裏取引
〜 ケイ 〜
ケイ。おやすみ
(メグミ。おやすみ)
「…よし」
ボクは体が思い通りに動くのを確かめるように左手を何度も開いたり閉じたりした。
今日は森を彷徨ったりアティウスとの出会いがあって疲れたのだろう、メグミはいつもより早い時間に眠りについてる。
耳を澄ますと、マーヤさんとディアスさんも床に就いたのか物音らしきものは聞こえてこない。
こっちの世界は日が沈むと床に就くのが普通だ。
魔法や魔術具があるので、夜に活動することも可能だろうけど、マーヤさんもディアスさんも余程のことがない限りは床に就くようにしている。
そのおかげで夜のほとんどの時間、ボクが自由に使うことが出来る。
特に今日はやる事もあるけど、まずは日課の筋トレから始める。
メグミが日中ディアスさんと実戦で鍛えるのに対して、ボクは夜中に基礎の体力を作る。まぁ、メグミはボクがそんなことをしてるとは露とも思ってないだろうけど。
嬉しいことはディアスさんの狼人族の血が入っているからか、基礎体力の付きも早い気がする。そうじゃなきゃ、いくら前世の記憶で効果的な筋トレをしているからって幼児な体で森まで走ってその上魔獣から逃げるなど無理だと思う。
数時間の筋トレを行い、風邪を引かないように汗を拭こうと思った時にボクはふとイタズラを思い付いたようにあることを思い付いた。
まずは左手の寵愛の証に意識を向ける…うん、ボクでも証が浮かびあがるし寵愛の効果がありそうだ。体を循環している魔力の流れを感じながら表面の魔力を温風に変化させるイメージ、肌の表面からそのまま外に放出するように更にイメージすることで魔法が完成。若干服がまだ湿っている感じはするけど風邪を引きそうもないので十分だと思う。
ただ、慣れてないのか必要以上に魔力を風に変えたのか少し倦怠感がした。
…これからはメグミがやってる魔法の練習をボクもやるべきかもしれたい。
おっと、魔法への考察は後日にして今日はやることをやらなきゃ。
「なんじゃ、フィーリア。もう修行に来たんか?」
「いえ、今回は改めてご挨拶ですね。ボクが会うのは初めてですからね」
「お主…本当にフィーリアか?いや、魔力は間違いなくフィーリアじゃが…そうかお主精霊憑きじゃな」
「精霊憑き?」
アティウスはメグミとボクの違いに最初こそ驚いていたけど、すぐに理解して何があっても対応出来るようにこちらに注意を払っている。
こっちではボクみたいな多重人格は精霊憑きというのか…恐らくは良いイメージではないな。
「フィーリアに何をするつもりじゃ?返答によってはわしもそれなりの対応をさせてもらうぞ」
「ボクがフィーリアに協力することはあっても害を及ぼすつもりはない。もちろん貴女と敵対するつもりはない。貴女がフィーリアに危害を加えないならね」
「ふん。口では何とでも言えるじゃろ。フィーリアが知らずに精霊に憑かれていることが問題じゃ」
「うん。フィーリアが知らずに?」
「そうじゃろ。精霊憑きは宿主の意識を乗っ取って宿主に成り代わるのが目的じゃろうが!」
なるほど。だから精霊憑きか…こっちの世界でもメグミとボクの関係は稀なんだろう。
「それならボクと取引しませんか?」
「取引じゃと?」
「はい。今ボクが何を言っても信じられないでしょう。ですので、明日フィーリアが来た際にボクのことを本人に聞いて下さい。その際にフィーリアがボクのことを知らないようなら貴女の好きなようにすれば良い」
「わしが今すぐお主を消されるとは思わんのか?」
「そうですね。ボクはフィーリアと会話し相談するぐらいの仲だから貴女がボクを滅ぼしたら逆に貴女のほうが困るかもしれません。最悪、寵愛を拒否するかもしれません。」
「な、なんじゃと!お主ら、会話が出来るのか?もしそれが本当なら、ここでお主を消したらフィーリアに恨まれるのか…じゃが、それの真偽の判断がフィーリアに会うまで分からんのか」
「えぇ、せっかく見つけた信仰者との仲がこじれて困ると思いますが」
アティウスも渋々だけど、ボクの言い分を信じるしかないと判断したのか、ボクに対しての敵対心はとりあえず潜めたかな。
まぁ、もしフィーリアがボクのことを知らないようなら覚悟しておけと釘は刺されたけどね。
あっと、こっちも釘刺さなきゃ
「ただし、ボクがここに来たのは内緒にしてほしい」
「何故じゃ?会話出来るぐらいの仲なんじゃろ」
「フィーリアに余計な気遣いをさせたくない。将来的には喋るかもしれないけど、今はその時じゃないかなっと思う」
「ふむ…お主の言い分が確かなら約束しよう」
「では、改めて取引といきましょうか?」
「取引?先ほどのことじゃないんか?」
「あれは、あくまでも前提です。まぁ、取引内容の実行は貴女がボクのことを信じてからでもいいですけど」
「…まったくフィーリアの時も感じたが、お主もわしのことを神として畏怖しないんじゃな。まぁ、取引は内容にもよるの」
「それで構いませんよ。一つ目はボクが知りたいことを教えて欲しい。その代わりボクも貴女を信仰しよう」
「ほう。てっきり寵愛が欲しいかと思ったんじゃが知識のみでええのか?」
「ボクはあくまでフィーリアの影だから、寵愛はフィーリアが持っていたらいい」
それにアティウスから分かっているはずだろう。ボクとメグミは同じ身体なのだからボク自身が寵愛の効果を得てることを。
「まぁ、知識じゃったら構わん。お主は何が知りたいんじゃ?」
「まずは精霊憑きはよくあることなのか?」
「そこまでは多くないじゃろ。奴隷の子供や貴族の跡取りなどがよくなると言われておるの」
「ならば、精霊憑きが発覚した場合はどうなる?」
「ほとんどの場合が殺されるの。たまに大貴族じゃったら幽閉されるらしいが、まぁ普通には暮らせんじゃろ。それだけ精霊憑きは忌み嫌われておる」
なるほど。これはボクのことは今後も内緒にするべきだし、今まで以上にボクが行動する際は注意が必要か。
「じゃ、信仰魔法についてだけど、神は何故魔力を貢がせる必要がある?」
「それは、神とて信仰者の魔力を変換してやるのに魔力が必要なんじゃ。神々とて最低限の魔力を貰ってるだけじゃぞ」
「そっか。では、魔法のイメージをもっと効率的にする方法があったら教えてよ」
「あるわけないじゃろが!もしあったら信仰魔法が世に流行るわけがないわ!」
アティウスの怒鳴り声が響くけど、神様も嘘を付くんだね。元の世界の神話も神々の騙し合いもあったしあり得るか。まぁ、いい加減本題にいくべきかな。
「あのさ。いい加減正直に話して欲しいな。このまま嘘が続くようならボクにも考えがあるよ」
「なんじゃと?」
「最低限の魔力と言ったけど、貴女はフィーリアに寵愛を与える時に信仰魔法の貢分の魔力を無くすことができることを言ったよね?もしフィーリアがそれを望んだら貴女はどうしてたの?」
「それは、わしの魔力で肩代りしてやるだけじゃ」
「神様の魔力は無限なのかな?それに魔力って個々人で違うのでしょ?神様が自分の魔力を人の魔力を変換するのは非効率すぎる」
「寵愛者なんじゃからそれぐらいやるわい」
「そう?確かに今の貴女なら見守るのがフィーリアのみだから出来るかもね。でも他の神様はどうなのかな?何千といる信仰者の魔法を全部1人で対応できるのかな?」
「それは…それぞれの神に眷属がおるからじゃ。眷属が主神の代替りとして行なっておる」
「では、貴女には何故に眷属がここに居ない?」
「それはじゃな…」
「起きたばかりだから居ないと言うなら眷属を作るのに条件が必要だよね。恐らく、信仰者からの貢の魔力で作ってるんじゃないかな?その方が信仰者の魔力に近いし効率も良さそうだし」
「……」
「それに信仰魔法自体が神に都合の良い魔法だよね。貢の魔力と称して頂くことで信仰心はなくならないし、魔力で眷属を作ることで更に多くの信仰者を作ることも可能だしね。そうやって集めた魔力を寵愛者の変換魔力の肩代りにも使えるしね。」
「…まったく。いつからじゃ?わしが嘘をついてたと思ったのは?」
アティウスは観念したのか、それとも思惑を看破したことでボクに対して関心を持ったのか、少し邪悪な笑みを浮かべてこちらの反応を心待ちにしてるように見える。
これは上手くいけば更に条件を上乗せできるかな
「嘘に関しては、昨日フィーリアと話した会話の中で違和感を感じた」
「ほう?」
「まず、貴女はフィーリアを巫女と呼んだ。それなのに、貴女は寵愛を誰にも授けたことがないと言った。」
「それのどこに違和感があるのじゃ?」
「巫女と呼ぶからには、以前にもここに来れた信仰者もしくは、貴女と話が出来た信仰者がいたはず。そのような者に寵愛を与えないのは考えられない。可能性としては寵愛にもランクがあってフィーリアに与えた寵愛が破格過ぎるので与えたことがないと言ったのかもしれないけど、どちらにしても貴女が何かを隠しながら話をする可能性は確信が持てたね」
「なるほどの」
「騙されると思って、貴女の話を聞けば信仰魔法がどれだけ神の都合の良い物かを考えるのは難しくないね」
「そこまで、わしの考えを分かるんじゃったら、お主らを信頼しよう。むしろお主がわしを信仰すると約束したんじゃ、フィーリアを乗っ取ったとしても逆に頼もしいもんじゃ」
ボクがメグミを裏切るなんてありえないけどね。アティウスの信頼を得れたのは良しとしよう。
気を良くしたアティウスは更にボクが付けた条件に関しても快く承諾してくれた。
これで更にメグミの助けになればいいのだけどね。
読んで頂いてありがとうございますm(_ _)m
随分と前回の更新より時間が空いてしまいました。
次回はもう少し早く更新できるようにします




