出発
「さて、何を作ろうかしら」
リーナに部屋で待っていて貰いながらケイの案内の元、わたしは台所に来てた。
ドミニクの身なりからして屋敷に食材も豊富にあるのではないかと思ってたけど、予想以上に様々な食材があってわたしはリーナのことを忘れそうなぐらい興奮しちゃった。
特に調味料系が豊富にあるのが嬉しかった。こっちの世界では砂糖が高級品の一種みたいで一般家庭ではお祝いの時などに少し使われるぐらいだった。もしかしたらドミニク自身が行商人として生計を立ててたのかもしれないぐらいの砂糖・塩・胡椒その他様々な調味料が詰まった一抱えもあるツボが何十個も倉庫に見つけることが出来た。
とりあえずはケイと相談して慰謝料として全ての食材と調味料・料理器具は頂くことに決めたわ。こういう覚悟も必要ってことよね。
昨日はわたしもリーナもほとんど何も食べてなかったので胃に優しい物にしようっと。
そう決めるとわたしは牛乳を軽く熱するのと同時にキキと呼ばれる見た目は赤トマトみたいな野菜を塩茹でしておく。最初キキを見たとき、トマトだと思ってかぶりついたらトウモロコシの味がしてビックリしちゃった。
茹でたキキをすり潰して先ほど熱した牛乳にバターと一緒に溶かす。それに塩・胡椒で軽く味を付けてポタージュスープもどきを作った。
後は作り置きのパンがあるみたいだしチーズ入りオムレツでも作れば良いかしらと考えていたら部屋の外からドタバタと走る複数人の音が聞こえてきたので、わたしはドミニクの仲間がまだ残っていたのかと身構えしまった。
「アルフにぃ!美味しそ〜まだ?」
「いい加減、わたくしめをこんなにも放置するなんてどういうおつもりなのかしら?」
ソファラ、居たんだ。
リーナと一緒に台所に駆け込んできたソファラの姿を見てすっかりその存在を忘れていたわ。
後にケイから相変わらず紐で縛られてた所を解放してあげて、詳しくは明日話すから部屋でゆっくりしててと放置してたらしい。そしてエリナの遺言を伝えたことで安心してケイもソファラのことをすっかり忘れていたらしい。
「あなたがわたくしめを解放して下さったから信じてお待ちしておりましたのよ。それなのに、挨拶にも来ないとはどういうこt……はぅぅ」
ソファラの主張は彼女自身のお腹の音で遮られた。思ったよりも大きな音に恥ずかしいのかソファラは顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
「とりあえず、先にご飯にする?」
「わ〜い。リーナお腹ぺこぺこ」
「し、しかたありませんわね。本来ならこんな貧相な物を食べたくはありませんが」
「はいはい。良いから座ってて」
そう言いながら、リーナとソファラにチーズオムレツを作ってスープとパンを並べていく。
並べるそばからリーナは食べ始め「美味しい」とスープを飲む手が止まることはなく、見てて微笑ましい。
「こんな赤いスープなんてよく飲めますね。これだから気品のない者は」
そう言いながら、リーナとは逆に恐る恐るスープを一口飲むソファラ。
「ねぇ、お姉ちゃん。そのスープ嫌いならリーナにちょうだい!」
「な、何を言いますの⁉︎このスープはわたくしめのですよ!」
「え〜。だってさっき飲めないみたいに言ってたのに〜」
どうやら、ソファラもスープは気に入ったのかリーナに取られないように隠して飲む始末。リーナがどれぐらい食べるか分からなかったから多めにスープは作っていたのに、結局わたしの分も二人に飲まれてしまった。
食後に改めてソファラに昨日のことを伝えた。伝えたと言っても詳しいことをリーナがいる前で言うことも出来ず、わたしもリーナも部屋に篭ってたので分からず大きな音がしたので部屋から出たら誰も居なくて様々な部屋を探してソファラを見つけたと誤魔化したけどね。
「それであなたはこれからどうするおつもりなのかしら?」
「とりあえずはリーナをエルフの森に帰してあげたいから準備して昼前にはここを出る予定だけど?」
「では、わたくしめにどうやってブライドの街に帰れと?そんな子供よりまずはわたくしめをブライドの街に送り届けるのが礼儀じゃありませんこと?それにわたくしめを送り届けたら褒美がお父様より出ますよ」
「えっと、約束があるからリーナの方が先かな。まぁ、エルフの森の場所も分からないからまずは近くの街に寄ることになると思うけどね。と言ってもここが何処だか、近くの街の名前も距離も全然分からないけどね」
「では、その近くの街がブライドの街って可能性もあるわけですね」
「そ、そうだね?凄い可能性は低いかもしれないけど」
「いいですわ。わたくしめもついて行ってあげますわ。その代わりここに来るまでみたいに干し肉と水だけの食事はもう嫌ですわ。あなたがしっかり料理しなさい」
「えっと、、、善処するわ」
その後、わたし達は誘拐された時に使われた馬車を頂いて屋敷を出ていた。
結局食材以外にも屋敷の中から様々な物を慰謝料として頂いたけど残念なことに地図を見つけることは出来なかった。
そのため、ケイに探索魔法を使って貰って魔獣の少しでも少ない方向に向かうことにした。
馬車の旅はフランさんのやり方を参考にして馬が疲れたら無理せず休ませてその間に狩りを行うことにした。
旅がどれだけ続くか分からないし食料はどれだけあっても困らないと思うわ。
わたしが狩りをしている間はリーナとソファラには馬車を停めた周りで薬草や食べれる植物などを採取して貰った。リーナが食べれる物や毒に
なる物に対して凄い知識があって驚いたけど聞いて見たら採取エリナと外に出た時に何でも口に入れてしまって、慌てたエリナと親から必死に植物に対する知識を教えられたみたい。それに対してソファラは知識こそないけど、自分より幼いリーナに負けるのが嫌なのか採取数で勝とうと採取に必死になっているみたい。
(ねぇ、メグミそろそろ潮時かも)
そうね。本当は血抜きもしておきたかったけどその暇はなさそうね。
(うん。血抜きをしたら逆にマズイね)
分かった。戻りましょう。
わたしはサンドラビットを5匹勝った所で狩りを切り上げることにした。
少し遠くから馬車の方向にゆっくり向かってきてる中型の獣がケイの探索魔法に引っかかったからだ。
「リーナ、ソファラ、そろそろ出発しましょう」
「は〜い。アルフにぃ。見て見て!リーナこんなに取れたよ!」
「リーナはえらいねぇ。ありがとうね」
リーナから採取した物を受け取りながらリーナの頭を撫でてあげる。
リーナは「えへへ」と言いながら気持ちいいのか目を細めてくれる。
「ま、待ちなさい!まだわたくしめは採取が終わってないですわ!」
「ソファラ、気持ちは嬉しいけどそろそろ出発しないと」
「いいえ!そんな幼い子よりもわたくしめの方が役立たずなんて!わたくしめの矜恃が許しませんわ!もう少し、2人してそこでお待ちなさい!」
そう言い残しわたし達から走りながら離れていくソファラ。
(メグミ、かなりマズイよ)
えぇ、分かっているわ
わたしはリーナに馬車に乗って待っているように告げて、すぐにソファラを追い掛けた。
ソファラが走って行った方向は中型の獣が居る方向だし、いつの間にか風向きも変わってわたし達が風上になってしまった。そのため獣がわたし達に気付いてこちらに走り出しているのがケイから告げられた。
「ソファラ!お願い。待って!」
「うるさいですわ!少し待ってなさい!」
ソファラはもう走っては居ないけど薬草を探そうと視線を下に集中しながら歩いている。そのため前から来てる獣に気付いてないわ。
最悪…獣だと思ったのにまさかハウンドドックだったなんて。
「ソファラ!前!」
わたしはソファラに声をかけると同時に駆け出した。
ソファラはわたしの声に苛立ちながらも前を向いて、ハウンドドックの姿に恐怖して足を震わせている。
その姿がエリナと重なってみえた。今度は後悔しないわ。
ケイ、補助よろしく!
(いつでもいいよ)
わたしは迷うことなくナイフをハウンドドックに向かって投げた。
その際にナイフを自分の1部のようにイメージしてナイフの周りにわたしの魔力を付与して少しでも斬れ味を上げておく。以前ハウンドドックと対峙した際に傷を負わすことが出来ず対応策として考えておいた。
更にもう一つ、ケイには投げたナイフに対して魔力で追い風を起こしてナイフの加速度を上げて貰う。
どれぐらい威力が上がったから見ておきたかったけど、わたしはそのまま駆け出してソファラを抱きかかえるようにハウンドドックの動線から外れる。
わたしのナイフは思ったより威力が上がっててハウンドドックの前足の付け根に深く刺さったみたい。
その痛みに危険を感じてくれたのかハウンドドックは踵を返してわたし達から逃げていったみたい。
ソファラは恐怖のあまりわたしの腰にしがみ付いて動けなくなっていたけど、しばらくしたら恥ずかしくなったのか「ありがとう」と一言消え入りそうな声を発して馬車に戻って行ったわ。
パパから貰ったナイフが片方なくなったのは残念だけどソファラが無事で良かったわ。
じゃ、メグミおやすみ
(えぇ、ケイ夜の番よろしくね)
あれからソファラがあまりにも大人しくなってたので昼間の恐怖がまだあるのだろうと思い、ボクとメグミは相談して今日は早めに野宿することに決めた。
リーナがボクと一緒に寝たくて駄々をこねていたけど寝るまで膝枕をしてあげることで納得してくれた。
今は完全に夢の中なので馬車の中に運んでおいた。
さてと、今夜は何をしようかな
「少し、よろしいかしら?」
「ソファラ?寝れないの?」
「えぇ、それもありますが…」
「まぁ、座りなよ。後良かったらこれ飲んで」
「ありがとうございます」
調合か魔力循環の練習で迷っていた所にソファラが馬車から抜け出して来たみたい。
きっと昼間のことで寝れないなら無理して寝る必要はないとボクは思う。冷たい言い方だけど昼間はメグミ、夜はボクが担当することで旅に支障は起きない。むしろリーナとソファラが馬車で大人しくしてくれる方がボクとしては警戒が楽になるから願ったりなんだけどね。
だからと言って、ソファラに冷たくするとメグミの迷惑になるだろうからボクはソファラに沸かしたお湯に昼間リーナが採ってくれたポミの果汁を溶かして手渡した。
「アルフ、改めて昼間はありがとうございました」
「昼間のこと?あまり気にしなくていいよ」
「で、でも」
「それより、ソファラのほうが怖かったでしょ?忘れれるなら忘れたほうが良いよ」
「そんなこと無理ですわ!どうしてアルフは怖くありませんの?」
「う〜ん。冒険者を目指しているから?」
ボク個人としてはメグミに危害さえなければ何でもいいのだけど、それを正直に言ったら誤解必死だろうし…冒険者なら間違いじゃないと思う。
「冒険者になればこの恐怖はなくなりますの?」
「そうではないと思うけどね」
「では?どうして?」
「う〜ん。ソファラを助けたかったからじゃないかな?自分でもよくわからないけど?」
きっとメグミならそう思うよ。
この答えはソファラは納得してくれてのかな。黙ったまま少し俯いて火の顔が当たったのか少し赤くなっているかな?
「そ、それではわたくしめだから助けてくれたのですね?」
「きっとそうだね」
「えっと、アルフはわたくしめのことをどう思っていらっしゃるの?」
「え?」
「正直戸惑ってしまいますわ。アルフはわたくしめがお会いしたことのある人々とは全然違います。
今までの方々はわたくしめ対して表向きは敬意を払っていて、裏ではわたくしめの陰口を叩いている者。
もしくは、最初からわたくしめに敵対をして皮肉を言う者ばかりですのよ。
アルフみたいなのは初めてでして、どうすればよろしいのでしょうか?」
「そのままで良いよ」
「そのまま?」
「うん。ボクはソファラがどれだけ凄い貴族か知らないし、それによって態度を変える気も今はないしね。それにソファラが悪い子には見えないしね」
「そ、そうですの?」
「そうだね。夜中にわざわざ起き上がってお礼を言えるわけだし、リーナと採取で競争するぐらい負けず嫌いな可愛い所もあるわけだしね」
「わたくしめが可愛い?」
「あっ、嫌だった?」
「い、いえ。そんなことはありませんわ」
「なら良かった。もし寝れるなら少しでも寝た方が良いよ」
「えぇ、あの…アルフ」
「うん?」
「も、もしよろしければ、寝れるまでそっちに行ってもいいかしら?」
「それぐらい全然良いよ」
ボクの返事を聞いた瞬間、今までで1番早いじゃないかってぐらい素早く移動するソファラ。
そのまま、ボクの肩にもたれかかるようにしていつの間にか眠っていた。
さすがにリーナと違ってソファラを起こさないように馬車に移動させることは出来そうもないので、ソファラを膝枕して魔力循環の練習をしてボクは夜を明かした。
キキ
トマトの形をしたトウモロコシのような味をした野菜の一種。
生、もしくは焼いて食べるのが一般的な食べ方とされている。
ポミ
野いちごのような実をつける野草の一種。
果実の色は黄色く味はイチジクに近い。
読んで頂いてありがとうございますm(_ _)m
次回は5日以内に更新する予定です




