先の未来が見える俺のどうしても救いたい人
俺が初めて彼女に出会ったのは小学3年生の冬の頃だった。
俺は1番前の席で他県から転校して来た彼女を見た瞬間、俺は…俺の力はこの子の為にあるのかと思ったほどだった。
俺の力は10秒先の未来が知れること。とは言っても知れるのは危険な事だけなんだが…。
彼女の姿は足や腕には絆創膏が貼ってあり、本来は綺麗な肌の筈なのに傷痕が多くあった。
「くっ…」
俺の力が発動する時は決まって頭に映像が浮かび、少しの痛みを伴う。…どうやらこの後、彼女は教壇のある所と床の段差を踏み外し転ぶみたいだ。
「皆さん、今日からよろしくお願いします!」
担任の先生が席を教え、歩き出した。俺は来る未来に備え動き出す。
「あっ…」
彼女が足を踏み外し倒れてくる。それを俺は支えた。…つもりだったが重さで一緒に倒れてしまった。
それが俺、大井幸賀と彼女、薄目幸の出会いである。
◇◇◇
高校2年の冬、俺がいつもの様に歩いていると頭痛がした。同時に未来も見え、ここ8年9年は当たり前になりつつある危険に備えた。
俺は後ろを振り向き、衝撃に備える。
「おはよう!幸賀…あっ!」
どん!っと頭から俺の胸元に突っ込んで来る彼女を受け止め俺も挨拶を返す。
「おはよう幸、今日もおっちょこちょいだな。」
「えへへ、いつもありがとう。幸賀と出会ってから不思議と一緒の時は怪我しないんだよ?」
「その分、俺が怪我してるんだけどな…」
「そ、それはごめんね…いつもそそっかしくて。」
「冗談だよ…ほら、学校行こうぜ。」
幸は本当にドジをやらかす。普通の人が1日にやらかす10倍以上はやらかす。今もこのまま歩けば鳥の糞が落ちてくる。『幸が歩けば糞にあたる』という言葉を俺が作った程だ。本人はちょっとドジした。くらいにしか思ってないらしい。大怪我という大怪我をしていないのが不思議なくらいだ。
「ストップ幸」
「どうしたの?」
「襟が折れてる。」
「あ、ありがとう!」
こうして秘かに危険を回避している。幸には俺の力の事は話していない。言っても幸のドジはどうにもならないからな。
俺と幸の家は割と近い所にあって一緒に登校するのが当たり前になっていた。お互いの家にもよく遊びにいく関係だ。
教室に着くと俺の役目はひとまず終わる。幸の友達がちゃんと見ててくれるからだ。
「おはよう!あんたら本当に仲良いわね」
「おはよう皐月ちゃん。今日も幸賀にぶつかっちゃった。」
「幸賀君も大変ね…。」
「もう、慣れたよ。見ておかないと目を離せない子供みたいで怖いからな」
「こ、子供じゃないもん!」
「はいはい、今日はお弁当忘れてない?」
「忘れてないよ!ほら、鞄の中に……無い!お弁当が消えちゃったよ~」
「消えてるのはお前の記憶だ。お前が弁当を忘れた時のお金はおばさんに貰ってあるから今日は購買に買いに行け」
「ホントに?良かったぁ~」
「いや、なんで幸賀君が預かってるのよ…理由はわかるけど」
その日も転んだり、体育の授業中に男子が蹴ったボールが当たったり、その程度の事で済んでホッとした。
◇◇◇
「ただいま~お母さん、帰ったよ~」
「あら、お帰り。幸賀君、今日もありがとね。ちょっとあがって行かない?」
「そう…ですね、じゃあお邪魔します。」
「お菓子でも食べながら一緒に宿題しよう!」
「すぐお菓子とお茶の準備するからリビングで待ってて。幸は着替えて来ちゃいなさい」
「はーい。」
幸は部屋に戻って、俺と幸のお母さんはリビングに入った。
「それで…今日のあの子はどうだった?」
「初っぱな俺に激突ですね。まぁ、これはもう慣れましたけど…」
俺はおばさんに会ったら幸の様子を報告している。怪我は少なくなったとはいえ心配な事には変わらないのだろう。
「…ってのが今日あった事ですね。」
「そう…いつもありがとね。なぜあの子はあんなに不幸に見舞われてるのかしら。幸賀君に会う前はもっと酷かったの…出来ればこれからもあの子の事を見てて欲しいんだけどなぁ?」
「それは…まぁ、心配ですから…」
「ふふ。見ていてあげてねあの子の事。」
「ええ、ちょっと失礼します。」
俺は部屋を出て、階段から落ちる予定の幸を助けに行った。昔と違って俺が倒れなくなったのは幸に鍛えられたからである。
それが俺と幸の高校時代の最後の思い出だった。
◇◇◇
雨が降ると今でも思い出す…
あの日、あの高校時代の冬の出来事を…
俺が自分の力を過信して失敗した日を…
幸の心に傷を負わせてしまった事を…
◇◇◇
「今日は雨か…。幸のドジが増えるから気を配らないとな。…迎えに行くか。」
雨は危険が増える。地面が滑りやすかったり見通しが悪かったり。だから雨の日は幸の家まで迎えに行く事になっている。
幸の家に着くともう準備は出来ていたらしくすぐに出発した。
「行ってくるねお母さん!」
「今日は一段と冷えるし気をつけるのよ…幸賀くん、よろしくね」
「はい、行ってきます」
俺と幸は歩いて行くと幸が手を繋いで来た。
「冬は寒いね~、手袋忘れちゃった。あはは」
「ほら、俺の手袋」
「片方だけ貸して、もう片方は…ね。」
「このままか?しょうがないな。」
「へへ、暖かいね幸賀」
「ちゃんと前を見て歩けよ。」
俺達はそのまま学校まで行ったが、今日は珍しく幸のドジが無かったなと思ったが無いなら無い方がいいよな、なんて思って気にしなかった。途中クラスメイトにからかわれたりしたが、ここだけの話、俺は幸が好きだったから気にしなかった。最初は危険があるから助けてた、それだけだった。次第に幸の不幸にも負けない明るさや前向きさに引かれていった。ドジしながらも照れながら笑う顔が大好きだった。
「幸賀、手袋ありがと。」
「持っといていいぞ、どうせ放課後も使うんだから」
「うん!えへ、先に帰らないでよ」
「わかってる。」
その日の学校でもドジは無かった。普通に歩けて普通に走れている。クラスメイトも驚くくらいに今日は何も無かった。幸の不幸も遂には諦めたかってみんなで盛り上がった。だから油断していた。不幸は諦めてなんか居なかった。不幸のレベルを上げていただけだった。それは帰り道でやってきた。
「帰ろ!幸賀」
「そうだな。雨やまないなぁ。」
「今日はドジを克服した日だからへっちゃらだよ!」
「そうだな、早く帰っておばさんに報告するか。」
「うん!」
俺達は学校を出て帰り道の途中にある繁華街へと寄り道をした。今日は雨で人通りも少なかくどんよりとした空気がそこを支配していた。
「私もノートとシャーペンの芯買わないと、無くなりそうだし。」
「俺もだ。とりあえず文房具屋に寄って帰るか」
商品を見つけ、会計を済ませて店を出た。
その時だ…不幸がまとまって襲いかかってきたのは。
「ぐあぁぁ」
「ど、どうしたの!?大丈夫幸賀?」
大丈夫じゃない…今から10秒後にトラックが…トラックが…クソ!
「幸、走れ!早く!」
「え?あっ…痛っ」
幸がおもいっきり転んだ。クソここに来てなんなんだよ!
「幸、早く!」
「あ、足が…痛い!」
「た、頼む早く、ここを…間に合わ…幸!俺の手を…!」
「う、うん…」
幸の手を掴んだ俺は……
そのまま幸を反対側へ引きずりながらも出来るだけ遠くに放り投げた。
「…え?」
「ごめん幸…これがげんか………」
減速しながらもスリップして突っ込んで来たトラックに俺は吹き飛ばされた。俺が見えていた未来は横たわるトラックと泣いている幸、思い返すと俺の姿は見えなかった。あれは幸の不幸じゃなくて、俺の不幸だったのかもしれないな。そう思いながらも意識は薄れていった。
◇◇◇
…俺は運良く生きていた。生死をだいぶさ迷っていたらしいけど。
目を覚ましたのは事故から1年たった後。
動ける様になったのはそれからだいぶたってから。
頬や腕や足に傷が残った。でも…
傷ついたのは俺だけじゃなかった。
◇◇◇
目が覚めた俺が最初に言った言葉は「幸」だったらしい。自分では覚えていないけど。あの後どうなったかを聞いたが、トラックで怪我したのは俺だけだったらしい。そこは安心した。
俺の家族はいくら聞いても幸の事を話したがらなかった。お見舞いにも1度しか来ていないらしい。唯一聞いた話だと、あの日以来、家から出なくなってしまったらしい。これは、会いに来てくれた幸のおばさんに聞いた話だ。おばさんには凄く感謝されたし謝られた。俺は幸のせいじゃないと言ってから、俺は約束した。体が治ったら幸に会いに行くと。
俺は今、歩く練習をしている。会わないといけない人がいるから。
日に出来る限界までは歩く練習をした。早く会いたいから。
それを毎日繰り返して行く。
早く会いたい。会わないといけないという思いだけで俺はリハビリを続けた。
なかなか歩けない自分に苛立ち焦る事もあった。
それでも歩いて歩いて、ただ歩いた。
ようやく補助無しで歩ける様になった時には丁度、二十歳を迎えていた。
俺と幸の誕生日は2日違いだ。俺は幸の誕生日に幸に会いに行く事をおばさんに伝えた。ケーキを用意して待っていてくれるみたいだ。
2日後に俺の母さんがスーツを用意してくれていた。女の子を迎えに行くなら一張羅というのが母さんの持論らしい。ありがたく着させて貰ったよ。
「じゃあ、行ってくるね」
「行っておいで」
俺は病院を出て学校に向かう。そこからスタートするべきだと思ったからだ。
学校から歩き出し、あの日を思い出しながら繁華街へと向かった。
俺はノートとシャーペンの芯を買って店を出る。ここからがあの日の続き…。行こう。幸のもとへ。
一歩一歩、前よりは遅い足で幸の家へ向かう。繁華街から10分もあれば着く家に倍以上の時間がかかった。でも、たどり着いた。
「たしか、おばさんが家の鍵を開けててくれるって言ってたな…」
ガチャっとドア開き、家に入る。おばさんが玄関に居て、上を指差す。
俺はゆっくり階段を登り実は数回しか入ったことのない幸の部屋の前にたつ。
トントン
「……。」
トントン
「……。」
トントン
「ただいま、幸」
「……!あ…あ………うわぁぁぁぁぁぁん幸賀ぁぁぁぁぁぁ…」
俺の力が久しぶりに使用された。
でも、俺は動かない。
ドアが開き、幸が飛び付いてくる。
「幸賀ぁぁぁぁぁぁうわぁぁぁぁぁぁん」
「いてて、お待たせ…幸。」
「ごめんねぇぇぇごめんねぇぇぇ」
「幸…俺もごめん。…今度は幸を支えられるようになるから。生涯を賭けて君を不幸から救ってみせるから。……また、俺と共に歩いてくれないか?」
「…うん!うん!今度は私も幸賀を守るから!うぅ…う…」
しばらく幸は泣き続けた。今までの分を全て吐き出す様に泣いていた。
「二人共、誕生日の用意は出来てるわよ。降りてらっしゃい」
俺と幸は顔を見合せ同時に言った。
「幸…」「幸賀…」
「「誕生日おめでとう!」」
今でもこの笑顔を守り続ける為に俺の力があるのだと思っている。
もし、もしいつかこの力が無くなってしまっても俺の全てを持って幸せにしてやろう。
俺がどうしても救いたい幸という女の子を。
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