旅立ち
久しぶりの更新になりました。
「その子が例のディアスさんの子ですか」
「あぁ、少し早いがブライドの町の教会に連れて行こうと思ってな。それより馬車に便乗させて貰って悪いな」
「いや、昔からディアスさんには借りがありますから。それにこちらこそ儲け物です。ディアスさん並の護衛を冒険ギルドで依頼するといくら取られるやら。それが子供1人増えるだけで護衛代がタダですからね」
馬車の御者台から揺れる室内のパパに話してる人は狐人族でフランと名乗ってくれた。
明るい短く切った茶色の髪とその髪と同色の狐の耳と尻尾を生やして目の色は淡い水色、目は少しつり上がっているけど人の良さそうな整った顔立ちをしている。背の高さは160cmぐらいで男性にしたら小柄に見えたけど、狐人族は皆人族と比べたら背が低い人が多くフランさんぐらいで標準だと教えてくれた。
フランさんと昔から行商人として村から村へ日用品などを売り渡っている。わたしが生まれる前は何度かパパが護衛としてフランさんと行動を共にして魔獣や盗賊から馬車を守るだけでなく、村での商売時にも隣で睨みを効かせてくれたらしい。小柄なフランさんは行商を始めたばかりは顔立ちが幼く村人から舐められて安く買い叩かれそうになったらしい。そのため、横で睨みを効かせてくれたディアスさんに今でも恩義を感じている。
そんなフランさんの好意に甘えて、わたしとパパはフランさんの馬車に便乗させて貰って村から西へ馬車で10日ほどかかるブライドの街を目指している。
人生初めて乗った馬車は凄く揺れてお尻が痛くなったのでその都度に魔力を循環させて痛みを緩和してるけどパパもフランさんも痛くないのかしら?
パパとママから神様の話を聞いてから3年が経ち、わたしは7才になっていた。背も120cmぐらいにはなったかしら?長い髪はパパとの修行で邪魔になるから常にショートカットにしてて、まだ女性らしい胸の膨らみもなく男の子に間違えられることが多い。フランさんにも最初は坊ちゃんって言われて凹んだのだけど…フランさんからはもし我慢出来るなら女の子ってことを隠した方がいいと後からそっと教えてくれた。女性の方がいらぬトラブルに巻き込まれる事が多々あるのはどの世界でも一緒らしい。
「今でも、塩を多めに取り扱っているのか?」
「そうですね。塩だけはどこの村に持って行ってもある程度売れますからね。今でもメインは塩ですが、最近では1年前に偶然立ち寄ったある村で特産品が出来てその村とよく商売してますね」
「上手くいってるのだな」
「ようやくですよ。最初は信頼されないわ、欲しい商品の情報は教えてくれないわで…何度も足を運んでここ数ヶ月でやっと上手く行き始めた所ですかね」
「ねぇねぇ、フランさん聞いていい?」
「何かな?フィアちゃん」
パパとフランさんの会話を聞いていたらあるべき物がなくて、つい御者台に身を乗り出して聞いてみた。
「馬車の荷台にはこれといった荷物はないのだけど、その村の特産品は今回はないの?」
「フィアちゃん。それがまだ特産品が今回分は完成してなくてね。次回に持ち越しだね。それにディアスさんが居るなら荷台は極力空けておいたほうがいいからね」
「パパが居ると荷台が必要?パパ。馬車の中だと寝癖が酷いの?」
「…フィア。俺はそこまで寝相は悪くない…はずだ」
「あはは。ディアスさんの寝相は良い方だよ。そろそろ馬も疲れてきただろうし、少し早いけど休憩にしようか?ディアスさん、いつも通りでいいのかな?」
「あぁ、行ってくる」
「えっ⁉︎パパ?どこかにいくの?」
「ここら辺の草原には、サンドラビットやグレーフォックスが生息してるから、狩ってくる」
「狩り!パパ、わたしも行っていい?」
「…あまり遠くに行かないならいい」
「えっ⁉︎ディアスさん!大丈夫なの?」
「ここら辺には危険な魔獣も居ないし、フィアなら大丈夫だろう」
「そ、そうなんだ…」
わたしのまさかの狩り宣言にフランさんは驚きながらもパパの言葉に納得したみたい。
「フィア。最初は一緒に狩るか?」
「う〜ん。パパの邪魔しちゃ悪いし1人でやってみる」
「そうか。ならフィアが狩れた獲物はフィアの物でいい」
「ほんと⁉︎パパ、わたし頑張るね!」
パパの無理だけはするなの声を置き去りにして、わたしはパパより先に走り出していた。
ケイ、いつも通りよろしくね
(メグミ、任せて)
ケイはわたしの期待に応えてくれるように、わたしを起点に前方に僅かな魔力の波を放出する。
3年間のアティウス様の特訓の中で1番鍛えたのがケイとの協力だった。
アティウス様はケイのことを気づいていたみたいで、ケイ自身が魔法を使える可能性を教えてくれた。
そのお陰でわたし達は複数の魔法を同時に使ったり、魔法を組み合わせて色々応用することも可能になった。
(居たよ、メグミ。このまま真っ直ぐ15mほどにサンドラビット)
今回ケイが使ってくれた魔法は魔力を使ってソナーみたいに活用する探索用の魔法。
同じ魔力を使っているのにケイのほうが細かな制御の魔法が得意なのよね…なのでついつい任せてしまっちゃう。
ケイが言った方向を注意深く見るとサンドラビットが巣穴から出てくるところが見えた。
問題はパパ達がいるからいつもみたいに狩れないことよね…
(メグミどうするの?)
とりあえず、試してみるね
そう言いながら、わたしは右手で腰からナイフを抜いて投げた。
わたしは今でも最初にパパから貰った2本のナイフを研ぎ直して貰ってずっと使っている。何度かパパの剣も持たせて貰ったけど剣の重さに振り回されて結局ナイフに落ち着いた。
そんな使い慣れたわたしのナイフは危機に気付いたサンドラビットに逃げられて地面に刺さっちゃった。
う〜ん。やっぱり魔法使わないと狩れそうもないね。
(使うのはいいけどディアスさんにばれないようにしなきゃダメだしね)
そうね…パパは、風上の方に向かってるみたいだしアレなら大丈夫かな。よし、ケイ次は?
(あっちだね。約30m先に同じくサンドラビット)
ケイ、変わって貰っていい?
(いいけど?)
じゃ、いくわよ。3.2.1
変わったけどメグミどうすればいい?
(さっきと同じぐらいの距離から空投げしてね。ケイ)
あぁ、なるほどね。分かったよ。
ボクはサンドラビットに気付かれないようにゆっくり歩いて10mぐらいの距離から左手でナイフを投げた振りをする。
(今ね)
メグミが使ったのは魔力をナイフの形にイメージして飛ばす魔法。サンドラビットに付ける傷口を切り傷に見せかけるために、メグミは使い慣れてる刀身15cmのナイフを出来るだけイメージするためにボクと変わった。
その甲斐もあって、標的のサンドラビットは不可視のナイフが突き刺さったような傷口を残して生き絶えていた。
(上手くいったわね)
そうだね。メグミこのまま変わったままで少し狩りを続ける?
(そうね。あまり狩り過ぎても怪しまれるけどもう少しお願いね。ケイ)
3年間の時間でアティウスの助言の元ボクはメグミが同意があれば寝てない時でもメグミの身体を動かせるようになった。もちろん、夜中メグミが寝ていたり、意識がない時に動かせるのは内緒にしているけどね。
さて、せっかく変わって貰ったしディアスさんに疑われない程度狩らなきゃ
「パパ、フランさん。ただいま」
「おかえり。フィアちゃんも1人で狩れるんだね」
「パパ、本当にこの3匹わたしが貰っていいの?」
「…あぁ」
フランさんはわたしが獲ってきまサンドラビット3匹を見て、関心してくれた。パパは逆にわたしが本当に狩ってこれると思ってなかったのか少し呆然としてる?
本当はもう少し獲れたけど、この後のことやそれ以外のことでケイと相談してて時間を使っちゃったし、パパの反応を見たらこれでも多かったのかも?
まぁ、明日から気を付けたらいいか。それよりもこの獲物を上手く使わなきゃ。
「フィアちゃんはどうする?ディアスさんと同じでいいのかな?」
「パパとフランさんはどんな取引内容なの?」
「食糧は皆で分配で換金出来そうな物は町に着いたら売って配分だね。僕は運賃と代売りの手間賃として売り上げの3割貰ってるよ。今回だとサンドラビットの毛皮代だね。もちろんフィアちゃんが町に着いて自分で売ってみたいならそれでもいいよ。ただし、毛皮の剥ぎ取りが下手だと安く買われちゃうから気を付けてね」
そう言うフランさんはわたしがすぐ売ってくれると判断してるのか顔色が少しニヤついてるし。
なるほどね。馬車の荷台が空っぽなのはパパの狩りの成果を出来るだけ積み込むためか。パパは気にしてないみたいだけど、運んで売るだけで3割って、恩義がなくてもパパの頼みを受けてたのじゃないかしら。旅が続くほど損なく儲けが出るんだし…このままやり込まれるのは嫌かも。でもあまりやり過ぎたらパパにも迷惑かかるだろうし…
「ねぇ、パパ。わたしは町に着いたら自分で宿代とか出さなきゃダメ?」
「そんな心配はいらない。道中でも稼げるし、そんなことしたらマーヤに何されるやら」
「やった!じゃ、パパお願いがあるの!」
「何だ?」
「食糧になるお肉は分配でいいの。パパにはサンドラビット1匹あげるからその代わり、わたしに毛皮の剥ぎ取りのやり方を教えて!」
「剥ぎ取りぐらいならただで教えてやるが?」
「ううん。残った毛皮分でフランさんとも対等に商談したいからちゃんと受け取って」
「あぁ」
しぶしぶ納得するパパにサンドラビットを1匹押し付けて、フランさんに体を向けて目を合わす。
ここからが本番だわ。
「フランさん、わたしみたいな幼い子とも商談して貰える?」
「もちろん。利益がありそうなら子供と言っても僕は対等に交渉するよ」
「ではサンドラビット2匹分の毛皮を売りたいのですが、ブライドでの毛皮の相場を教えてください」
「サンドラビットの毛皮の相場ね。今の時期なら毛皮の質にも寄るけど鉄貨25〜30枚ぐらいかな」
この世界のお金の単位は事前にママから教えて貰ってた。
最低単価が鉄貨で、鉄貨100枚で銅貨1枚。同様に100倍ごとに銀貨・金貨・白金貨と単価が上がっていくみたい。
まぁ、白金貨なんてほとんどの人が見たことない金貨みたいだけどね。
「では、毛皮1枚鉄貨26枚で2毛皮枚で52枚でどうでしょうか?」
「それだと、こちらの儲けがないから無理だね」
「えぇ、なので先ほど教えて頂いた相場代として鉄貨2枚、この場で購入して貰うため町までの手間賃として鉄貨10枚差し引いて実際の代金は鉄貨40枚でどうかしら?」
「それなら、最低の相場でも僕にも儲けがあるわけか。フィアちゃんの初めての交渉だしそれでいいよ。今ここで代金を払えばいいかな?」
「交渉はまだ終わりじゃないわ
。お金はいらないから、その代わり馬車の運転のやり方とここからブライドまでの間で道中で売り物になりそうな物の情報を鉄貨40枚分教えて。情報量はフランさんにお任せします。パパがフランさんを信用してるようにわたしもフランを信用してますので」
「あはは。フィアちゃんいいね。その取引で構わないよ。今後もこのようにいい取引が出来ることを願ってるよ」
「こちらこそお願いします」
「最後に1つ聞いてもいいかな?僕が嘘の相場を教えてたらどうするの?」
「どうもしないわ。ただブライドに着いて相場が嘘だったら、わたしがフランさんを信用しなくなるだけだもん。商人は信用が大事なんでしょ?」
「なるほどね。そこまで考えての取引か。教える情報は馬車に乗りながらでもいいのかな?」
「もちろんよ」
休憩後、わたしはやたらと機嫌の良いフランさんから馬車の扱い方から道中の獣の種類・自生してる薬草、はては商人としての心構えまで教えて貰ってた。
絶対情報量的に鉄貨40枚分は超えてると思うけど良いのかしら。
その夜
パパは見回りのため火を焚いてフランさんと交代で起きててくれるみたい。わたしは子供だから寝るように荷台に押し込まれちゃった。
仕方ない。早めに寝ちゃおう。
「フランか?」
「ディアスさん。問題はなさそう?」
「あぁ、今のところ魔獣の気配はないな。フィアは寝てるのか?」
「うん。僕はディアスさんに話があって起きてきただけだから」
「あの話か?」
「うん。フィアちゃんが望んだら行商人の見習いとして僕が預かるってディアスさんの頼み事だね」
「フランが見込みありと判断したらって条件を忘れているぞ。そのためだろう、普段は俺とお前で取り分1割のところを3割なんて言ったのは…それでフィアはどうだ?」
「正直、ディアスさんの頼みでも断るつもりだったのだけどね。行商人の辛さは僕が身を持って知っているからね。ただ、フィアちゃんはもうすでに商人として必要な信用と情報の大切さを知っている。あの幼さで交渉されるとも思ってなかったしね。それを知ってら逆にこちらからお願いしてでもフィアちゃんを見習いとして預かりたいね。」
「…フィアが望めば頼む」
「もちろん。でも口説くのは良いのでしょ?それにどうせ他にも話してるのでしょ?」
「何人かにはな。後、口説くのは嫁にしようと下心がないなら構わない…どうした?俺の顔に何か付いてるか?」
「いや〜、ディアスさんがそんなこと言うなんてね。フィアちゃんの旦那さんになる人は大変だね。ディアスさんを倒さなきゃならないなんて…」
サンドラビット
草原に幅広く生息する体長60〜75cmぐらいの兎の一種
草食で地面に複数の巣穴を作り襲われたり定期的に巣穴の場所を変える習性を持つ
グレーフォックス
体長70cmから大きい個体で1m近くなる狐の一種
全身灰色の毛で覆われており、草原や森などか主な生息域
主な主食は小動物で人族に襲うことはない。ただし繁殖期のみ雌がテリトリーを持ち、その時期だけはテリトリーに入った人族に対しても攻撃的になる。
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