知らない天井
〜 神白 恵 〜
……あぁ、夢か
目を開けて見知らぬ天井を見つめそう思い込んだ。
仰向けに寝ているわたしの目に飛び込んだ景色は馴染みのある白い天井ではなく、何年も時を経てそれでいて温かみがありそうな木目の天井であった。
もっともっと動き回りたいと思ったのに体は起き上がることはおろか、もどかしく手足を動かせるだけで横を向くことさえ出来ない。
こんなの酷すぎる。夢なのだから出来ないことがしたい。必死に起き上がろうと手足を動かしたが、木目の天井から景色が変わることはなかった…抱き上げられるまでは…
最初は体を動かすことに必死のため、いきなり抱かれてびっくりした。
しかし、彼女の腕の中に抱かれた時から感じる安心感から、あぁわたしは赤ちゃんになった夢を見ているんだと納得した。
それを肯定するかのようにコバルトブルーの瞳を細め優しい微笑みを浮かべながら、わたしを撫でる彼女の手が温かく気持ちいい。
…温かい?気持ちいい?
ちょ、ちょっと待って。夢にしてはリアルすぎない?
もどかしく手足を動かして、自分の体を叩いた…痛い…
「オギャー」
どうして!!っと叫んだはずなのに出た言葉は泣き声にだった。
「ーー、ーーーー」
英語?ドイツ語?
彼女の声も日本語じゃなく単語すら聞き取れなかった。
お、落ち着いてもう一度考えてわたし。
わたしの名前は…神白 恵。
昨日は夢に対してのお祈りが中途半端に終わったけど…それが原因?
いえ、もしかしてこっちが現実であっちが夢……なわけはないわ。じゃ、どうして?どうして?
無意識のうちに目を閉じていたのだけど、抱き手が変わったのか撫でる手の感触の違いに目を開けた。
…え?何あれ?
目付きが険しい男の人がわたしの顔を覗いている。
そして彼の頭の上には耳?ピンと張った三角の狼のような耳みたいなのが小刻みに動いていた。
そこがわたしの限界だった。
「オギャー‼︎オギャーー‼︎‼︎」
夢なら覚めて!!!
そう叫んでも聞こえるのは赤ちゃんの泣き声。
何も考えられず泣きながら、気が付くと意識を手放していた。
再び目が覚めて見た景色は…白い天井ではなく木目の天井だった。