05
コースケとのデートが終わり、アズサさんと遊びに行く約束をした日の夜、ミホさんから呼び出しがあった。晩御飯と明日のお弁当を仕込んでいた僕は、すぐに切り上げて約束の場所に向かう。
お祖父様が居たら誤魔化すのに苦労しただろうけど、幸い今は温泉旅行中だ。
最初の時と同じくドレスに着替えて合流した僕は、前と同じベンツの中でアズサさんと再会した。昼間会った時と着ているものが違うな。
ミホさんの姿は見えない。シズクちゃんは、まあ最初と同じくお屋敷待機なのかな?
「こんばんわ」
「こんばんわー。ねえツバサ、晩御飯食べた?」
「いえ、仕込みをしていた所でしたけど」
「良かったらどこかで食べに行かない? ウチ両親共居ないんだよね」
「そうなんですか。僕も今一人なんですよ。良かったらご一緒していいですか?」
「よしよし、ツバサは確保だなぁ」
嬉しそうに笑うアズサさんを見て、ちょっと肩の力が抜けた。
うん。一度仲良くなれたと思った人にああやって警戒されるのは結構辛い。ツカサに対しても同じように接して貰えたらなぁ。
「ミホさんはお屋敷なんでしょうか?」
「ううん。お屋敷には向かってるけど、ミホは道中の護衛。前に襲撃されたのを気にしてるらしくって、どっかのビルの屋上で待機してるみたい」
敵の接近を確認次第ズドン、だそうだ。
まだ彼女の戦い方を知らないけど、遠距離からで手数に対抗できるものなんだろう。
「ねえツバサ」
僕なりに警戒してアズサさんより奥に陣取っていると、彼女が無警戒に身を寄せてきた。なんとなく感じていたけど、近寄ったことではっきり分かった。アズサさん、風呂あがりだ。シャンプーと汗の混じった匂いが鼻腔をくすぐり、ちょっとドキドキする。
「ツバサって、男の子とデートしたことある?」
「ぅ……」
ありません、と言えない事がこんなにも辛いなんて……!
「一度……だけ」
「へぇ。どんな子? どうだった?」
「とても、良い方だったと思います。楽しかったし」
「けど、って感じの言い方だねぇ。ふふ、ちょっと意外。ツバサってモテるけど身持ちは固いかなって思ってた」
「一度だけです。どうしても断りきれなくて……」
仕方なく、とは言えず黙ってしまう。
あまり親友を貶めるような発言はしたくない。
「友達だったんだ」
「……そうです」
「そっか……」
なんで分かったんだろう?
珍しく大きなため息をついてアズサさんがもたれてきた。ってええええ!?
「アズッ、アズサさん……?」
「なんだよぉ、甘せさせてよぉ」
「どうかしたんですか?」
「ん~~~」
唸るアズサさん。
ちょっとブルーな印象。
「男の子ってさ、なんですぐ好きだとか言い出すのかな」
あ。
「友達でいいじゃん。友達で居たいよ。なのに好きだって言ってきて、断ったらどっかに行っちゃって、一人ぼっちにされちゃう。わかんない、もう」
「分かります」
「……ツバサも、そうだったんだよね?」
たった一度のデート。彼女のそれとは比べられないほど特殊ではあったけど、根本にある気持ちは同じだった。
「私、こんなだからさ、昔から男の子に混じって遊ぶことが多かったんだよね。ずっと皆一緒だった。本当に大好きだったよ。だけどなんかおかしくなっちゃって、ばらばら。仲良かった女友達にも、私のせいだって言われちゃってさ。私も私で熱くなって、嫌になって、別の学校に入ったんだ。だけどそこでもなんでか上手くいかなくなって……あああもうっ。なんでこんなこと語りだしてるんだろ、私」
「たった一人、認めてくれれば」
一人だけでいい。
「それだけで、色んなものが受け入れられるようになりました」
「ツバサは……もう大丈夫なんだ」
「はい。僕を親友と言ってくれる人が出来ました」
「いいなぁ、ホント。私もその人の親友になりたーい。紹介しろーこらー」
脇をくすぐってくるアズサさんと笑いながら転がる。
明日紹介しますよ。
「はぁ…………実はさ、明日デートすることになった」
「え?」
「私の友達が強引に」
デート、なんだ。僕はてっきり遊びに行くと、いや、それをデートと言うのか。女の子とデート……うーん、なんだか緊張してきた。
「その人が親友になってくれることは?」
「うーん、どうだろう。変な人なのは確かなんだけどねぇ。でもアオイ、あぁ、友達はとっても素直でいい子だよって。でもなぁ、あれは……」
えぇ、本当にごめんなさい。
女装男とデートなんて嫌ですよね。明日は極力影を消してついていこう。コースケなら任せても二人を楽しませてくれるだろうし。
「ツバサはさ、異性装ってどう思う?」
「小難しい言い方しますね」
「まあまあどうなのよ」
「興味ありません」
本当です。進んで女装したいなんて思い始めたら、もう男としてのアイデンティティーが崩壊するんだ。アッティッティーなんだ。
「じゃあそれをする人のことはどう思う?」
「個人の嗜好に口出しはしません」
「でも目の前に女装した男が居たらって思うと気持ち悪いよね。あれ、どうしたの急に」
「い、いえ、急に胸が苦しく」
すみませんごめんなさいゆるしてください! あらん限りの謝罪の気持ちを込めて僕はアズサさんに頭を下げた。そうだ、崩壊だの言いながら、段々僕はこうしてアズサさんと話していることに慣れてきている。まだちょっとそわそわする気持ちはあるけど、危ない傾向だ。だめだ、今すぐ家に戻って男らしくならないと!
「ミュウっ、ツバサのバイタルチェック! ミホさんにも連絡とって! 遠隔での攻撃かもしれない! それと病院に!」
「わあああ平気です元気です何でもありません!」
病院はマズい! 診察なんて受ければまず性別がバレる! こんな話をした後でアズサさんにバレでもすれば、ますます彼女の男嫌いが加速する!
「ほんとに大丈夫?」
「はい。もう元気一杯ですっ」
「無理しないで、体調悪くなったら言うんだよ?」
「ごめんなさい。心配かけてしまって」
「ううん。ツバサには私達のせいで負担掛けてるし、心配するのは当然。いつでも頼って頂戴よ!」
元気よく笑ったアズサさん。
まだ彼女の中で解決は出来ていないだろう。けど彼女には外へと向かうエネルギーがある。それはいつか内側のゴタゴタと片付けてくれる力にもなると思う。
あぁ、そっか。
僕がなればいいんだ。
※ ※ ※
翌日、僕はコースケと二人で地元の遊園地に来ていた。
急な話だったけど、親友の誘いだからと彼は快諾してくれた。その分胸の苦しくなるような話をたっぷり聞かされて大変だったけど。
「で、ツバ……ツカサ。なんか慣れねえな、この呼び方」
「ごめんね」
「いや、お前の家の事情は聞いてるし、これくらい朝飯前だ。ただ、今回会う相手はお前の事には気付いてないんだよな?」
「うん。多分想像もしてないよ。二人共そう関係のある人じゃないけど、万が一にでも伝わらないようにってだけ」
「そっか。それなら名前だけ気にしとけばいいんだな」
「うん、お願い」
「あいよ」
男二人で並んで待つ。
休日だけあって人は多かった。家族連れ、友達同士、恋人と。それほど人気がある印象は無かったけど、結構な盛況ぶりだ。
「やあ、お待たせ、お二人さん」
十分くらいそうしていたら、不意に後ろから声を掛けられた。
アオイさん、いや、藤崎さんだ。
「久しぶり、って言うのもおかしいか。ほんの数日前に会ったばかりだしね」
「また会いましたね、藤崎さん」
「下の名前でも別に……いや、そういうことか。まあこっちは遠慮なくツカサと呼ばせて貰うよ」
軽い挨拶を交わして僕はコースケを紹介する。
「僕の友達の寺本コースケ。親友です」
「なるほど、君があの時の」
「はは、その節はどうも。ツ、カサが世話になったみたいで」
「彼女が藤崎アオイさん。それと」
と、今までアオイさんの後ろに隠れていた人を見る。あっ!
「ふふ、今日は私がコーディネートした。可愛いだろう? アズサのスカート姿は」
彼女のスカート姿を見たのは制服の時だけだ。普段はパンツ姿だし、上もTシャツの場合が多い。でも今日は括っていた髪も下ろしていて、見た目にも一層女の子らしく可愛らしい。ブラウスにカーディガンという、女の子の服としてはカッコいい部類なのはせめてもの抵抗だろう。上は大人しめだけどスカートはチェック柄で鮮やか。うんうん、アオイさんのコーディネートは凄いなぁと僕は素直に感心した。
そんなアオイさんは八部丈のパンツに薄手のジャケットと、見るからにボーイッシュな服装だ。羽根のワンポイントが入った帽子も様になっている。いいよねぇ帽子の似合う人って。
「じろじろ見過ぎ」
「あっ、ごめんなさい」
「火野アズサです。今日は急な話なのに、受けてくれてありがとう」
「親友からの誘いだ。断る理由はないよ。それにこんな美人二人とデート出来るなら何を置いても来るよ」
「へぇ、嬉しいね。でもそんなこと言ってると、良いように呼びだしちゃうよ?」
軽口とも取れるコースケの言に一歩引いたアズサさんに、アオイさんがフォローを入れる。僕の思った通り気が合うらしい二人は、そのまま軽口の応酬を続けながら並んでしまう。自然と、残った僕とアズサさんが並ぶことに。
うん。
僕は意を決して話題を振った。
「アズサさんは犬と猫、どっちが好きですか?」
まずは無難な話題だ。男性嫌いの彼女に性別を意識させるような話題はタブーだ。アズサさんは相変わらず不機嫌そうで、
「名前」
「あっ」
しまった! 昨日の晩に話したせいか、つい呼び方が戻ってしまっていた。
「ごめんなさい、火野さん」
「違和感あるならいいよ。別に好きに呼んでも」
「いいんですか?」
「アオイはダメだからね」
「わかりました」
正直アズサさんで馴染んでいたから、それでいいなら助かる。
優待券の引き換えも終わり、入場した僕らは、アオイさんの提案に乗って早めの昼食を取ることにした。こういうのは出遅れると混むし、その間アトラクションは空くからズラすのがいいんだそうだ。なるほど、勉強になる。
「犬」
道すがら、相変わらず並んで歩いていたアズサさんがぼそっと口にした。
「犬が好き」
「そうなんだ。何か理由でもあるんですか?」
「ちっちゃい頃から一緒だったから」
微妙なニュアンスに僕もちょっと気持ちが沈む。深刻ではなかったけど、そんな僕を察したのだろうアズサさんは笑った。
「もう随分前だから気にしなくていいよ。はぁぁ~、アンタってすぐ真剣になるんだから。なんかもう、意地張ってるのが馬鹿らしくなってきた」
「はは、アズサさんらしいです」
「らしいって何、らしいって。そんなに話した記憶はないんだけど」
「そうですか? アズサさんって、頼まれると断れないですよね」
「う~ん、そうかなぁ?」
「義理堅いし、真面目だから、正論で固められるとすぐ丸め込まれそうです。あと、つまみ食いが趣味ですね」
「ちょっと、なんでそこまでっ」
共犯者ですから。
「あはははは」
「笑うな馬鹿―!」
振り上げた右手に僕は笑って顔をガードする。他愛無いふざけ合いだ。けど、アズサさんの右手は一向に落ちてこなかった。
「やっぱり、似てる」
スッ、と首筋に刃物を当たられたような寒気が奔った。
言葉にならない後悔が全身を駆け巡り、僕は恐る恐るアズサさんを見る。伊達眼鏡ごしに見る彼女は眉を寄せ、しかしいらずらっぽく笑うと「隙あり!」と言って手を振り下ろしてきた。痛い!
「はは。そんな訳ないよなぁ」
「どうしたんですか?」
「アンタの笑ってる顔が友達に良く似てたからさ。名前も、まあ、一文字違いだし。けどその子は正真正銘女の子で、格好だけのアンタとは違うの」
「うぐっ」
どうやらアズサさんは僕を女装ネタでいじめるのに味をしめたみたいだった。昨日からこの手の弄りが多い気がする。
ミュウは言っていた。
魔法少女システムは純潔の女性にしか適合しない、と。それに数値化した僕の身体的特徴は女性そのものだとも主張している。
アズサさんなりに疑問を持っているんだろうけど、二つの証拠が御影ツバサを女性としている以上、男である御門ツカサとは繋がらない。ただ似ている人、という以上のことは分からない筈だ。
流石に僕が女装している所を見れば一発だろうけど。
「因みに親友くんは知ってるの?」
「っ、知りませんよ」
「へぇ、そぉなんだ」
悪い顔だ。けど変に警戒されたりするよりはずっといい。
僕は彼女の弄りに甘んじて、終始遊ばれ続けた。
予想以上にアオイさんとコースケの仲が良い。
元気ぶりではアズサさんも負けてないだろうけど、慣れないスカート姿というのもあって今日は抑えられ気味だ。
「だーかーらー! 俺はお化け屋敷とか興味ないって!」
「そうかそうか、そんなに怖がられると無理にでも連れて行きたくなるな」
今も次のアトラクション決めに騒いでいる。
お化け屋敷かぁ、僕も怖いのは苦手だから、遠慮したいなぁ。コースケも怖いのは苦手だ。確か母方のおばあさんが怪談話大好きで、小さい頃から散々怖がらせられてきたとか。
「きゃー! ツカサー、助けてくれー!」
「待っててコースケ! 僕が助けるよ!」
「アズサっ、ツカサを抑えるんだ。いや、彼を連れて君も来い。お化け屋敷は平気だったろ?」
「え? アズサさん、なんで僕の腕をそんなに力強く……」
「そっかぁ~、ツカサもお化け屋敷が苦手なんだぁ」
うわああああいじめっ子が降臨してる!? あれ、これでも僕オトコノコなのに、がっちり掴まれた腕が外れそうにないよ!?
僕はその時、アズサさんの手甲に掴まれてパイルバンカーを待つ敵の気持ちが良く分かった。
「ほらほら、怖かったら抱きついてもいいから安心するといい。アズサ、ツカサくんは任せたぞ。存分に可愛がってやれ」
「やめろー! ツカサだけは! 俺の親友だけは助けてやってくれー!」
「コースケえええ! あぁ、せめて君だけはー!」
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………………………………………いやぁぁあああああああああ!」
あぁ、親友は今や幽霊の住む屋敷に取り込まれてしまった。
こ、こうなっては僕だけ助かる訳にはいかない。コースケを助けにいかないと!
「はは、アンタたちって本当に仲良いよね」
「親友ですから」
「それだけかなぁ? アンタの女装癖ってもしかして、そういう意味なんじゃ」
「友情です! 不純な気持ちは欠片もありません! だいたい、そういう意味ってなんですか」
「ん~、私もアオイも趣味じゃないから気にしないけどさ。悪かったって」
なんて会話をしながら、いつの間にか僕はお化け屋敷に連れ込まれていた。
なんだこのスキル。気付いたら室内って一体!
薄暗い道をアズサさんの袖口を掴んでついて行く僕。これじゃあ完全に立場が逆だ。けど怖くて先を歩く勇気がない。奥から悲鳴が聞こえてくる度、僕は身を縮こまらせた。きゃー! 脇からドクロが飛び出してきたああああ!
「ははは、ここまでくるとホントに女の子だねぇ」
「めめめ面目ないです」
「ねえツカサ。ツカサは今まで恋とかしたことある?」
水煙を出す鎧武者をスルーしながらアズサさんはそんなことを言い出した。僕はというと怖くて思わず顔をアズサさんに押しける。だ、だめだ。このままじゃあオトコノコとしての立場が! あぁでも怖い!
「ほらほら、答えないと守ってあげないよぉ」
「わー! 一度もないです助けて下さい!」
「へえそうなんだ。結構モテそうなのに」
「昔から女の子とは距離を置きがちでしたから」
何より僕は男友達が欲しかったから、積極的に男の子と絡んでた。結果、何故か男の子からモテるという事態に陥った訳だけど。
「そういえば、親友くんには普通だけど、私達には敬語だよね。年って同じでしょ? 親友くんみたいにタメ口でいいのに」
んー、どう説明したものか。
変にそのまま話すと重くなりそうだし。
「やっぱり女の子より男の子がいいの?」
「僕は女の子が好きです!」
「けど距離置いてるんだ」
「それは……魅力的には思いますよ。失礼ながら、今日のアズサさんや藤崎さんは可愛いと思いますし」
「そうなんだ、ありがと」
どう話せばいいのかな。アズサさんの男嫌いについて、僕はもう聞いてしまっているから、こちらだけ隠しているのはフェアじゃない。話すことに否やはないけど。
真剣な僕を見てアズサさんも急かさず待ってくれている。うぅ、その前にここから出たいけど、なんだか機会を逃しそうな気もする。
思い切ってそのまま話すことにした。
「僕、両親と別居してるんです」
「別居? 一人暮らしってこと?」
「いえ、一緒に暮らすことを拒否して、関わらないようにしてるんです。家には祖父と二人で暮らしてます」
「……それは」
アズサさんの家も普通とは変わっていたけど、僕の家は相当に酷い。
「父は仕事人間でしたから、後継者の僕が生まれたら、それで用は済んだとばかりに家へ近寄ることはなくなったそうです。母は……元々がどうだったかは分かりませんが、酒浸りになって、男漁りをしていました。子どもの僕が居てもお構いなしに……だから、男女のそういうことに対する嫌悪感があるんでしょうね」
アオイさんは僕を良い人だと言ってくれたけど、それは逆だ。
僕の中には、人間として最低な種類の血しか流れていない。ただ、僕は小さい頃から、両親も含めて人間の汚い部分を見過ぎたんだ。そういう負の部分に対する激しい嫌悪感からの反動で、良い人のように見えている。
「僕は、女性が嫌いなんだと思います」
滑るように声が出た。
今まで異性に対しては決して口にしたことない事を、僕は言った。
アズサさんは唇を噛み締め、悔しそうに、悔やむようにしている。
どこまでも冷静に、僕は彼女を観察した。
「こんな、気持ちなんだ。今まで私が嫌ってきた人は皆……」
「それを悔やむ必要はないと思います。嫌いなものは嫌いなんです。煩わしいことは全部廃棄して、別の場所に行ってしまうというのも一つの道ですよ」
本当に、最低だ。僕は。
以前は希望を語ったその口で、今は諦観を語っている。ただ、これもあの言葉に対する解釈の一つなんだ。
外へ向かえ、解決を置き去りに。
立ち止まるな。そう言っているよう僕には思えた。それだけだ。内の解決の是非なんて語っていない。いつか解決するだろうと、その程度の話。ただ、僕にはあの家の事が解決するとは到底思えない。
いっそ何もかもが壊れたなら、多少の光明が見えるのかもしれないけど。
「アズサさんが男嫌いだって聞いた時、僕は結構ほっとしたんですよ。自分が嫌われるのは辛いです。けど、それ以上に信じられる。お互い、異性を嫌っていても、個人を嫌悪し切るタイプじゃないですよね? 好感も持てるし、信用もします。ただ最後の一線だけを越えてもらいたくないだけで」
自分と同じ考えを持つ人が居るというのは心地良い。
同族嫌悪という言葉もあるけど、これは共感出来るものの筈だ。だから、
「火野アズサさん。僕の親友になってもらえませんか?」
薄暗い通路だから、お互いの表情ははっきりと見えない。
けど、僕は決して悪いものではないと感じていた。アズサさんも自分の思考を理解してくれる友人を求めていたし、僕みたいなのは望む所の筈。
彼女のことは好きだ。とても好感を持てる。僕とは真逆で、憧れを胸に外へと飛び出していける人。尊敬だってしている。大切にだって思おう。そして、そこで終わりだ。そこが到達点。親友という存在の完成で、後は時間を掛けて熟していくものだから。
そうなっていく二人は、結構幸せなんじゃないかと僕は思う。
だから僕は手を伸ばし、彼女を求める。
「アズサさん」
彷徨うように手が伸びて、それを、
『ツバサ、アズサ、敵襲です。アズサにはベルトの転送を行います。一分お待ちを。ツバサは身に付けていますね、直ちに変身をお願いします』
「あ、れ?」
「…………え?」
『どうかしましたか? 呆けている場合ではありません。二人共、急いで迎撃準備を』
二人の視線が交差する。
「……」
「……」
伸ばした手は置き去りに、交差することはなく、
『ここ最近は不意を打たれてばかりでしたから頑張りました。褒めてください。後五分の時間があります。はい、ゆっくりと準備が出来ますね』
「ミュウ」
『どうしましたか、アズサ? 称賛の言葉なら後でじっくり受け取りますが』
「ちょっと黙ってて」
それきりミュウは黙り込んだ。
きっとアズサさんの言葉に秘められたものに気付いたんだろう。
「ツバサ」
「はい」
「話があるの」
「はい」
「正直に、話してくれるよね?」
「はいっ」
まーこの作品のジャンル、コメディですので。
豊穣神フレイヤは女性の持つ全ての美徳を持ちながら、全ての悪徳も併せ持っていたと言われています。




