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忘れられた神々の寵愛  作者: 小鳥遊つかさ
26/33

信頼の値段 〜前編〜

思ったより長くなったので前編・後編に分けました。

 商人ギルドを入って左側の商談用の部屋にはまばらだけど何人かの冒険者と商人が交渉を行っていた。

 レイさんはすでにガネリと少し奥のテーブルで話し合っているみたいでこちらに背を向けているガネリの顔は分からないけどきっと嫌味な顔で安く買い叩かれているのだろう。レイさんの表情から苛立ってるのが分かるわ。

 ちなみにダミアンさんはまだ商人ギルドには入って来て貰ってない。

 一緒に入ると下手な勘繰りされて今日だけおべっか使う商人が居るかもしれないので時間をズラしてとお願いしてあるわ。


 レイさんは入口のわたしに気付いたみたいね。

 軽くわたしと目を合わせて打ち合わせ通りにガネリにサンドラビットの毛皮を出した。

 ガネリは少し驚いたみたいだけどレイさんから毛皮を受け取り、毛皮の切り口や毛並の良し悪しをしっかりと確認しているみたい。

 その間にわたしはカウンターで素材を預かって貰って3枚目の預かり札を受け取った。

 ガネリは鑑定が終わったのか、毛皮の切り口などを指差しながらレイさんにまた何かを言ってるわ。

 きっと毛皮の剥ぎ取りに関しても貶しているね。話を聞いているレイさんが険しい目つきで歯を食いしばって我慢しているのが分かる。

 苛立つ様子で自分の髪をくしゃくしゃとかくレイさんを確認してわたしもガネリの元に向かった。

 レイさんにはガネリが提示した金額が相場より安かったら髪を高かったら頬をかくようにお願いしていたけど…やっぱり安く買い叩かれたみたい。


「あっ、ガネリさん!昨日は色々教えてくれてありがとうございます!」

「ん?あぁ、昨日の…アルフだっか?気にしなくてもいいぞ。オレのような商人は君みたいな駆け出しの冒険者を助けるのは当たり前だからな」


 心にもないことを喋るガネリにレイさんは悪態をついていたけど気付かないようにして、わたしはガネリの言葉に感心したように嬉しそうな顔で話さなきゃね。


「本当にガネリさんみたいな商人に出会えてわたしは運が良いわ。

 あの、それで今日は買取して欲しいものがあるのですが…もしかして商談中でしたか?」

 そう言いながら、わたしはガネリから見えないようにレイさんに顔を向けてウインクをした。

 レイさんはそんなわたしに軽く頷いてくれた。きっとわたしに全てを任せてくれたと信じて、ガネリに体を向けた。


「確かに商談中だか、せっかくのアルフの初めての買取だ。

 まぁ、一緒にしても構わんだろ。

 レイもそれでいいな。価格値段も決まったんだからアルフのと商談の間、おとなしくなってろ」

 少し考える振りをしながら、わたしには優しく、レイさんには余計なことを言うなとでも言うように厳しくレイさんを睨むガネリ。

 それに対して分かったの一言だけ喋って下を向いたレイさんを見てガネリは満足したみたい。

 わたしに早く見せなさいと素材を促してきた。


 わたしがガネリにサンドラビットの毛皮を1枚差し出すとガネリは、ほうと一言漏らして毛皮の鑑定に入った。

 ガネリは毛皮裏にしたり表にしたりしながら毛並であったり切り口だったり丁寧に見ていく。

 この姿だけ見たらしっかりと鑑定してくれる良い商人に見えるかもね。

 ただ、内情を知るわたしには難癖つける為に不備を見つけようとしているようにしか感じなかったわ。


「アルフ、この毛皮はギルドで剥ぎ取りを依頼したのか?」

「いいえ、わたしが自分でやりました。剥ぎ取りした後、すぐここに持ってきたのですが…」

「そうか」


 鑑定の手を休めることなく聞いてきたガネリがわたしの返事を聞いた一瞬、口元が笑った気がした。

 まぁ、何を思ったかは大体想像つくけどね。


「アルフ、残念だが…この毛皮の高く買えないな」

「え?」

「君がショックを受けるとは思うがオレも商人だ。自分の目に嘘は付けない。毛並や毛皮の大きさは問題ないが、アルフの剥ぎ取りが拙いな。

 まず毛皮の切り口のここだが…」


 わたしが驚いた返事をすると毛皮の剥ぎ取りがどれだけ酷いかを熱弁し始めるガネリ。

 ガネリがどこまでいうか分からなかったのでわたしは目線を下にして黙っていると気を良くしたのか更に細かな所まで言い出し始めた。しまいにはレイさんの持ってきた毛皮と比較してどちらの毛皮の剥ぎ取りも下手なことと、レイさんの毛皮はここが、わたしの毛皮はここが悪いと自慢気に言い出した。

 わたしは更に下を向いて萎縮したように体を小さくしてそんなと一言呟き更にガネリの反応を待った。


「アルフ、君が落ち込むのは仕方ないが、まだ成り立ての冒険者だろ。これは勉強代だと思え。もっともっと剥ぎ取りの練習をすれば上手くなるさ。これもオレが買ってやるからまた狩ったらオレの所に持ってこい」

「ちなみにその毛皮はいくらなの?」

「そうだな…剥ぎ取りの腕が良かったなら鉄貨25枚はいくが、これはな。

 普段なら鉄貨10枚ぐらいだがアルフの初売りの祝いを兼ねて13枚でどうだ?」

「剥ぎ取りだけでそんなに変わるの?」

「あぁ、だからこそアルフも練習しろ。オレが全部見てやる!」

「えっと…他の商人さんじゃダメなの?」

「おい、アルフ!君はオレの目が信じられないのか!それに言いたくはなかったがこんな毛皮に鉄貨13枚も払うお人好しな商人なんてオレだけだぞ!」


 わたしの反論に段々と大きく荒くしていくガネリの声に周りも気になるのかチラチラと様子を伺う商人達の視線を感じた。

 その中に怒りの表情を浮かべ、ガネリを睨んでいるダミアンさんを見つけた。ガネリはわたしから毛皮を買い取ろうと必死でダミアンさんの視線には気付いてないみたい。


「あの…ガネリさん」

「なんだ?」

「ガネリさんは良い商人だと思うのですが…」

「あぁ、当たり前だ」

「その、ガネリさんの鑑定眼って信じていいのですか?」


 わたしのこの言葉に更に声を大きくするガネリ。

 わたしのか細い声に気を大きくしているのかしら。

 ダミアンさんが視線が怖すぎて、そのうち視線だけで人を気絶させれそうなのだけど、こんな強烈な視線に気付かないガネリは大物かもしれないわ。


「いいか、アレフ、よく聞け!

 こんな毛皮に鉄貨20枚以上も値を付けるような鑑定しか出来ないような奴の鑑定能力は3流、いや5流だな!

 逆にそんな値段を付ける奴が居たらいつかアレフを騙そうと企んでいると疑え!

 アレフ!君はまだ初心者だ!

 素材が高く売れないなんて当たり前だ!

 だが、オレは君みたいな初心者を手助けしてやりたい!

 こんなオレみたいな商人、そうそう居ないぞ!

 アレフは黙ってオレを信じて毛皮を売ればいい!」


 …もういいかな。いい加減頭が痛くなってきたわ。

 ずっと怒鳴っているけど喉乾かないのかしら?


「そう。ガネリさんの本音が聞けて良かったわ」

「あぁ、分かってくれたか」

「えぇ、ダミアンさん。お願いしていいかしら?」

「ようやくか。正直我慢の限界だったぜ」

「誰だ。君は?」

「俺か?おめえがいう5流の鑑定士だよ。冒険者ギルド専属のな」

「な、な、なんで冒険者ギルド職員がここに居るんだ!

 互いのギルドには不干渉のはずだろ!」

「干渉はしないさ。ただ出張鑑定の依頼の場所が商人ギルドってだけだ。

 さっそく鑑定するからその毛皮を渡しな」

「ま、まて。この毛皮は商談中だ。他の者に鑑定させるわけにはいかん。そ、そう。傷でも付けられたらかなわんからな!」

「あぁん?」


 無茶苦茶な言い訳をするガネリに苛立ち睨むダミアンさん。

 冒険者ギルドの鑑定士が鑑定品に傷つけるってどれだけダミアンさんの矜恃を傷付けたらいいのかしら。

 どうあっても渡そうとしないガネリのためにわたしはもう一枚のサンドラビットの毛皮を出してダミアンさんに鑑定してもらった。

 ガネリは更に慌てて何か言おうとしたけど、新しい毛皮は鑑定中じゃないだろのダミアンさんの一言に黙るしかなかったみたい。


「まぁ、鑑定と言ってもさっきの毛皮だしな。見るまでもないぞ。この毛皮は冒険者ギルドなら鉄貨22枚を出そう。そっちのお前が持っている毛皮もアルフが剥ぎ取りしたなら同じ値段で買い取ろう」

「さっきの毛皮?アルフ、君はオレを騙したのか?」

「わたしがガネリさんを騙した?」

「そうだ!先ほど君は冒険者ギルドでは鑑定してもらっておらず、剥ぎ取り後すぐに持ってきたと言ったいたが、あれは嘘だったのか?

 商談中に嘘を付くなんてこの商談は破談だ!」

 何、言っているのかしら。

 あまりのガネリの言い訳にわたしは言葉を一瞬失ってしまったわ。


「アルフは恐らく何も嘘をついてないぞ。

 冒険者ギルドで俺の前で剥ぎ取りをして、すぐここに来たんだろう」

「えぇ。ダミアンさんの言った通りでガネリさんを騙そうなんてしてないわ。

 むしろ、ガネリさんこそわたしを騙そうとしたの?」

「い、いや。そんなことはない!

 そ、そう。オレは駆け出しの君をわざと騙して後からこんな目には合うなよと進言してやろうとしただけだ」

「そうなの?じゃ、ガネリさんと始めての取引じゃなかったらしっかり鑑定してくれたの?」

「も、もちろんだ。当たり前じゃないか!」

「…そう。レイさんその毛皮借りるね。ダミアンさん、これもお願い」


 わたしはレイさんにそういうとガネリが行動する前に毛皮を取ってさっさとダミアンさんに渡した。

 ガネリの顔色が更に悪くなり、何か言おうとしてるけどもう遅いわ。

 ダミアンさんはわたしからレイさんの毛皮を受け取ると丁寧に鑑定をし始め、終わったらわたしに笑みを向けてくれた。


「この毛皮も良い剥ぎ取りがされている。アルフ、これもお前がしたんだろ」

「もちろん!その毛皮も買取は同じ値段で良いですか?」

「あぁ、いいぞ。俺が保証してやる」

「ところでレイさん。この毛皮の値段はいくらになったの?

 あれだけ言ったガネリさんなら良い値段がついたと思うのだけど」

「アルフ、残念だが鉄貨10枚の値段しかつかなかった」


 レイさんから期待通りの返答を貰って、わたしは少し声を大きくしようと一息ついたわ。

 周りの人達の視線も更に集まっているしちょうど良いわ。


「何度も取引してるレイさんに対してもこれならガネリさんの言葉が信頼出来ないわ。

 ダミアンさん。こんなことが商人ギルドで日常的に行われているなら、わたしは怖くて商人さんと縁なんて組みたくないわ。

 騙されるだけでしょ!」

「確かにこれは酷いな。互いのギルドマスターに掛け合って何とかしよう」

「ま、まってくれ。それはやめてくれ。オレが商人として居られなくなる」


 ダミアンさんと知るかと吐き捨てて睨んでいるけど、このままだとわたしが困るのよね。

 レイさんの借金を何とかして台所使用権と取らなきゃならないしね。


「ガネリさん。取引しましょう。

 商人としての信頼を得るためにガネリさんはわたしとレイさんに何をしてくれるのかしら?」

「この毛皮全部ダミアンの付けた値の5倍、いや10倍だそう。それでどうだ」

「話にならないぐらい安すぎだわ。

 せめて、そうね…わたしとレイさんにそれぞれ銀貨50枚ずつでどうかしら?」

「「「なっ⁉︎」」」


 わたしのあまりの金額に3人とも言葉を失ったみたい。

 その中でいち早く反応したのは当事者のガネリだった。


「調子にのるなよ!

 そんな高い金払えるわけないだろうが!」

「そうかしら?

 商人にとっての信頼の価格としては安いと思うけど?」

「ぐっ、しかし…そんなに払ったらどちらにしてもオレは商人としては終わりだ」

「それならこれならどう?」


 わたしがガネリに新しく提示した条件は買取品に限り1度だけダミアンさんが鑑定した値段の50倍で購入することと、今日からわたしとレイさんが採取してきた癒草を10束銅貨1枚と鉄貨50枚で買取をしてもらうことだった。

 レイさんが過去ガネリが買ってくれた癒草の最高値が銅貨1枚と鉄貨30枚だったので少し上乗せしてみたわ。

 それに対してガネリはしばらく考え2人で1日40束までならと言い、50倍の購入に対してもGランクのわたしとFランクのレイさんがそんな高額な素材は取って来れないと判断したと思うわ。

 それで信頼が取り戻したと思ってまた気を大きくしたのか、ガネリは条件を付けてきたわ。


「君は知っているかもしれないが、レイはオレに借金がある。その借金を払い終わるまで毎日癒草を採取するならその条件を飲もう。

 そして、レイにはもう1つ条件がある。

 いつも売っていた妹の病気に効く薬草の魔祓草だかな。

 他の街の領主の子供も同じ病になったみたいで魔祓草が高くなってな。

 今まで銅貨40枚が銀貨2枚に値上がりしたみたいでな。

 これをレイに購入してもらおうか。

 足りない分は借金に付けておく」

「そ、そんな一気にそんなに値上がりするなんて…」

「おい、ガネリ!魔祓草がそんなに値上がりしたなんて情報は冒険者ギルドにも入ってないぞ!」

「うるさい!まだそっちに情報が着てないだけだろ!それに商談中だ!黙ってろ!」


 ダミアンさんを黙らせようとしたガネリの態度で値上がりが嘘だとわたしも思うわ。

 レイさんは借金があるのか半分以上信じてるみたい。

 きっとガネリはレイさんの癒草の供給がなくなるのが困るからレイさんを借金で繋ぎとめておきたいのだと思うわ。

 ミイちゃんの病気は月1ぐらいで魔祓草が必要なのでわたし達が毎日癒草をガネリに買い取って貰っても月で銀貨2枚に届かないのだから…

 まだ反省してないのね。


「レイさん。仕方ないわ。その分2人で採取頑張りましょう」

「…でも、アルフ」

「レイさん、いいから。

 ガネリさん。

 いきなりの値上がりした魔祓草を買うのだから、その分お願いがあるわ。

 先ほどの50倍の買取に関してですが、ダミアンさんの鑑定とガネリさん以外の商人さんの買取価格との間の値段で買取して欲しいわ。

 少しでも稼がなきゃならないみたいだしね」

「まぁ、そうだな…そういや、期限を決めてなかったな。

 明日の夜までに持ってくるならその条件を飲んでやろう」

「明日の夜までって、そんな…せめて一週間ぐらい時間をくれよ」

「オレは忙しい商人だ。レイだけに時間を使うわけにもいかないからな」

「そうですか…レイさん、大丈夫よ。最悪、このサンドラビットの毛皮でも50倍で売れば魔祓草の足しになるわ。

 ガネリさん。期限を決めるのでしたら明日の夜までわたし達との商談を何よりも優先にして下さいね」

「あぁ、それぐらいいいぞ。

 そういや、最近は街の外は危険だしな。

 盗賊などに襲われないといいな。

 狩場では他の冒険者との獲物の取り合いで争うこともあるみたいだしな」

「おい、ガネリ!」

「何度も言わすな!商談には不干渉だろ!」


 暗に邪魔者を雇うようなことを匂わすガネリ。

 諦めをついたようなわたしの発言と弱気なレイさんの態度にもうわたし達を騙したことなんて忘れているみたいね。

 ダミアンさんがもう殴りかかりそうだし、周りの注目度も凄いし。

 後は保証だけね。


「ガネリさん。その条件で良いわ。

 ただし、それをあなたの信仰する神と商人ギルドに誓えるかしら?」

「ほう、駆け出しの冒険者が商人の契約を知っているとはいいだろ。

 レイ、カウンターから職員を呼んでこい」

「その必要はないわい」

「ギルドマスター!

 どうしてこんなところに」

「周りをよく見るんじゃな。これだけ騒がしいうえに冒険者ギルドの職員に商人の契約まで出たら、わしじゃなくても出てくるじゃろ!

 商人ギルドのマスターのゴードンのわしが契約の仲介人になってやるわい」

読んで頂いてありがとうございますm(_ _)m


後編は4日後に更新予定です。

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