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第101話

「その別の目的、いや、この戦いの()()()()()ってのをそろそろ教えてくれないか?」

「先ほど、あなたの過去を当てて見せましたよね。まさしくそれですよ」

 壁ドンから解放された翡翠は、スカートと服を自分で整えながら言った。

「ただアタシが稀異人(ラルム・ゼノ)だから、じゃないのか?」

「確かに特別感はありますし大きな魅力の一つですが、この戦いの本当の意味に関してはそれは関係ありません」


「じゃあどんな期待をしているんだ? 確かにアタシは去年メディカルチェックで不合格になった。金メダル以前に空手の選手になる夢への道を絶たれた。だから零と一緒に戦って、生きる答えを探してここまで来たんだ!」


 零の言ってくれた()()()()もあって、鍵のある裏社会という闇の向こうからやってくる敵とも戦ってきた。そうしているうちに表とは違う独自の世界があることが分かってきた。異能が蔓延る世界であることが。

 実際問題、なぜメディカルチェックという仕組みが出来上がったのか。その真実は何なのか。なぜこの世界は、どこかで何かしら繋がっていながらも異能の有無で裏と表に分別するのか。それはまだ分からない。


 誰かに教えてもらうのではなくこの世界を見て、自分自身で考えて生きる答えを見つけること。この二手に分かれた世界を見て、答えを出して欲しい。そんな零の願いが込められている。


「ふうん、なるほど」

 腕を組み、こちらを見ている翡翠の眼差しは静寂とともに二人だけの長い廊下に緊張を走らせる。


「異能の蔓延る裏を知れば、生きる答えを必ず見つけられる。他人に教えてもらうのではなく自分自身で納得いく答えを見つけること。でなければあなたの答えではない──と言ってたんですよね」

「なんでそれを……!」

 ──この言葉は零とアタシしか知らない言葉のはずだ──


 一言一句間違えずに言ってのけた翡翠はそっと背を向けて話を続ける。

「無論、あの方から頂いた資料を読んだからですわ。どうやってこんなプライベートなことまで知り得たのかは分かりませんが、やはり書いてあることは全部本当なのですね」

 再び翡翠は諒花の方に向き直った。

「ですがこの言葉を言った黒條零さんの真意は、果たして本当にあなたのために言ったことなんでしょうかね?」

「零はアタシの友達だ! アタシのことを思って言ってくれたに決まってるだろ!?」

「……今は何を言っても無駄のようですね」

 翡翠は肩をすくめ、どこか諦めたような様子を見せた。その表情は涼しげで余裕さえ伺える。

 しかし、零の言葉まで読み取って一言一句まで資料に記したあの方とはいったい何者なのか。考えれば考えるほど戸惑いと知りたいという焦りが生じる。


「おい、ちょっと待て! ()()ってなんだよ! あの方とか、資料とか、もういい加減隠し事増やすのやめろ!」

「今話した所で聞き入れてもらえなさそうなので」

 声を荒らげても動じる様子が全くない余裕を見せる翡翠。


「まずはこの戦いの本当の意味を知ってからにしましょうか」

「じゃあまずはそれを教えてもらう。それからだな」

「ええ、この先に答えがあります。ついてきて下さい」


 翡翠の背後には扉があり、それを開けた先は一風違う空間が広がっていた。今立っている足場の左右には柵がつけられ、下はただ底の見えない奈落が広がる。

 中央にはその闇の空間へと降りるための昇降機がつけられており、鉄の足場が手前の赤レバーを倒すことで降りることを想像するのは容易であった。ここだけは赤の絨毯はなく、壁だけが洋風に留まっているものの奈落の底に進むにつれて灰色のグラデーションがかかっている。


 翡翠は歩きながら話を続ける。

「プロのスポーツの道を歩むためにはメディカルチェックが義務化されています。子供のうちからそれを行う理由は表向きはドーピング対策及びその教育のためとされてますが、同時に私達のように異能を宿した異質な人間を弾き出す役割も密かにあります」

「それは知ってるよ。ドーピング対策も含めた公平のためだろ。不合格な奴は参加させないの一点張り。なんでこんな理不尽なことをするのか、アタシはそれが知りたい」


 こういう制度は零の手を借りてネットで調べたことがある。さすがに異能については表社会の政府のサイトなので直接書かれておらず、結局メディカルチェックという、ドーピングを排除する目的で作られた仕組みに巻き添えを食う形で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 翡翠は昇降機の前まで行くとこちらを振り向いた。

「あなた、これ、自分だけの問題と思い込んでいませんか?」

「いや、そんなことは……」

 諒花はじっとこちらを見る翡翠を前に誤魔化して顔を背けた。翡翠がズイと顔を近づけて覗き込んでくる。

「顔に描いてありますわよ」

 ズイっと。思わず一歩下がる。

「思ってましたわね」

 ズイズイっと。更に二歩下がる。

「それも当然です。同様の悩みを持った友人も誰もいないみたいな顔をして」

「なっ……!」

 

 その確信を突いた一言に息を飲む諒花。同時に三軒茶屋で彼女を待っていた時、思ったあることが急に脳裏に蘇る。紫水も体を動かすことを前提とした、秋にしては軽装の姿からもしかしてと思っていたが。

「この戦いの意味それは────」


 この先はもう聞かなくても分かってしまった。


「私の妹もあなたと同じ目に遭ったからです。……これで分かりました?」



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