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第87話

「なっ……なんだってぇ!???」

 その事実を耳にした蔭山の握るハンドルが、驚いた拍子で思わず乱れる。

「あぶね!」

 運転を慌てて修正し、車を真っ直ぐに走行させる蔭山。


「おいおいおいおいおーい!? 歩美ちゃんだったのか!? あと、殺された円藤由里と関係あるとはどういうことだ! その話今すぐ詳しく教えろ二人とも!」

「お、落ち着いてよ! 蔭山さん」


 諒花、そして零は今さっきオランジェリータワーの屋上であった出来事をありのままに説明した。女騎士の正体は確かにどこからどう見ても歩美だった。変わり果てた彼女。しかし突如苦しみながらも彼女の口から判明した事実を余すことなく伝える。


 一番最初に諒花と零が遭遇した女騎士──シーザーが刺された騎士──は円藤由里であること、歩美は事故で亡くなった姉の笹城湖都美を生き返らせようとしていること。


 そして最後、歩美は青山の方角に飛んで行ったが次はどこに現れるか分からない。そのため、まずは同じく女騎士と敵対し、こちらに女騎士の疑いをかけている滝沢家のこちらへの誤解を解き、歩美襲撃に備える必要があることを。


「……なるほどな。しかしあの歩美ちゃんがそんなことするような()には俺は思えねえなぁ」

「私たちも同じです。あの優しい歩美ならこんなことは絶対しない」

「その歩美ちゃんの口から円藤由里の名前が出たわけだが、円藤は生前左利きだったことが捜査で判明しているんだ。その最初の騎士も左手で剣を持っていたなら恐らく嘘ではないな。ほぼ確定だ」

「そうですね。歩美との違いは利き手と身長の違いです」

 特に顕著なのが身長だった。最初に遭遇した騎士が164cmの長身の諒花と同じぐらいの背丈。歩美の実身長はそれよりも11cm低い。


「そうか……となると、円藤由里は二人と一戦交えた直後に誰かに殺されたことになる。翌朝に遺体で見つかってるからな。二人の前に現れるよりも前の港区、青山近辺に現れた女騎士も同じなんだろうか?」

 円藤由里が失踪したのは女騎士が青山に現れ始める直前であり辻褄は合う。しかし歩美も女騎士だった。滝沢家を襲った中身はどちらなのか。


「アタシが知り合った滝沢家の紫水が言ってたんだけど」

 と、前置きして諒花は続ける。

「体格と利き腕の違いから歩美ではないことは分かった。けど、中が誰なのかは分からない。青山に現れて滝沢家と交戦したのも同じ左利きとしか」

「ふむ……女騎士は二人、もしく三人か」

 一人目は円藤由里。二人目は歩美。そして三人目は一番初めに青山に現れた正体不明の左利き。だが円藤由里と三人目は同じ左利きなので同一の可能性もある。


「歩美ちゃんが生き返らせようとしているという笹城湖都美が、まさか姉ちゃんだってのは驚きだな」

 一見、苗字で気づきそうなものだが、普通の女子中学生と遠く離れた金持ちの令嬢が実は姉妹とは一発ではなかなか分からないものだろう。


「蔭山さん、湖都美さんに会ったことあるのか?」

「無い。XIED(シード)にいるちょっとしたツテで知っただけだ。表向きには伏せられているが、彼女は笹城家の次期当主。まさか一か月前に交通事故で亡くなっていたとはな。その事故が歩美ちゃんを女騎士にさせた要因となるとこの事件ヤマ、相当デカイものだ」


 花予とも話して、改めて鮮明に浮かぶ全体図。湖都美は一か月前の交通事故で亡くなったという。そこから歩美は何らかの方法で鎧を手に入れ女騎士となっている。それがいつからなのかはまだ分からない。


「アタシ達は黒幕がいると思うんだ。歩美をおかしくしたのも、鎧を用意したのも、誰かが何かしたからなんだよ。湖都美さんを生き返らせられるとかデタラメ吹き込んで」

「もう歩美ちゃんに直接確かめるしか、その全容は分からねえな。今、XIED(シード)が洗ってる円川組関係を洗うよりも、歩美ちゃんに行く方がよっぽど近道そうだ」

 誰かが歩美にそうさせようと仕向けた。その黒幕はいったい誰なのか。


「黒幕を突き止めるには歩美を助けないといけない。そのためにまずは滝沢家の誤解を解かないと──」

 なぁ、思ったんだがと蔭山は前置きを入れ、

「その誤解って、どういう理由で二人が女騎士だって考えるようになったんだろうな? わざわざ大勢で渋谷まで押しかけて大捜索やるほどに」

「そんなんアタシ達が聞きたいよ蔭山さん。紫水曰く、姉の翡翠の一存で決まったことみたいなんだ。アタシ達の噂を聞いて、そこから女騎士だと言い出したって」

 滝沢家の全指揮権は青山の女王が握っている。彼女から信頼を得ている執事、石動千破矢がいない今、女王の決断には誰も強くは言えない。

 

「ここまできたら、二人を敵視するのも、何か他に別の理由があるのかもしれないぞ?」

「別って? 向こうが誤解してるから、こういうことになってるんじゃん」

 別の理由とは何か。諒花には分からなかった。車が赤信号前に停車すると蔭山はこちらを一瞥して、

「その前だ。二人とも戦闘時に鎧を身につけて戦ってるわけでもないのに、どこからか噂を聞いた翡翠がどういう解釈をしてその決断に至ったのかが見えにくいんだ」

 確かに一理ある。鎧を身に着けて戦っているならばそれがとうに広まっているはずだ。勝手にこちらを敵視するために翡翠が決めつけていることもあり得る。


「真実は当人の腹の内。これも当人に直接確かめてみる他ないな」


 車はただ静かに、ビルの建ち並ぶ街中を進んでいく。目指す先は青山。円藤由里、笹城歩美、笹城湖都美、滝沢翡翠。鍵を握るバラバラのピース。


 ただ滝沢家の誤解を解くためだけではない。なぜ滝沢家はこちらを敵視して狙ってきたのか。それを知るのはこの先の青山に鎮座する、青山の女王だけ。

 確かめなければならない。滝沢の本拠地へと乗り込む覚悟を一層決め、蔭山の運転する車は走り続ける。



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