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忘れられた神々の寵愛  作者: 小鳥遊つかさ
18/33

覚悟

「…わたしは卑怯だわ」

 今、わたしは小さな4畳半もないような部屋の真ん中で膝を抱えて座っていた。

 部屋の壁は全て本棚で埋め尽くされていて、小さな部屋が更に狭く感じる。本棚には題名も書かれていない本が乱雑に何冊も収められているけど、わたしはここにある本を1度も読んだことがなかった。


「メグミがここに来るのは久しぶりだね」

「…ケイ」

 いつの間にか目の前にはわたしと全く瓜二つのケイが優しい微笑みを浮かべて座っていた。

 落ち込んでいるわたしとは違ってケイは胡座で座って気を抜いているようにも見える。


「この部屋もメグミのおかげで随分と本が増えたよ」

「そう」

 この部屋をわたしはケイの部屋だと思っている。ケイの部屋なので物理的には存在していない。わたしとケイのイメージが作り出した意識下の部屋。睡眠が必要としないケイはわたしが寝ている間この部屋で本を書き本棚に収め、そして記憶を忘れないように読み直しているらしい。

 いわばケイの存在を証明するための部屋なのに、わたしは自分が現実から目を背けることが起きるとこの部屋に閉じ籠ってケイに何度も何度も任せてしまう。

 わたしがこの部屋の本を読まない理由は、もしかしたらケイがわたしのこのようなことを嫌っていてわたしに対しての罵詈雑言を本に書いているかもしれないからだ。


「メグミ、あの部屋は閉鎖しておいたよ」

「そう」

「残念だけどリーナ以外は皆…ね」

「…そう」

 エリナのあの瞳を見た時からダメだと思っていたけど、わたしはケイなら万が一にも助けられたのではないかと淡い期待を持っていた。それだけにケイの言葉にわたしはエリナが死んだことを再度実感させられた。


「メグミ。今回は辛い思いしたね。ボクがもっと早く動くべきだったのに」

「え?」

「メグミがまだ辛いならもう少しここで休む?」

 わたしよりケイのほうが死体の確認みたいな嫌なことしているはずなのに、何でこんなにもケイはわたしに優しいの?今回のことだけじゃなくケイにはずっと迷惑ばかりかけているのに、わたしのことを嫌になったりしないの?


「…ねぇ、ケイ」

「うん?」

「どうしてなの?」

「何が?」

「どうして、ケイはそんなに優しいの?わたしはケイに嫌なことを全て押し付ける卑怯者だよ!しかも今回はあんな悲惨な状況の処理を押し付けたのよ。今でもエリナの虚ろな瞳をわたしは思い出すと怖いわ。ケイはわたしを糾弾しても嫌ってもいいのに、どうして優しいのよ!」


 ケイの優しいに触れて話出すと止まらず泣きながら全てをケイにぶちまけてしまった。

 もしかしたらこれでケイとの関係が壊れてしまうかもしれないと思ったけど黙っているのは無理だった。

 それなのにケイは何でもないかのように、わたしに対して笑顔を向けてくれた。


「そんなこと?ボクはメグミが幸せになるならそれでいいよ。ボクはメグミから返せないぐらいの大きな恩があるからね。それに比べたら今回のことは何でもないよ」

「そんなことって…ねぇ、教えて。ケイがそこまでしてくれる恩って何?わたしはケイに何もしてないよ。いえ、むしろわたしのほうが借りを作ってると思うわ」

「メグミから受けた恩はね。ボクがボクとして存在出来ることだよ」

「どういうこと?」


 ケイから更に詳しい話を聞いたら、ケイにとってわたしは生みの親みたいな存在らしい。

 確かにわたしが前世で恐怖から逃れるためにケイの存在を望んだかもしれないけど、それもわたしの勝手にしたことなのにケイにとってはそれが恩になってたみたい。

 更にケイはわたしがいつかケイの存在を消してしまうのではないかと不安になっていたみたい。それは前世で読んだ多重人格の治療方法に人格を互いに認めて一つの人格に形成し直す治療方法があったからみたい。

 そうなったらケイの存在は完全に消えてしまうと思い、自分自身の存在を残すためにもケイの部屋で己の軌跡や知識を本に残していったらしい。

 その中でケイにとってはわたしの役に立つこと、相談されることはケイがわたしにとって1人の存在として認めてくれてる。またケイ自身がまだこの世に存在していいと言われてるように感じるらしい。


 わたしはそんなケイの独白を聞きながら何処か少し安心してしまった。

 ケイは常にわたしの側で大人としての意見をしてくれる。それに辛い時はわたしの代わりに対策をしてくれる。そんなケイにも不安に思うことがあるし、悩みがあったことが素直に嬉しかった。そして、ケイの強さと覚悟を少し垣間見た気がした。


「わたしはケイに凄い感謝しているわ。ケイの居ない世界なんて想像出来ないぐらいわたしにはケイが必要よ。逆にわたしに愛想を尽かしてケイが居なくならないか心配なぐらい」

「…そっか。メグミ本当にボクを認めてくれてありがとう。これからも改めてよろしくね」

「えぇ、こちらこそ」

「メグミの泣き顔もなくなったし、もう立ち直れたかな?」

「そうね。正直、もう1度エリナの死体を見ろと言われたらまだ見る自信はないわ。でも、ケイの内面を知ってわたしだけが泣き言ばかり言うのは不平等だし、エリナの死をわたしは受け入れるわ。この新しい世界では人の死に触れることがあまりにも身近過ぎる。わたしはそれに対して覚悟を持つべきね。自分とケイ、そして親しき人を守るためにも!そのためにはまだまだケイには頼ることもあると思うけどね」

「もちろん。メグミが望むことは何でも手助けするよ。しかし、ディアスさんの想いも結局無駄になっちゃったね」


 そう言いながら含み笑いを浮かべるケイ。

 パパの想い?何かしら?

 わたしが首を傾げていると更にケイは面白いのか声をあげて笑いだした。


「ディアスさんの想いをやっぱり気づいてなかったのだね。ディアスさんはメグミに命の危険が多い冒険者にしたくなかったのだよ。だからメグミに色々な人を紹介したのじゃないかな?

 冒険者にするならディアスさんがメグミを鍛えてあげるのが1番早いからね」


 ケイにそう言われて、ようやくわたしはパパの想いを知った。

 パパのおかげで知り合った人は商人(フランさん)女将(イリナさん)調合士(シャール)どの人も他人の死には遠い職業かもしれない。もちろん、冒険者に比べたらだけど。


「でも、メグミの望みは一つの場所に留まるのではなくて外の世界を見ることなのでしょ?」

 ケイがわたしの気持ちを代弁するかのように語りかける。


「フランさんみたいな行商人なら外の世界を見れるかもしれないけどそれはメグミが望んでいること?」

「ううん。必要なら商人ギルドにも登録しようと思ってたけど、行商人に人生を掛ける気はないわ」

「じゃ、メグミが望むのはやっぱり冒険者?」

「そうね。冒険者じゃなくてもいいけど自由に様々な場所に行きたいわ。そのためには、どんなに貧しくても辛いことがあっても乗り越える強さを持たなきゃね」

「そっか。メグミも改めて覚悟が出来たみたいだね」

「うん。この部屋にも長居しちゃったしね」

「こんな部屋で良かったらいつでもおいで」


 そういうとケイは咳払いをして背筋を伸ばすとわたしの目を見て真剣に語ってくれた。

「今のメグミなら大丈夫だね。エリナからの最後の言葉を伝えるね。

『アルフ、リーナをエルフの森に連れて帰って』

 どうするかはメグミに任せるよ」

「…そっか。ケイ、神殿に行くだけが思ったよりも遠出になったね」

「まだエルフの森がどれだけ遠いか。更に言えば現在地が何処かすら分からないけどね」

「そうね。まずはリーナに聞いてみるわ」


 そう言ってわたしは目を閉じてケイの部屋から離れるイメージをする。

 そうして何秒たったかしら、耳元に微かに誰かの寝息が聞こえてくる。

 その寝息の主を確かめるためにわたしが目を開けるとわたしはベッドの上でリーナの抱き枕のように抱きしめられていた。

 …ケイ、やっぱりリーナみたいなロリ巨乳が好みなのかしら

 リーナの頭を優しく撫でながらわたしはそんな事を考えてしまった。



「アルフにぃ、おはよう!」

「リーナ、おはよう。って、えっ?」

「アルフにぃ。どうしたの?」

 どうやら、昨日はリーナの頭を撫でながら眠ってしまったみたい。


「えぇっと、ほら、リーナが離してくれなかったのだけどね。リーナはわたしと同じベッドは嫌じゃないかなって」

「え〜、そんなことないよ。アルフにぃ大好きだもん。アルフにぃなら、おねぇちゃんと3人で寝てもいいよぉ。そういえば、おねぇちゃんは?」

「おねぇちゃん?」

「うん。いつもリーナが起きるまでおねぇちゃんは側に居てくれるのに、今日はアルフにぃが居るから先に起きちゃったの?」


 そういって、エリナを探そうとするリーナ。わざと巫山戯ているようには見えないし、もしかしたら…


「リ、リーナ?」

「な〜に?アルフにぃ?」

「リーナは昨日、何をしていたか覚えてる?」

「昨日?えっとね。う〜ん。う〜ん。何をしたのだったっけ?分からないけど思い出そうとしたら何かアタマが痛くなる感じ」

「いいよ、リーナ。思い出さなくてもいいから!」


 そういうとわたしはリーナを痛いぐらいに抱き締めていた。

 きっとリーナにとって昨日のことは到底受け入れることが出来ず、精神が崩壊する前に身体が記憶を封印したのだろう。

 だからリーナの中では今だにエリナは死んで居らず、起きたらエリナが居なくて不安になっているのだろう。

 わたしはそんなリーナに真実を告げることも出来ず、嘘を付くしかなかった。


「リーナ、あのね。昨日、リーナが寝ちゃった後に助けが来たの」

「ほんと!」

「えぇ、でもね、お姉ちゃんは少し怪我しちゃったみたいでエルフの森にすぐ帰らなきゃならなくなって先に帰っちゃったの」

「えぇ⁉︎おねぇちゃん、大丈夫なの?」

「う、うん。その代わり、わたしとリーナは自分達でエルフの森に帰らなきゃならないのだけど、リーナはわたしとじゃ不安かな?」

「う〜ん。アルフにぃなら信じれるから大丈夫だよ!」

「そう、じゃまずは出発する前にご飯食べなきゃね。リーナは部屋でいい子で待ってられる?」

「うん!」


 元気な返事と共に笑顔を見せてくれるリーナ。

 その笑顔を見るとこれで良いと思う。せめて今だけは。

 エルフの森に着いたら事情を話してリーナが受け容れれるようになったら話してもらおう。

 そのためにはエルフの森に着くまでは、わたしがリーナを守らなきゃ。

 わたしの中で更にもう一つ覚悟が生まれた気がする。

読んで頂きありがとうございますm(_ _)m



少し体調崩してしまい、次回更新は一週間以内を予定しています

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