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捏造の王国

捏造の王国 その2・1 デマ男を吹き飛ばせ!西からハリケーンがくるよ~

作者: 天城冴

ひどすぎるデマを耳にした関係者たちはどうでるのでしょうか

「今日もよく晴れた、いい気持だな」

ジミー・スミスは白髪交じりの頭をあげて庭の楓を見上げた。ニホンから随分前に移植したもので、まだ葉は青々としている。

「ニホンの思い出にと思ったが、あの島に生えている木とは違うな。ブーゲンビリアやハイビスカスのほうがふさわしかったかな」

それだとアメリカ本土では育ちにくいだろう。ジミーはひとしきり庭を散歩するといつものようにパソコンをひらいて、オキナワ知事選の記事をチェックした。米軍兵士としてオキナワに滞在していた彼は多少ニホン語がわかる。ふと、ある記事が目に留まった。

「うん、フムフム…。な、なんだと!」

ジミーの顔は怒りでみるみる赤くなった。彼は急いである番号に電話した。

「ん、パパ?こっちはまだ夜なんだけど」

「すまない、アニー。だが、大変なことがニホンで起きているのだ。お前の腹違いの兄であり、生まれる前に私と別れた息子、ダニー・タマギギに関する酷いデマが流れているんだ!」


「CNNニュースです、オキナワ県知事選のジコウ党ザキマ候補の陣営がアニー・スミス弁護士親子に訴えを起こされました」

アメリカ人親子がこともあろうにニホンの与党候補らを訴えるとは何事か。アメリカの視聴者および全世界の視聴者は画面にくぎ付けになった。

「では、アニー・スミス氏の会見です」

画面中央にブロンドの白人女性が映し出された。

「今回、オキナワ県知事選においてダニー・タマギギ候補に対し“彼は中国のスパイであり、彼が知事になればオキナワが中国に乗っ取られる”などといった対立するザキマ陣営から流されているという情報がありました。私たちはこの悪質な誹謗中傷にたいして名誉棄損で訴えを起こすことにいたしました」

「スミスさん、タマギギ候補に依頼されたということでしょうか」

「いえ、私の、私たちの父の依頼です。タマギギ候補は実は私の兄です」

そんなん聞いてね~

突然の告白に会場は騒然となる。

「皆さんがご存じないのも当然です。タマギギ候補ご本人もご存じないかもしれません。実は私もこの間、タマギギ候補が立候補した時に初めて父から聞かされました。兄の母はアメリカに渡ることを拒絶し、以来一切の連絡をたったこと、それで父は私の母と結婚したこと、会ったことはないが息子が立派に成長し、政治家として活躍していることを父は誇りに思っていること。たった一枚、父の同僚が秘かに撮ってくれた兄と兄の母の写真を手に涙ながらに話してくれました」

いい話やともらい泣きする記者もいたが、お涙頂戴に流されまいと鋭い質問も飛び交う。

「それで今回なぜ、訴えを」

「訴えの理由は、根拠はなんですか」

アニー・スミスが力強い声で答えた。

「私たちは兄の選挙を静かに見守るつもりでした。他国のことですし、なにより兄の選挙の邪魔になってはいけないと。しかし、兄が中国のスパイなどというデマを流されては見過ごすわけにはいきません!兄だけでなく、国に忠誠を誓った父や私の名誉まで傷つけられているのです!」

「つまりデマにより、あなた方もスパイの身内とみなされたと」

「そうです。我が国の法律によればスパイの親族に対してもスパイの疑いをかけられることがある。私自身が監視、拘束をうける可能性すらあるのです、私の仕事にどれだけマイナスになることか」

「スミスさんはたしか今、ニュンヨーク市を相手に開発による環境悪化の訴訟を起こした原告側の弁護士でしたね」

「その通りです。もしかして環境、人権派弁護士として私は常に権力側に睨まれている。スパイの疑いをかけられれば、即刻、監視、拘束しろなどと命令がでるかもしれません。そうなれば私自身だけでなく、私の依頼人にまでどれほどの損害がでるか。何よりこのような屈辱は許せません!私たちはこの件に関してデマ元及びデマを広めた人間が誰かを徹底的に追求し、名誉棄損で全員訴えるつもりです」

スミス氏の宣言により会見は終わった。


半日後、オキナワのジコウ党ザキマ陣営では屋外も屋内もてんやわんやの騒ぎになっていた。

「わー台風24.4号が来た~」

すさまじい風が選挙事務所の前に吹き荒れる。

党員の一人ガナアホが急いで選挙事務所の窓にベニヤ板を打ち付ける。

「た、台風より大変なもんが来た。わがザキマ陣営がアメリカの弁護士に訴えられたんだー」

慌てふためいた様子で党員グンジョウがやってきた。

「あ、SNSでも話題になってるな、どういうことなんだ」

「ザキマのバカがオベッカちゃんのおべんちゃらに調子にのって、またデマを飛ばしやがったんだ。“タマギギは中国のスパイ”ってな。御用作家モモタン・ナオンやらアベノ総理大好きジャーナリストのパカセガワ・ヨウヨウも広めている。ツィッター上でもザッポだのモモリンだののネトキョクウどもやら“幸いのサイエンスの信者”どもが図に乗ってつぶやいてるからどこまで広まってるんだか」

「うわ、じゃあ、あいつら訴えられるってことですか。損害賠償ってどれぐらい」

「タマギギの妹のアニー・スミスは人権、環境問題を専門に手掛けるらしいが、過去に100万ドルの損害賠償も勝ち取ったことがあるらしい」

「100万ぐらいならなんとかなるんじゃ?」

呑気なガナアホにグンジョウが反論する。

「馬鹿、米ドルだ。日本円だと、今、円安だから一億、一千万ぐらいか。デマ元がそれぐらいで、あとはまあ十万ドルとか、末端でも一万ドル請求といわれている」

ひょっとすると、ネトキョクウどもが弁護士に対して起こしたデタラメ懲戒請求の返り討ち訴訟の上をいく賠償金額になるかもしれない。どこまでネトキョクウどもはパープリ~ンなのかよ、とグンジョウは頭を抱えた。

「ひょえええ、どうすんだよ、政党助成金で賄うとか」

「さすがにそれは、無理だ、金額がでかすぎる。今、必死にデマを撤回しているけど、ユーチューブで流すわ、ネトキョクウどもがつぶやくわ、で広めちまったからな。末端の奴等は誰にそのデマを聞いたか教えれば訴えないとスミスらの代理人に言われ、ベラベラといろいろしゃべってるらしい。モモタンやパカセガワはネット番組で顔を出して言っているし、逃げるのは無理。あいつら他の訴訟も抱えているが、それも敗訴濃厚だからな、確実に破産だ。ザキマにたどり着くのも時間の問題だ」

「ま、まずい、勝っても訴えられるなんて。しかも一億なんて。県の予算で払うなんて絶対できないでしょ、さすがにジコウ党の議員も反対じゃ」

とガナアホが言いかけると

「ぎゃああ、もうだめだ、米軍に怒られたー」

別の党員オオジョウが割って入った。

「ど、どうした、米軍がなぜ」

「仮にも米兵の息子を証拠もないのにスパイ扱いとは何事かと、タマギギの父親や元同僚たちが抗議行動を起こしたんだよ、在米軍OB会でな。現役の駐留兵士にも抗議に加わってるらしい。ザキマが知事になったらオキナワ赴任は拒否するとか言われて、上層部も問題視している。ワシントンの親ニホン派はカンカンだ。ザキマが当選してもすぐ降ろして別のに変えろといっているらしい」

「ど、どうやって降ろすんだ」

「デマ症候群で興奮するとデマをいう病気だとでもいえ、アメリカでたっぷり治療をうけさせてやるってお達しだ。あとデマを広めたモモタンやら末端のジコウ党員は金を払えなきゃオバイオ州で裁判を受けさせてやるから楽しみにしていろ、とも」

「オバイオって何かあるのか、刑を軽減してもらえるとか」

「なんでも軽犯罪ですごい刑罰を科す裁判官がいるらしい。36匹の子犬を森に捨てた男に森で何晩も過ごして子犬の気持ちを味わってもらうとか、元カレに暴言を吐いた女に元彼を褒めちぎる詩を116篇贈れとか。ともかく笑えるが超恥ずかしい刑をやらされるそうだ」

「それじゃ、デマを流した奴らってどんなことをやらされるんだ」

ガナアホは恐る恐るオオジョウに尋ねた。

「モモタンはデマ作家、似非作家の看板を下げさせられて、ニューヨークの大通りに一か月たたされるんじゃないかとか、パカセガワは“わたしはーデマー男―、嘘しかつけない似非ジャーナリストー”とか歌わされてユーチューブで流されるんじゃないかとか憶測が飛んでいる」

それは、確かにかなり恥ずかしい。いや、ひょっとしたらもっと屈辱的な刑罰が待っているかもしれない。他の奴らは何をやらされるのだろうか、考えるだけでも恐ろしい。デマに加担しなくてよかったとグンジョウは胸をなでおろす。

「そ、それで大元のザキマ候補はどうしてるんだよ」

と、ガナアホが尋ねると、

「ほれ、あそこ」

とオオジョウが指さした。

「はは、俺は嵐を呼ぶ男だああ」

“ザキマ候補素敵です、俳優さんみたい”

オベッカちゃんのいい加減なお世辞を耳に無謀にも大嵐の中、外にでようとするザキマ候補。

その姿は完全に現実逃避する阿保なオッサン以外の何物でもなかった。


嘘、デマなどいい気にのって広めると酷ーいしっぺ返しがくるかもしれません。情報はよくよく確かめましょう。嘘やら妄想はフィクションのなかだけにしましょーね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回もまた、毒がきいてます。 持ち上げられてばかりいると足下が見えなくなるんでしょうか。 大風呂敷を広げる、なんて言葉もありますが相手を貶める噂ばかり広めるのもやめて欲しいものです。 現実…
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