第3話【世紀の一戦】
刺ノ坂たったひとりだけになってしまった翌年の大相撲春場所。そこに、なんとひとりの力士が出場をした。
その力士とは情熱丸、十両になったばかりの20歳の青年。実は彼はこれまで怪我のため入院しており、刺ノ坂事件をずっとテレビのニュースで見続けていたのだ。
やがて全身トゲだらけの刺ノ坂をみんなが怖がり、大相撲への参戦をすべての力士がやめてしまった。『それならオレが刺ノ坂と戦ってやろうじゃないか』と情熱丸が唯一立ち上がったのである。
……運命の取り組みの瞬間はやってきた。刺ノ坂vs情熱丸。
その日の刺ノ坂はいつもと変わらぬトゲだらけの全身タイツ姿。全身を覆うトゲ1本1本が鋭利に尖っており、触れただけで指から血が吹き出そうだった。
この世紀の一戦見たさに両国国技館は満員御礼。刺ノ坂に戦いを挑んだ命知らずの力士・情熱丸はなにをやってくれるのか?日本中がテレビの前に釘づけになった。
相変わらず表情を変えない行司。そして取り組みははじまった。
「ハッケヨーイ、ノコッタ!」
意外にも先に仕掛けたのは情熱丸。彼は刺ノ坂の全身を覆うトゲに微塵も臆せず、正面から190センチ、150キロの巨体をぶつけていった。
その瞬間、情熱丸の全身に激痛が走り渡る。
「うがぁぁぁぁっ……」情熱丸は苦悶の声を発してその場に倒れ込んだ。
と、そのときだった。数人のスーツ姿の初老たちが土俵に割って入り、情熱丸を担架に乗せて救急車へと運び去っていった。