三軒茶屋での件を聞かされているのだとしたら、中の人が別人であることを認識しており、ただ迎撃するための警戒を強めるだけで仇討ちに燃えないのも頷ける。


 真相はどっちだ──と、考え込んでいると、いつの間にか地下に続く昇降機の前に来ていた。レバー式だ。


「何を立ち止まっていますの? 諒花さんはこの下です。どうぞ、乗って下さい」



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