ブライドの町
「さぁ、あれがブライドの町だよ」
フランさんが馬車から指差した先には数mの大きな2つの門が見えた。
どちらの門も馬車2台がすれ違うことが可能なぐらいの幅があり、門の前では兵士が人々の町の出入りをチェックしていた。
「フランさん。左右どちらの門から入ればいいの?」
「僕が許可証を持っているから、フィアちゃん右側の門からお願いできるかな」
「は〜い」
ブライドの町は商人ギルドが大きな力を持っている町として有名で、多くの商人がブライドの町を拠点としている。そのため、ブライドの領主・商人が右側の門を使い。それ以外が左側の門を使用している。
昔は領主や他の町の貴族のみが右側の門を使っていたそうだか、20年ほど前に世襲した現領主が商人に使用許可を出したそうだ。その代わり通るために個人所持の馬車と値段の張る許可証が必要で許可証は領主から購入するらしい。
左側の門を通る分には特に制限もないのだが、右側の門と比べると数倍以上の時間がかかるのと、領主からの許可証自身がある程度稼げる行商人としての証明書にも一役買っているため、ブライドを拠点としている行商人は多少無理してでも馬車と許可証を購入して右側の門を利用するらしい。
そんな説明をフランさんから受けながらわたしは馬車を右側の門と走らせる。ちなみに、馬車の操作はフランさんから説明を受けたその日からブライドの町までの10日間、狩りの時間以外はわたしが御者台に乗って馬車を扱っている。フランさんから少しでも練習するためって言ってたけど、わたしに商人としての心構えを植え付けるために御者台に拘束したのじゃないかしら…
最初は素材の情報ばかりだったのだけど…いつの間にか行商人になるための知識の比率が高くなってた気がするわ。
商人ギルドに用があるフランさんとパパの知り合いが営んでいる宿屋が反対方向にあって、わたしとパパはブライドの町に入ってすぐにフランさんと別れた。
フランさんは別れるぎりぎりまでわたしをそのまま商人ギルドで登録することを勧めてきたけど、丁重にお断りさせて貰った。
きっとあの感じだとパパへの売り上げ金を宿屋に届ける際にも誘われそうだわ…
「ここがパパの知り合いの人のお店?」
「あぁ、ここは全然変わってないな」
パパが案内してくれた宿屋は木造の2階建の建物で入口の看板には『なごやか亭』と大きく書かれていた。
パパは少し昔の記憶を探っていたのかわたしと目が合うと、思い出したかのようにわたしに粘土を焼き固めて作ったペンダントを首にかけてくれた。
「パパ、これな〜に?」
「俺が冒険者の時に何度も助けられた御守りだ」
「そんな大事な物いいの⁉︎」
「あぁ、御守りも必要な者が付けてこそだ。フィア、もし俺と離れて町で困るようなことがあったら、そのペンダントを地面にた「いったい誰だい!うちの前で営業妨害してるのは!」た…」
「おや、もしかしてディ坊かい?」
「まだディ坊のままかぁ、イリナさんは変わらないな」
「当たり前さ。何年もあたしの宿で泊まってくれたディ坊はいつまで経ってもあたしの子供みたいなものさ。ところで後ろの子がディ坊の子供かい?」
「あぁ、手紙で伝えた通り俺とマーヤの子だ」
イリナさんと呼ばれた女性は突然の怒鳴り声に驚いてパパの背中に隠れてたわたしを覗き込むように見てきた。
イリナさんの年は30才から40才に届くぐらいかな。くすんだブラウンの髪と瞳の色。大柄の女性で最初はもしかしてドワーフ族かと思ったけど人族らしい。
この人には逆らっちゃダメね。逆らったらパパみたいな冒険者でも返り討ちにあいそうなどと、初対面で凄く失礼なイメージを持っていた。
「フィア坊だったかい?マーヤに似たのか将来が楽しみだね。ただ、ちゃんと食べてるかい?食べないとディ坊みたいな立派な男にはなれないよ」
「イリナ。少し待て」
「あら、そっか自己紹介がまだだったね。外でするのもあれだし中に入っとくれ。ディ坊、今回は何泊止まるんだい?」
パパからとりあえず5泊との返答を貰ったらイリナさんはさっさと店の中に入っちゃった。
フランさんに続きイリナさんにまで男の子に間違えられるわたしって?
そんなに男の子ぽい顔立ちかな。それともこのつるぺたな胸の性なのかな。
パパがわたしの頭を撫でながらフィアはかわいいと珍しく慰めてくれたけど、わたしにはその言葉が逆に辛かった。
ちなみに自己紹介の後にパパが誤解を解いてくれたけど、イリナさんは豪快に笑い飛ばすと男にも迫れるし女も落とすことが出来て役得だねって言ってたけど、わたしはもう少し女の子らしい体が欲しいな。
「この泥棒狼が今更俺に何の用だい」
「シャール少しは俺の話を聞いてくれ」
「ふん。俺の憧れのマーヤ様を奪った野郎が今更言い訳か?」
パパが優男に罵詈雑言を吐かれながら殴られてる。この目の前の光景は何かしら?
宿屋で荷物を置いたわたしはすぐに教会に行くと思ってたのだけど、パパが嫌そうな顔をしながらもう一箇所行く場所があると連れられたのがここだった。
看板も何もなくぱっと見、あばら家みたいで中に入ってすぐカウンターが見えたのでここが何かのお店であることは分かったのだけど、何のお店かは未だに分からない。
恐らく店主の優男のシャールさんはさっきからパパと争っているし…
そんなシャールさんは身長は170cm超えているぐらいかしら。恐らく人族で髪と目の色は淡い赤色でひょろっとした痩せた身体で見た目だけなら何かの研究者みたいな印象を受けた。
「シャール。マーヤからお前宛に手紙を預かっている」
「おいおい、兄弟それを早く言えよ」
パパのその一言にシャールさんは殴る手を止めたと思ったらいきなりパパと肩を組んで笑って手紙を奪って早速読んでいるし。
「パパ。この人だれ?」
「マーヤの昔のパーティーメンバーなんだが」
「おいおい、マーヤ様を呼び捨てにするとはどういうことだ!」
「腕は良いのだが見ての通り少し喜怒哀楽が激しい男だ」
パパ…喜怒哀楽が激しいってママの狂信的信者って感じがするのだけど。あと腕が良いって何かの職人さんなのかしら?でもパーティーメンバーなのよね?
「おい、お前がフィーリアか?」
「は、はい?」
いきなりシャールさんに名前を呼ばれてびっくりしちゃった。
そんなシャールさんはわたしを上から下までジロジロ見てるし、特に胸と腰周りを見過ぎじゃないかしら…
「この残念狼!お前の血の性だろ!マーヤ様のボン・キュ・ボンの魅惑の身体になれそうもないつるペタ残念なガキが出来たのは!」
そう言いながらまたパパに殴りかかる変態
モウ、アレ ヤッチャッテイイデスカ?
(メ、メグミ。落ち着いて。魔力が漏れだしてるから!)
ケイが宥めてくれたから何とかなったけど教会に行くまで我慢ガマン。
パパに魔法のこと内緒にしなくても良くなったら一発はこの変態に魔法をぶつけようっと。
「まぁ、マーヤ様からの直々のご指名だし請け負ってやるよ」
「すまん。頼む」
「お前のためじゃねぇよ。ガキは預かっておいてやるから他にも根回しするんだろ」
「あぁ。フィア、少しシャールから色々教えて貰いなさい。後で迎えにくるから」
「え⁉︎パパ、どこかいくの?」
何やらケイに宥めて貰ってる間に何かが決まってわたしはシャールさんとお留守番みたい。
正直、この変態さんと二人きりって殴りたい衝動を我慢出来なくなりそうだからパパとは離れたくないな…
パパはそんなわたしの思いに気づきもせずに行っちゃった。
「さてと、時間も限られてるしちゃっちゃとやるか。お嬢は調合と錬魔どっちに興味がある?」
「お嬢?」
「あぁ、さっきははずみでガキって呼んでしまったがマーヤ様の高貴な血が入ってるからにはお嬢だろ」
「そ、そう?」
ダメかも。さっきからこの人の基準がわからない。
ケイ、何なら変わらない?
(さ、さすがにここで変わったらバレそうだからやめた方がいいよ)
…だよね。一瞬言い淀んだのはケイも相手するのが面倒だから変わりたくないってことじゃないよね?
(…)
ケイ⁉︎その沈黙なに?
「で、お嬢。調合と錬魔どっちを教えて欲しいんだよ」
「は、はい。では、調合で!」
ケイとの会話中でシャールさんの存在忘れてたわ。
慌てて返事したけど錬魔って何かしら?そっちにすれば良かったかも
さっさと準備してるシャールさんに今更錬魔が良いなんて言えそうもないし…
「準備も出来たし早速やりたいところだが、そもそもお嬢は調合に使う薬草の種類とか分かるのか?」
「えっと、回復薬になる癒草ぐらいなら」
「それが分かっているなら調合の基本の回復薬のレシピからいくか」
「いいの?レシピとかって貴重なものじゃ?」
「お嬢、レシピが貴重なんて料理人や商人じゃあるまいし。回復薬の調合レシピなんざ、冒険者ギルドで鉄貨数枚出せば教えてもらえるもんだ」
「そうなんだ」
「それに調合はレシピよりも材料の質。そしてそれ以上に調合士の腕がものを言う世界さ」
「調合士?」
「調合をするだけなら誰でも出来るが一定以上の質の高い調合薬を作れる俺みたいなのを調合士と言うのさ。長期間の討伐パーティーなどには1人は欲しい存在だな。まぁ、俺みたいに戦闘も可能な調合士は更に数が少ないがな。お嬢も俺の凄さが分かったらマーヤ様によろしく言っててくれよ」
そうやって、腕を曲げて細腕を見せるシャールさん。
どうみても戦闘じゃ足手まといだったのじゃないかしらっと思ってしまうのだけど…
それに本当に調合士として腕が良いならこのお店は何故閑古鳥がないているのかしら。
「おっと、ついつい話が逸れたな。まずは回復薬のレシピだが癒草をすり潰して水と混ぜるだけだ。その後調合士の英雄の力を借りて癒草の成分を水に融合させて完成だ」
「たったそれだけ?」
「お嬢も分かってないな。材料が少ないからこそ調合士の腕が如実に現れるのが回復薬の特徴だ。それゆえ、回復薬は調合の基本であり極意であると言っても過言ではないのさ。俺みたいな高度な調合をするためには何度も回復薬を調合して慣れることだな。まぁ、それでも俺ほどの調合の腕を持てない奴がほとんどだがな」
その後もシャールさんの腕自慢を聞きながら、わたしは辛抱強く聞いたと思う。
シャールさんの話を纏めると回復薬の調合のポイントは3つだった。
1つ目が癒草と水の質。癒草は新芽であれば良く、更に葉の色が濃いほど良い回復薬になるそうだ。水も魔素が濃い森の川から取った水のほうが良いけど、癒草との親和性から採集した癒草の近くの水を使うことで質の良い回復薬になるらしい。
2つ目のポイントは調合する際の癒草と水との比率が重要らしい。癒草の割合が15%〜30%の間なら回復薬になるが癒草の葉の濃さと水の質によって割合を変えないといけない。
そして、最後のポイントが調合士の英雄と適応出来るからしい。腕の良い調合士ほどアヌスの力を借りて癒草の魔素を感じることが出来、水にスムーズに融合させることができるとのこと。最後のポイントだけは才能に左右されるためこの感覚を得られたら調合士として生きていけることを約束されたようなものらしい。
自慢話も1段落ついて実際に調合をやらせて貰えた。材料はもちろんシャールさん持ち。実はブライドまでの旅路で癒草は結構な数を採集していたけど、シャールさんの目の前でアティウスの空間から出すわけも行かなかったので有難く材料を使わせて貰う。
ちなみにアヌスの力を借りるのはどの神を信仰していても可能なため、わたしでも出来るだろうと言ってくれたので調合に関しては思い切り魔法を使っても良さそうね。
とりあえず初めての調合だし、癒草と水の割合は目分量で1:3を目安で。
「我、神々の友調合士の英雄に願う」
アヌスの力を借りる呪法を唱えた途端、すり潰した癒草が水に完全に溶けて淡い黄緑色の液体になった。
「無事完成だな。まぁ、俺ほどではないが初めての回復薬にしては良い成果だな。立派な調合士になりたかったら更に練習あるのみだな。まぁ、俺みたいな一流の調合士になるには練習だけではどうにもならんがな」
「シャールさん!もっと調合しても良い?」
「お、おう。俺は少し片付けしてるからそこにある癒草ならいくら使ってもいいぞ」
シャールさんの許可が出た瞬間から、わたしはシャールさんの言葉を聞いてなかった。癒草が回復薬になるときの色の変化も面白いと思ったし、割合を変化することで効果が変わるのはある意味料理に似通っておりわたしはもっと良い割合を探したくなっていた。
2度目の調合は癒草を少し割合を増やしながらアティウスの加護を使って癒草の魔素の流れを把握出来るようにしておく。
その結果はまだ水に対して癒草の成分が足りなくみえたので更に癒草の割合を増やしながら調整していく。
出来ていく回復薬は淡い黄緑から少しずつ緑色が濃くなってきたけどまだ物足りないのよね。
癒草と水の割合はこれ以上どうにも出来ないなら水の質を上げれないかしら?
ケイに手伝って貰いながらまず水だけに魔力を通して水から不純物を取り除いて回復薬を作ることで更に緑の色が濃くなったけど他には…
ちらっとパパが帰ってきてシャールさんと一緒に出て行ったけどわたしは調合の試行錯誤を優先していた
最終的には誰も見てないことを良いことに魔力で純水を作り、ケイに魔力を水に注いで貰って調合用の水を用意。癒草にも水との親和性を良くするために成分が壊れない程度にわたしの魔力を循環させて調合してみた。その結果出来た回復薬は黄色い色は完成に抜け落ちグリーンモス色に近い濃い緑色になっていた。
その結果にわたしは満足してパパとシャールさんに見せたら二人とも呆然としていた。特にシャールさんは「さすがマーヤ様のお嬢…しかし…このままじゃ俺の存在理由が…」ってぶつぶつ言ってたけど。
そういえば、シャールさん作の回復薬見せて貰うの忘れてたけど今度でいいかしら。
わたしはそんなことを考えながらパパと一緒になごやか亭に帰って行った。
癒草
川などの水場ちかくに自生する薬草の一種。新芽は丸みを帯びた葉で柔らかく、年数が経つことに葉がギザギザに硬くなっていくのが特徴。
また、大気中の魔素の濃いほど葉の色が濃い緑色になる。
回復薬
癒草と水から調合した薬。飲むことで体力回復。傷口に直接かけることで癒草の成分が患部の魔力と反応して患部を癒すように細胞の再生を促す。
回復薬の色で効果の高さが変わり黄色から効果が上がるほど緑味が増えていく。
読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m




