07
大変な目にあった。
ドリルの人が変に逃げまわるから、最後はステージなんかで戦うことに。
咄嗟にミュウが光学迷彩を張ってくれたから、近距離でなければぼやけて見えるし、記録媒体なんかにも残らないけど、あんな大勢の前で女装してるというのは精神的にかなり疲れた。
閉園間近で人の少なくなった遊園地は、昼間の盛況を知っているからかひどく物悲しい。
僕たちは出入口前の大きな噴水に腰掛けてコースケとアオイさんを待っている。隣のアズサさんは、僕が変身を解いてからどうにも不機嫌なままだ。
「あの」
「なに」
待っていたかのような早い返事。
夕焼けに染まるアズサさんの髪は、変身を解いた今でも真っ赤に染まって見えた。情熱の炎。希望と未来を見据える熱の象徴。赤という色は、彼女にとっても似合ってる。
対して僕は黒。
暗闇に佇んで、諦めと逃避を繰り返してきた。
ずっと黙っていたからか、唐突にアズサさんが両手を打って、大きな音を立てる。
「手打ち」
溜めていたものを吐き出すようにそっとため息をついた。
僕は言葉の意味が分からず呆けていて、するとアズサさんは急にこちらを向いた。夕焼けが目に眩しい。
「色んな事、今ので手打ちだから。いい?」
「……はいっ」
「助けてくれて、ありがとね」
「え?」
「知ーらない! 手打ちだもん。貸し借りも全部チャラっ!」
立ち上がったアズサさんが、夕焼けを背に僕と向き合う。
逆光になった彼女の表情はよく見えない。けど、彼女から僕の表情はよく見えるのかもしれない。
「両親と仲直り、するつもりはあるの?」
「したく、ありません」
「そっか。じゃあ、嫌いなの?」
「嫌いだと、思います」
「好き?」
「……」
相反する問い掛けを続けざまに言われて、僕は答えられなかった。
一瞬で心の中がぐるぐる回る。ただ回るばかりで、螺旋状にも、広がってもいかない。
「そっか」
答えを聞けたとばかりのアズサさんを呆然と見る。
「私さ、お父さんのこと、無茶苦茶嫌いだった時期があるんだよね」
「そうなんですか?」
「そう。私のお父さんが戦場カメラマンって話はしたよね? それでお父さん、現地で知り合った人とか、同業者とかに私を会わせたがるの。すっごく小さい時から何度も。写真もそうだけど、実際にソレを体験した人から話を聞くのはもっと怖かった。同い年くらいの少年兵とか、テロ組織で教育を受けた子とかにも会ったよ。もう、そんな人と、私みたいなお花畑の国の人を会わせて、どうするんだって話だよね。そんな話聞いて、小学校に通ってる私はどうすればいいんだって、思ったよ。周りは皆、平和な世界しか知らないし、飛行機を見れば大喜びする人ばっかりなのに、私だけ隣で怯えたりするの。お母さん、何度も怒ってくれたけど、喧嘩でお父さんには勝てないし……ああでも、暴力とかは振るわないよ? お父さんそういうの大嫌いだから。でも口論になると勝てないの。正論で負かすとか、そういうんじゃない。もっと根本的な所で勝てなくて、私もお母さんも諦める」
「でもそれは、いいお父さんって言えるんですか?」
「ダメ親父じゃないかなぁ。あんまり帰ってこないし、何回か撃たれて死にかけたこともあるし、家に警察はやってくるし。今だって生きてるかどうかも分からないもんね。全ッ然、正しい親なんかじゃない。子どもに何見せてんだーって、普通なら怒鳴りつけられるようなことするもんね。私だって、どうにも出来ないことをただ見せつけられて、無力を感じて、何も出来なくなってたんだから」
「お父さんのことは、今でも嫌いなんですか?」
「嫌いだよ。そんで、好き。はは、ずるいよね、家族って。最高の言い訳だもん。どんなダメ親父でも、どんな情けない娘でも……どんな理不尽でも、それ一言で受け入れてもいいかなーって思えちゃう。否定したって消えないよ。相手がダメだって言い張ったって、私はお前の家族なんだぞーって突っ込んでいけるんだよ」
だから、とは言わなかった。
アズサさんはただ自分の内心を宣言しただけで、でもそれは、きっと誰にだってする話じゃない筈で。
僕はその言葉を、正面から受け止めた。
苦しいけど、悔しいけど、受け止めることにした。
だって、アズサさんは次にこう言うに決まってる。
「僕と――」
「私は――」
手を伸ばし、声を揃えて、
「「今日から親友だ」」
とても似ていて、正反対の二人の友情が今、始まった。
第一章、完結です。
次章はミホさんを中心に、放置していた二組織の戦いを繰り広げていく予定。




