ヌルり
暑い。
熱い。
厚い。
どうしてこの国はこんなに暑いんだ。
もう梅雨だし……。
どうして屋外に放置しておいた自転車はこんなに熱いんだ。
昨日は昼まで雨だったから乾かそうと思って放置しといたのに、こんなになるなんて。
はぁ……。
なぜこんな厚い辞書を持ってかないといけないんだ。
ついでに重いし。
嗚呼あの電子辞書、なぜこのタイミングで壊れやがるんだ。
そういえば、いつの間に私は受験生になったのだろうか。
はぁぁ……。
まぁ、急がないと昼からの補習に間に合わないなぁ……。
厚い辞書の入った鞄を背負い、熱くなった自転車のハンドルに手をかけ、暑さもピークを迎えようとしている世界に繰り出す。
あぁ、暑い。
汗がしみだし手が滑る。
昨日の雨によってできた水たまりがまだ残っていやがる。
自転車の前輪がはね飛ばした泥水が足にかかって気分が悪い。
側溝の金属性の蓋の上を通ると滑って危うく転倒しそうになる。
あぁ、すべてがテンションを下げる要因にしかならない。
暑いよりは寒い方が耐えられるんだが。
早く冬にならんかなー。
あ。
汗が目に入り、手で拭う。
そのわずかな不注意の間に信号のない曲がり角で側溝の蓋を踏んだ。
濡れていてスリップし、転倒する。
鞄が重たい。
立つ気がしない。
あー、頭痛いな。
チェーンの外れてしまった自転車をたててハンドルに鞄をひっかけ、後頭部に手をやると、汗とは違う液体の質感があった。
手をみると、あぁ、紅い。
このまま補習行くのめんどいな。
あー、視界が歪む……。
救急車でも呼ぼうかな。
塀に寄りかかってポケットに入っていた携帯を取り出すと、転んだ時に壊れたのか、画面が真っ黒だ。
どうしよ?
その後近所のおばちゃんに無事発見され救急車で病院に運ばれ、熱中症と診断されましたとさ。