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アダマントを求めて

 古より、この世界では、ヒトと竜人(りゅうじん)が併存してきた。

 足りないものを互いに填補し合い、共栄してきた二つの種族は、各地で巨大な文明を築き上げ、国家を形成していった。

 彼らは信じてやまなかった。この関係が、未来永劫続くのだと。

 だが、いつしかこの均衡は崩れ去り、竜人は、力と知恵でヒトを凌駕するようになった。

 おのずと確立された優越関係。

 のちに数千年もの間――とある大国の皇帝が、再び二種の共栄を提唱するに至るまで――この関係は継続することとなる。





 ◆ ◆ ◆





 ディアナにとって、父親の命令は絶対だった。

 幼い頃から習い事は数知れず、外で自由に遊び回る時間など与えられなかった。付き合う友人は制限され、言葉と体罰による厳しい躾はときに度を越した。

 そんな父親から宣告された、最後の命令。

「フレイム家へ嫁げ」

 十八歳を迎えたばかりの、ある晴れた春の日のことだった。

 ただただ威圧的に言い放たれた言葉。抑揚など一切なかった。そのときの父親の声音と、隣でほくそ笑んでいた継母の表情を、彼女は生涯忘れることはないだろう。

 両親を前に、彼女は一度だけ頷いた。喜ぶことも悲しむこともしなかった。

 なるべく感情は抑える過酷な環境の中で、自然と備わってしまった自分を守る術だ。

 ディアナが生まれたのは、旧家グランテ家。ヒトの中でもある程度社会的な地位を有するこの家は、代々男が家督を継ぎ、現当主である彼女の父親の跡は、異母弟が取ることになっている。まだ九歳と幼いが、彼にはディアナ以上に自由が認められていない。可哀想だとも思うが、彼女にはどうすることもできないのだ。もしかすると、弟と話す機会など、今後ほとんどないかもしれない。

 自分はこの家を出ていく身。

 いつかは出ていかなければならないと覚悟はしていた。けれど、まさかこんなに早く出ていく羽目になろうとは。

 おそらく、大半は継母の差し金だろう。先方から持ちかけられた縁談に、いち早く食いついたのは継母だ。なかば、体のいい厄介払いといったところか。

 シルクのように滑らかな金色のロングヘアー。星空のように輝く蒼眼。そして、きめ細やかな白い素肌。

 まるで絵画のごとく麗しいディアナの容姿は、十三年前に亡くなった前妻そっくりだった。年々美しく成長する彼女を見て、たいそう忌々しく思ったことだろう。

 はっきり言って、この家に未練など微塵もないが、嫁ぐことに対して抵抗がないわけではなかった。むしろ心臓は、不安と恐怖で塗りつぶされていた。

 彼女が嫁ぐのは、名門フレイム侯爵家。

 皇帝陛下はじめ、この国の貴族はすべてが竜人で、彼らが政治を司っている。

 すなわち、彼女の夫となる人物は――竜人だ。

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