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第106話

「……終わり、じゃねえよ!!!」

 迫り来る壁をもろともせず、臆することなく諒花の人狼の拳が水壁に風穴をブチ開けた。すると凹んだ水壁はたちまち体型が崩れてリングの床を再び水浸しに。諒花の美しく長い黒髪の先から滴る水のしずくが落ちる。


「もうその技は効かねえぞ」

「っ……!」

 自慢の技を無効化されて怯んだ紫水に、勇猛果敢に突っ込んでいく初月諒花。

「水打ち!!」

 迎撃で放たれた水の拳をスルりと避け、人狼の鉄拳をブチ込むと反撃の拳が顔に返ってくる。だが諒花は倒れることを知らない。


「やったなぁ!」

 再度やり返しで放つ鉄拳。紫水も倒れることはない。反撃の水の拳を放つも、再びカウンターの人狼の拳が返ってくる。

「がはっ……! 負けないよっ!」


 両者、互いに再び距離を開き、ぶつかり合い、相手の一撃を避けて攻撃と思いきや、またそれを避けて反撃、反撃の反撃。まさに拳の打ち合い。

 紫水は避けて距離を開こうとするが、諒花は立ち止まることなく攻める。紫水もそれに応えて反撃の水拳をお見舞いするも、それを諒花は読み、あっさりと避けた。


「これでどう!? え……!」

 迫ってくる人狼少女を崩そうと紫水は手から水弾を放つも、それを拳で一瞬で打ち砕かれ、思わず目が見開く紫水。だが、首をブンブンと振って、平静さを取り戻す。


「やるね……まるであたしの動きが半分読まれてるみたいだ」

「何となく分かるだけだ。相手の動きのわずかな隙を読む──()()()が言ってた勝利を近づける方法だ。タイマン張る時は相手の動きに集中力を切らすな、細かな動きは見逃すなって」

「アイツって零のことだよね?」

 すると諒花は首を横に振る。


「いや、零にも同じことを言われたことがあるけど、違うな。今はもういない、アタシの大切だった奴だ。この必勝法の原点はアイツから教えてもらったものだ!」

 右、左、右。縦横無尽に動いて紫水に音速の一発を放つ。人狼の拳が紫水の顔面に迫る。それを紫水は避け、それを狙い撃つように水弾を拳から放つも、それは諒花の脇を突き抜けていく。


「早い……!」

 瞬間的に左右に動き回る諒花を狙って放った水弾は全て避けられ、飛びかかってきた諒花の拳と迎え撃つ紫水の拳がぶつかり合い、火花を散らす。

「教えて! その大切な人だったアイツってどんな人だったの?」

 紫水の拳が諒花の左頬に炸裂する。が、痛がる様子もなく赤く腫れた頬のまま、諒花は、

「アタシの────初めての恋人だぁ!!」

 お返しに紫水の右頬に炸裂する人狼パンチ。亡き彼の思いを込めた一撃に紫水はとても堪える表情を見せる。


「か、彼氏……! いたの……?」

 頬の痛みに抗いながら、ふらつきながらも紫水は己が倒れないように、自分の体をコントロールしながら驚いた様子で再度問う。


「いたさ。けど死んじまった。空手の選手になって、五輪の空手で金メダルをとりたかったという夢も、元を辿れば、アイツと過ごした時間があったからだ──」


 方向性は違えどスポーツという同じ道を歩む紫水と相対し、力一杯戦っているうちに、その熱き魂に呼応するように諒花の脳裏に蘇ってきたのは、今は亡き彼との過ぎ去ったひと時。懐かしくて、一番楽しかったかもしれないあの時のこと。

 強い瞳の内側、心の内に湧き上がるそれらが、激しい紫水の攻撃を抑え込む並々ならぬ原動力となっていた。



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