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第90話

「────諒花!?」

 背後を振り向くと、そこは高級住宅街の道がただ広がるのみ。さっきまで後ろにいたはずの彼女はどこにもいなかった。


「諒花、どこに行ったの……?」

 辺りを見渡すがどこにもいない。別に走ってなどいないし、置いてけぼりにしたことはないはずだ。

 背後にいた彼女の気配はさっきまであった。それが急にパッと消えたのだ。


「おい、どうした? グズグズすんな」

 横を歩いていたシーザーが歩を止め、振り向いて声をかけてくる。

「諒花がいない……!」

「はあっ!? クソッ、これも奴らの罠か!」

 シーザーはすぐに冷静さを取り戻し、

「ほら、な? こういうことだよ。やっぱこっちの行動向こうに読まれてるんだ。だからこんな不意打ちを食らう」


 ──果たして本当に読まれているのか……? 


 落ち着いて、スマホにあるいつものツールとそこに映る地図で諒花の現在地を確認する。スマホを開く前からもしやという予感がしたが、それを指し示す場所は的中した。


 やはりというか、この真正面の先に広がる大森林の中だった。そう、滝沢家の敷地内、中庭そのものだ。現在地から見て、敷地内の東側に彼女を示す赤点が置かれている。巨大な緑の正方形の中にそれは確かにある。

 今、自分たちがいる現在地を示す場所は屋敷の外の西側を歩いていることになる。なぜ一秒にも満たない刹那とも言うべき時間内でここまで長距離移動したのか。一つ分かることがある。


 ──誰かが諒花に何かして連れ去った。ただ、それだけだ。


「本当にそうね。やはり読まれてると見て間違いない。予測がつかなかった……乗り込む前から諒花がこんなことになるなんて」

 居場所は分かったが、ここで変に口に出せば面倒なことになるので都合よく合わせた。意識はしていても、つい無意識に前の方へ集中するあまり、背後が疎かになってしまっていたのかもしれない。監視役失格だ。


「敵は本気みてえだな。行こうぜ。待ってても仕方ねェ」

「……」

 急に仕切る彼に苛立ちを感じたこちらの不服な顔を見たのか、シーザーは歩きながら続ける。

「あの女ならたぶん大丈夫だろう。簡単にやられる奴じゃねえよ。もしこんなあっさり死んでたら三回も挑んだオレはなんなんだって話になる」

「諒花が本当に死んでたらどうするの?」

 零の隠れていない鋭い左目の視線がシーザーに向けられると、

「……そ、そんなの想像もしたくねえよ。生きてねえと困る」

 ごまかすように顔を背ける。

「だったら余計なこと言わないで。諒花は必ず助けるから」


 正直、ここまでしつこく狙ってきた彼の私情なんかどうでもいい。諒花ならばこういう時にも簡単にやられたりはしないだろう。これまでもそうだった。だが、もしものことがあれば困る。次第に前を行くシーザー以上に小走りになる。


 森の前に外からの侵入を阻む高い煉瓦の壁がそびえ立つ。試しに剣で斬りつけてみたが、案の定びくともしない。同じくシーザーも、自慢の大バサミを繰り出すが通さない。


『ふふふふふふ……!』

 ────!


 突如、煉瓦の壁の向こうからこちらを薄気味悪く笑う女の声。

『ふふ、その壁は銃火器だけでなく、異人ゼノによる襲撃も想定して作られていますの。簡単には壊せませんわよ』


 それは機械を介しているというよりも森の中より耳へと直接響く声だった。


「あなたは……もしかして……」

 この場所まで来て、該当する人物は一人しかいない。この森の──いや、この屋敷の主。


『そのもしかして、ですわ。そこから真っ直ぐ右へ行って、回り込んだ先の正門をくぐりなさい』

 スマホの地図を見ると南側だ。そこに門がある。恐らく400mはある。

「行こうぜ」

 急がなければ。シーザーとともに駆け出した。


 走っていると、主たる彼女の声が再び聞こえてくる。


『あと一応そこ住宅街ですから、あんまりここで騒ぐと近所迷惑になってしまいます。早く来なさいな。待ちくたびれてしまいますわ』



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