煩悶
その後、彼は何も言えなくなってしまったので、後を友人が引き継ぎ、喧嘩は解決された。
しかし、彼の胸には重々しくて分厚い、漆黒の雲が、立ち込めていた。その雲は、怒り、絶望、後悔、そして、罪悪感を、含有していた。その雲は、徐々に大きくなり、心臓や肺を締めつけた。その度に彼は、息が出来なくなり、煩悶するのだった。
彼の代わりに喧嘩を解決させた友人は、先の日以降の彼の変化ぶりに、心配を募らせた。日を重ねる毎に、彼の顔はどんどん窶れ、青ざめていくのだった。
その友人は、彼の信条を知っていた。また、彼がその信条を異常なほど遵守していたことも、知っていた。だからこそ、余計心配だった。彼が今まで積み上げてきたもの全てが、覆されてしまったのではないかと、気が気でなかった。
彼の苦悩の理由は、もちろん客観的指摘に起因する自家撞着への陥りもあったが、そればかりではなかった。彼を苦しめた最大の要因、それは、彼の胸中に蔓延する雲の構成要素のうちの一つ、『罪悪感』にあたる部分であった。
その罪悪感は、教師としての罪悪感だった。それによって自分自身が、脅かされつつあった。彼は、自分のしてきたことは果たして間違っていたのだろうか、と自問自答した。しかし何度問うても、『いや、間違っていない』と断言できる根拠を、見つけることは出来なかった。
そのうち彼は、やはり間違っていたのだと理解するようになっていった。間違ったことを教えてきたのだと思った。自分が勝手に間違えていたならまだしも、それを生徒に押し付けていたことが、更に彼を苦しめた。




