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メイド・オブ・シャドウ  作者: 伏見 七尾
Ⅴ.風が全てをさらっても
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Memento:忘れないように

 ――私の名前はメリーアン。種族は幽霊。監獄館のイケてるメイド。

 旦那様の名前はルシアン=マレオパール。種族は(旦那様曰く)世界最高の美男子。

 これから、こんな感じでメモを書いていこうと思います。

 先日、ようやく私はこうして形を得ることができました。

 旦那様の話では私のように死んでから大分時間が経った幽霊は、よく勘違いや物忘れをするそうです。魂が意志を持つことを忘れてしまっているとか。

 実際、この前は旦那様に紅茶を出すはずが間違えて石炭を出してしまいました。

 多分頭の中で『紅茶を淹れないと→紅茶を淹れるためにはお湯を沸かさないと→お湯を沸かすためには石炭が必要』と順々に考えているうちに台所でお皿を割ってパニックになったので、ゴチャゴチャになってしまったんだと思います。

 あと、今日は一日自分の名前をマルガレーテだと思っていました。

 これは今朝、旦那様が過去の愛人の名前で私を呼んだせいです。これについては私はあんまり悪くないと思っています。ただ、自分の名前がわからなくなるのは問題です。

 だから、しばらくこうしてどんな些細な事でもメモにとろうと思います。

 オーブンの火の入れ方も、服の繕い方も、空の飛び方も、物の持ち方も――全部。

 私には過去がありません。未来もあるかわかりません。

 だから、私にとって一番大事なのは現在の立ち位置をはっきりさせること。

 なので今このときの自分にとって大切なものやことを、忘れないようにしっかりと、繰り返し書き留めていこうと思います。

 一番大切なものは、特に何度も繰り返して。――こんなふうに。

 私の名前はメリーアン。種族は幽霊。監獄館の猟犬。

 旦那様の名前はルシアン=マレオパール。種族は自称美男子。

 多分、本当の種族は外道畜生。

 それでも、私のたった一人のかけがえのない旦那様。

       ――メイドの部屋に大量に貼り付けられたメモの中の一枚


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