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忘れられた神々の寵愛  作者: 小鳥遊つかさ
20/33

謳い文句

 ねぇ、ケイ。ソファラに何かした?

(…特にした記憶はないけど)


 わたし達は今は川沿いを馬車で走らせている。

 ドミニクの屋敷を出てから数日で川を見つけたのは僥倖だと思うわ。

 そこからはずっと川沿いを上流に向けて馬車を走らせている。

 魔獣に襲われてから旅に問題は出てないし、ソファラとの仲が日々親しくなってきている気がするわ。

 リーナには対抗意識がまだあるみたいだけど、事あるごとにわたしに対してはスキンシップを取ってくれる。

 ソファラ自身の趣味からわたしの好きな食べ物まで会話の内容も様々だけど、リーナが寝た後の夜にはケイに男性としてどんな女の子が好きなのかとか、リーナみたいな胸の大きなほうがアルフも好きなの?などと色々と恋愛事も相談しているみたい。どこの世の中も女の子には恋バナが1番なのね。

 ただわたしも寝ているのでケイとソファラの話の内容がケイから聞くしかないのだけど、日が変わるとソファラがわたしにベタベタする頻度が高くなるからケイが何やら地雷を踏み抜いたと思うのだけど…わたしの将来は大丈夫かしら?


「ねぇねぇ、アルフにぃ、おなか空いたからキョーカ食べていい?」

「えぇ、まだまだ量あるから好きなだけ食べていいよ」

「ほんと!アルフにぃ、大好き!」

 リーナもお腹空いたみたいだしもう少ししたらまた馬を休ませるべきかもしれないわ。

 リーナが馬車内でキョーカを食べているのを御者台から見ながらわたしはソファラのことを頭から追い出しておいた。まぁ、考えても変わるものじゃないしね。


 ちなみにリーナが食べているキョーカはサンドラビットの肉を叫化鶏(きょうかどり)を利用して作った保存肉のこと。

 叫化鶏は別名乞食鶏とも呼ばれる調理法。調理道具も何も持ってなかった乞食が手に入れた鳥を食べるために蓮の葉で鳥を包み地中に埋め、その上で焚き火をして蒸し焼きにしたところから由来している。

 それを利用して毒にならない大きめの葉で下処理してサンドラビットを包み、ケイが夜の番をしているうちに焚き火の下で毎日焼いて貰っている。

 本当は肉の周りを葉ではなく塩で固める塩釜蒸しも作ってみたいけど旅の間は食材は有限なので難しいと思うわ。


 下処理に塩や胡椒で味付けもしてあるし、長時間弱火で炙っていることで通常よりも柔らかくなったからかリーナはサンドラビットの叫化鶏がお気に入りになったみたい。

 こっちに叫化鶏とよく似た調理法があるとは思わなくて言い淀んだ際にリーナがキョーカだと勘違いしたみたいでそのまま呼び名を使わせて貰っているわ。

 後包みに使っている葉も香り付けに使えるのでリーナには休憩の度に見つけたら採って貰ってる。採れば採るだけキョーカが食べれると思ってリーナも率先的に集めてくれてるわ。


(メグミ、ようやく当たりかも)

 本当?ケイ

(うん。恐らく2人組で周りに人の魔力もないよ。後は馬車有りだね)

 かなり好条件ね。やっぱり川沿いで居て良かったわ。

 人が生きていくには水が必要だから川の近くを走ってれば誰かに会えるだろうと予測していた。

 そのうえで多人数や近くに隠れてる人が居たら強盗や盗賊の可能性も考えていたけど2人なら大丈夫でしょう。


 リーナとソファラに後ろで隠れてうるように伝えて、ケイの方向に馬車を走らせるとお目当ての馬車を見つけることが出来た。

 こちらの馬車とは違って一頭匹の馬車で後ろは荷台として使われており、荷台には様々な荷物が見えた。

 御者台には2人の男が乗っていてこちらに気付いているのか片方の男はすでに剣を出して警戒しているみたい。


 わたしは相手から十分に距離を取って馬車を停めると相手に警戒させないために両手を相手に見せる。

「風の女神の前に秤と果実を捧げてあなたの信用を得たいと思う!」

「おい、あいつ、何を言っているんだ?こちらを油断させる何かの手か?」

 わたしの言葉に剣を構えた男は更に警戒したみたい。


「水の眷属に酒を貢ぎ、あなたの信用を受けたいと思う」

 失敗したと思ったけど、もう1人の男が「同業者だから護衛は大丈夫だ」と言いながら、警戒を解いてくれる。

 相手の言葉を受けて、わたしは更に馬車を少し進ませる。

 そのまま互いの馬車が5mを切った所で再び馬車を停める。


「ほう、ずいぶんと幼く見える同業者だな。それとも小人族かな?」

「わたしの情報がご希望ならそれなりの対価を頂けないといけませんね」

「あはは、情報には対価が必要だもんな。あんたの情報は特に興味がないし、風の謳い文句を知ってるだけで十分だ。それで何が欲しいんだ?」

「わたしの欲しいのは身のない果実ですね」

「ほう、それで何を出せる?」

「こちらからは風の木の実か大地の石ですね」

「俺はどちらでもいいぜ。商談成立であんたが欲しい果実の味は?」

「ありがとうございます。わたしが欲しい味は近くの街で売っている味ですね」

「そうか、それならここからあちらに馬車で数日も行けばサナリの街がある。そこの果実があんたの欲しがっている味だろう」

「その味に対する対価は如何程でしょうか?」

「あぁ、その程度の味の果実なら大地の石を2個でどうだい?」

「では、それでお願いします。投げてもいいかしら?」

「あぁ」


 そんなやり取りの後、わたしはサンドラビットの毛皮を2枚男に投げて馬車を出発させた。

 馬車を通り過ぎる時に護衛の男の戸惑った表情が凄い滑稽に見えて通り過ぎた後しばらく笑ってしまったわ。


「アルフ、今のやり取りは一体なんでしたの?」

「ソファラ、今のは商人同士の商人の心得よ」

「商人の心得ですか?」

「えぇ、正確には謳い文句だけどね」

 ソファラは御者台にわたしと並んで座って説明を求めてきた。

 この謳い文句はフランさんに教えて貰った。

 行商人同士で旅の途中で困った際に相互に協力するために相手が同じ行商人か確認するための暗号みたいなもの。

 相手に呼び掛ける文言は年に数回商人ギルドから更新されるから、わたしの知っている文言と変わってたらどうしようと思ってたけどまだ大丈夫だった。


「アルフは行商人でしたの?わたくしめはてっきり狩人かと思ってたいたのですが…」

「どちらもはずれかな?行商人の知り合いに弟子にならないかって誘われているけどね」

「そうですの!もしそうなったらわたくしめのお抱えの商人になってくださいな!」

 そう言いながら「将来的にはお父様に認められて」とか、「いっそ駆け落ち」なんて物騒な単語をブツブツ言ってるけど全力で聞かなかったことにするわ。




 その後2日後の夜のサナリの街の宿屋の前でわたし達は途方にくれていた。

 旅路自体は問題なかったのだけど着いた時間が問題だった。

 サナリは街から街へ移動する人達の宿屋街として成り立っているみたいで商人ギルドがあまり発達してないみたい。

 そのためブライドの街と違って商人ギルドが24時間営業してなくて、わたし達が街に着いてギルドに行った時にはもう閉まった後だった。

 そのため、わたし達は今日泊まる宿代が一銭もない状態!

 何故、わたしはドミニクの屋敷でお金も慰謝料として取っておかなかったのかしら!

 食材と調理器具に目を眩んでいた時のあの時のわたしを一発殴ってやりたいわ!


「アルフにぃ、リーナ馬車の中で寝てもいいよぉ〜」

「わたくしめもアルフと一緒ならかまいませんわよ」

「う〜ん。それは…」

 人の目が少ない外なら良いのだけど、街の中で野宿は物取りや誘拐の点でやりたくないわ。

 サンドラビットの毛皮さえ売れたら3人分の宿代なんてすぐ用意できるのに。


「おい、ガキが気を付けろ!」

「きゃ⁉︎」

「ちょっと、アルフ大丈夫ですこと?」

 悩んで周りへの注意が足りてなかったみたい。

 わたしは酔っ払いにぶつかって転んでしまった。

 う〜ん。気をつけなきゃ。


「ソファラ、大丈夫よ」

「あ、アルフ。あの胸のペンダントが…」

「えっ?あ〜!!!」

 当たりどころが悪かったのかしら。せっかくパパから貰った御守りが半分に割れちゃってる。

 こうなると酔っ払いに文句でも言いたいのに酔っ払いは何処かに居なくなってるし、本当についてないわ。


(ねぇ、メグミ。そのペンダント何か変じゃない?中が光ってない?)

 えっ?ケイどういうこと?


 改めてペンダントを調べてみると粘土の中から銀貨が1枚出てきた。

 どういうことかしら?

 そういえば、パパから御守りを貰った時に街で困ったら地面にって言ってた気がするわ。


「パパ…ありがとう」

「アルフ?大丈夫ですの?ペンダントばかり見つめてますがやはり大切な物でしたの?」

「アルフにぃ、いたいの?」

「ううん。2人とも大丈夫よ。さぁ、改めて宿屋に入りましょう」

「何をおっしゃってるの?お金がないってさっきアルフが困ってた所でしょ?もしかして頭を強く打って?」

「ソファラ。大丈夫だから。お金を分けて持っていたのを自分でも忘れていただけだから。ね。」

「そうですの?それなら良かったですわ!」


 そう言って、わたしはリーナとソファラを促して宿屋に入り込んだ。

 パパの優しさを独り占めしたくてソファラに嘘付いたけどこれぐらいいいよね。

 その後、宿屋の受付で1部屋にするか2部屋にするか揉めたけどソファラ一声で1部屋になっちゃった。

 最近アティウスの所に行けてないからそろそろ顔を出そうと思ったのに今日も無理かしら。


 …これはさすがに寝れないわ

 1部屋になった時にまさかって思っていたけど。

 今、わたしの顔にはリーナのとても柔らかい胸が押し付けられてるわ。

 わたしに乗り掛かるように寝入っているリーナ。

 夜の番をしなくていいなら一緒のベッドで寝ようというリーナを断りきれなくて一緒のベッドに入ったけど、この胸は反則だわ。

 わたしに半分でいいから分けてくれないかしら。先程手でも弾いてみたけどわたしのとは比べものにならないぐらいにマシュマロみたいに柔らかいし…ズルイ。


 更には寝入ったらリーナをズラそうと思ったの思ったのだけど。

 リーナが一緒ならわたくしめもと言い出しベッドに入ってきたソファラがわたしの左腕を抱きかかえて寝てるからリーナをズラすことも出来ないわ。

 そのソファラも薄着で押し付けられたらしっかりと胸の膨らみを主張しているわ。

 こっそり左腕を少し動かしたら「あん」とか感度が良いみたいだし、わたしは何の苦行をしているのかしら。

 ちなみにケイは絶対変わらないと言われちゃったわ。

 本当は嬉しいくせに!


 こうやってサナリの始めての夜はふけていった。

商人の心得(風の謳い文句)

商人ギルドから発行される主に行商人同士が旅路の途中で出会い、交渉する際に互いが商人かどうかを確認するための隠語。

年に数度、商人以外が利用されないように掛け声が新しくなる。

また更新したばかりは知らない商人も居ることあるため、更新した掛け声を知らない場合は一つ前の掛け声を使うって返す。そのため、商人は風の謳い文句は最新から3つは覚えていることが必要。

交渉内容の隠語は変化しない

身のない果実…目的地などの情報

風の木の実…金儲けになりそうな情報

大地の石…素材等、売り物になるもの。石を鉱石や宝石と言い換えることで値段の吊り上げにも使われる

恵みの水…食材や水

神の秤…金貨


読んで頂いてありがとうございますm(_ _)m

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