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メイド・オブ・シャドウ  作者: 伏見 七尾
Ⅱ.さまよう牙に告ぐ
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1.旦那様が図書室に塔を作る

【虎】を退治したその翌日のこと。

 昼間でも薄暗い監獄館の玄関。その隅にある小さなテーブルで、メリーアンは館に届いた手紙を一つ一つ分けていた。

「……この辺りは全部脅迫状ね。とりあえず旦那様に見せてから処分しましょう。これは確か前の愛人さんで、それでこっちは……あ、こっちも脅迫状だわ」

 この第四区も魔女街ではそこそこ危険な区画だ。

 そのため郵便屋は一週間に一度、手紙をまとめて運んでくる。郵便屋は危険な街区にあまり頻繁に入りたがらないため、配達手数料も当然高い。

 メリーアンは銀の盆に手紙をこんもりと盛ると、しばらく目を伏せた。

「……図書室かしら」

 かつてかわした契約の影響だろうか。意識を集中すれば、メリーアンはルシアンがどこにいるのかうっすらと感じ取ることができた。

 正面の階段を上がり、二階にある図書館のドアをノックする。

「旦那様、一週間分のお手紙です」

「入れ」

 ルシアンの返事を受け、メリーアンはドアを開けた。

 広い部屋は、全ての壁が本棚で埋め尽くされている。天井には星座をモチーフにした絵が掛かれ、部屋の隅には宝石で作られた巨大な天球儀が置かれていた。

 赤い絨毯の上には無数の本が塔を成し、奥のテーブルにも本が積み上がっていた。

 そんな雑然とした図書室のちょうど中央にルシアンはいた。

 赤いベストと黒いシャツといういつもよりも楽な格好で、大量の紙箱を整理していた。

「手紙は向こうにまとめて置いておけ。あとで適当に流し見する」

「合点承知です。――ってもう、読んだ本はちゃんと片付けてくださいよ。掃除するの誰だと思っているんですか?」

「お前。――それでなにか面白そうな手紙はあったか?」

「ほとんど脅迫状ですね。あと前の愛人さんから結構ヘビィな感じのお手紙が」

「やれやれ、人気者は辛いな」

 ルシアンは肩をすくめ、また一つ紙箱を積み上げた。

 どうやら模型の箱を整理しているらしい。ルシアンの傍には真新しい箱がまだまだ大量に残っていて、整理されるのを待っている。

「――よし、全部あるな」

「今度は一体何を買ったんです?」

「軍艦の模型だ」

「前も同じようなのたくさん買ってましたよね?」

「これは外界の企業が作ったものでな。魔女街ではなかなか入って来ないのだ。だから時期が来たら、こうして一気に買うのだ」

「前に買った奴もまだ作ってませんよね? 箱ばっかり積み上げて何が楽しいんです?」

「や、やかましいな。そのうち作るのだ、そのうち」

 珍しくルシアンがやや狼狽えたその時、図書室の片隅に置かれた電話が鳴り出した。

 ルシアンが電話へと近づき、そのまま動きを止める。

「……何故出ないんです?」

「いや……何か今日は嫌な予感がする。これは無視しよう。いいな?」

「ダメですよ。大事な用事だったらどうするんです?」

「我輩はいません。いないのでどうしようもありません。そういうことで無視する」

 メリーアンはパンッと手を鳴らした。

 すると独りでに受話器が跳ね上がり、ルシアンの口元でぴたりと止まる。

「……なんだ、誰だ」

 ルシアンは恨めしげにメリーアンを睨みながら受話器を取った。

 相手といくらか言葉を交わした後、ルシアンは微妙な表情で電話を切る。

「どちら様でした?」

「アルカだった。店に来いだと。おおかた虎の話だろうな」

 言いながらルシアンはコート掛けからスーツのジャケットを取る。

 ジャケットを羽織り、髪やネクタイを軽く整える主人の姿にメリーアンはやや戸惑った。

「え、今から出かけるんですか?」

「さっさと済ませたい。今日はともかく嫌な予感がする……こういう日の用事は早めに済ませるに限る。行くぞ」

 その言葉に、メリーアンははっと目を見開いた。

 ルシアンは「行くぞ」と言った。それは明らかにメリーアンに向けられた言葉。

「わ、私も付いていって良いんですか?」

 にわかには信じがたく、メリーアンは慌てて自分のことを指さして確認する。

 するとルシアンは鼻を鳴らし、図書室のドアを顎でしゃくった。

「……虎の依頼を受けたのはお前だろう。付いてこなくてどうする。早く出るぞ」

「はい、はい! すぐ用意します!」

 メリーアンは大喜びで何度もうなずき、出かける支度を始めた。

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