5月18日
かつて沢山の人が住む大きな都市だった地で、大きな金属音が響き渡った。
人々が去り、廃墟とかしたこの場所で、その原因の一つである巨大なドラゴンとリンは戦っていた。
身体中の至るところには傷があり、片目を潰され、尾が切り落とされているドラゴンに対しリンの身に纏う鎧は、戦っていたとは思えないほどに綺麗だった。
「零人、準備はできましたか?」
「待たせたなリン。もう大丈夫だ」
「ではお願いします」
「任せろ」
少し離れたところに立っていた零人がドラゴンに向かって銃を撃つ。
銃弾は鱗に弾かれたが、気に触ったのかドラゴンは戦っていたリンから向きを変え、零人に襲いかかる。
ドラゴンの鋭い爪が零人の頭上から振り下ろされる…が、当たる寸前でドラゴンの足下から無数の鎖が現れ、ドラゴンを拘束した。
振り払おうと暴れるが、鎖が外れる様子は一切なかった。
「残念だったな。その罠は三十秒経たなきゃ外れない。そしてそれだけ時間があれば」
「私の準備も間に合います」
リンはドラゴンの前に立ち、スキルを剣に付与していく。
【エンチャント:フレイム】
リンがスキルを発動すると剣が輝き出していく。
【エンチャント:ウォーター】
【エンチャント:ウインド】
【エンチャント:サンダー】
【エンチャント:アース】
【エンチャント:ホーリー】
【エンチャント:ダーク】
リンがスキルを唱える度に様々な色の光が剣に加わっていく。
【シャープエッジ】
【ブレイクスルー】
【ドラゴンスレイヤー】
【ジャイアントキリング】
【リミットブレイク:バーサークスラッシュ】
リンの持つ剣に十二のスキルが加わった同時に、ドラゴンの拘束が解け、暴れだす。
「リン!」
「大丈夫です。この距離なら外しません」
リンが剣を振ると、十二色に輝く光がドラゴンに向かって飛んでいき、ドラゴンの首を切り落とした。
「零人、まだ時間かかるんですか?」
ドラゴンの解体をしている零人に、剣の整備が終わったリンが話しかける。
「調理の時間まで含めたら一時間はかかると思うぞ」
「やはり私も手伝った方がいいのでは?」
「あー大丈夫。リンが手伝うと余計時間かかるだろうし」
「そうですか。では私は少し運動をしてきます」
魔物達が、ドラゴンの死体を求めてか、はたまたドラゴンを恐れて離れていたのが戻ってきたのか廃墟の回りに集まりつつあった。
「私が戻ってくるまでに料理を作っておいて下さいね」
「あまり速く倒してきたら無理だからゆっくりしてきてくれよ」
「保証はしかねますね」
笑いながらそう言うと、剣を持って、リンは魔物達の方へ向かっていった。
「…魔物倒すのに間に合せないとなー」
リンが去ったのを確認して再び零人は解体作業に戻った。
「美味しそうですね」
「お帰り。なんとか間に合わせたよ」
リンが魔物達を倒して戻ってくると、数々の料理が用意されていた。その中でも一際目を引くのが大きなステーキだった。
「これがドラゴンのステーキですか」
「ドラゴンなんて焼いたことないから大変だったよ。とりあえず熱いうちに食べてみてくれ」
「はい。では早速いただきます」
ステーキにナイフを入れ、一切れ口に運ぶ。
「これは凄いです。とても柔らかい上にすぐに舌の上で溶けてしまいました。何よりしっかりとした味がとても素晴らしいです」
十人前はある大きなステーキと数々の料理が、小柄な女性のはずのリンが一人でどんどん食べていく。
「しかしほんとよく食うよな。まあ作りがいがあるからいいけどな」
「零人は逆に食べなさすぎですよ」
対して、大きめの身長を持つ零人の前には、一人分にも持たないほどの少量の料理しか置いていなかった。
「まあどうせ残りを帰ってから食べるんだし今はこれくらいでいいんだよ」
「まだあるのならおかわりしたいのですが」
会話をしているうちに、リンの前からは料理がすっかり消え去っていた。
「おいおい忘れたのかよ。お土産に持っていく条件で今日は、来てるんだぞ」
「しかし今日はドラゴンを食べるためにわざわざここまで狩りに来たのですからもう少し食べたいのですが」
「そう言われても約束だからな。まあ全部渡す訳じゃないからまた明日以降に食べようぜ」
リンの意見を退け、零人は自分の食器を片付け始める。
「わかりました。明日また食べるとしましょう」
それに続きリンも食器を片付ける。
「暗くなってきましたね」
「夜に行動するのも危険だし、ここで今日は休むか」
廃墟を後にして、拠点に戻る途中で日が落ち夜になっていた。
荒野に赤と青の二つの小さなテントが並ぶ。
「今日は疲れましたが念願のドラゴンを食べることが出来て満足しました」
「俺もドラゴンの解体は久しぶりだから骨がおれたよ」
テントの前に用意した焚き火で、ホットココアを片手に二人は今日起こったことを整理するように話す。
「さて、そろそろ眠りましょうか。明日も早いですし」
「明日?…ああそっか。そうだった。嫌なことを思い出してしまった」
鬱そうにそう言いながらも零人はテントの入口に手をかけ、リンも自分のテントに向かっていく。
「じゃあおやすみ。また明日」
「はい。また明日」
テントに入り意識が落ちていく…
「さて、明日の準備をしないとな」
ヘッドギアを外してベッドに置き、今日のゲームの内容を思い出しながら、明日の準備をする。
明日の仕事も、終わったらあの世界に行けると考えると頑張れる。
そんなことを考えながら、準備を終えた東雲 宗助は眠りについた。