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だから僕は男なんですってば!!  作者: あわき尊継
第四章

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46 魔法少女たち その四

   火野アズサの場合


 見えない。

 目の前の何もかもが消え失せた後、私は単純にそう思った。

 見えない理由はなんだろう。細かい理屈は置いといて、まあ、暗いからだなって考える。これが家なら電気を付けるんだけど、生憎今居るのは外なんだ。

 じゃあそうか、太陽があればいいんだ。


 そんなことを考えた途端、一気に世界が暗闇に満たされた。


 見渡す限りの暗闇。その奥に強い光があった。たぶん、ずっと遠くにある、まあるい光。あまりに強くて目を背けると、いつの間にか、周囲に数えきれないほどの星があった。上を見ても下を見ても、どこを見たって満天の星空。

 いやいやおかしいだろ。

 だって、足元にまで星空があったら、私は今何処に立ってるんだ。

 さっきから視点を変えることは出来るけど、どうにも姿勢というか、身体が動かせない。手足がないと不便だ。不思議と疲れは感じないし、そもそも身体の感覚が曖昧でよく分からない。


 めんどくさいなコレ、と思った。

 折角いい景色なのに、私はそれに対してただ見ているしか出来ない。どうせだったら両手を広げてもっと星空を感じてみたいし、久しぶりに話せたアオイやミホが居るんだから、皆でジュースでも飲みながら青春したいじゃない。


 なんとなくだけど、私は大雑把に今の状態を理解した。ツバサ風に言うなら誤解した。


 私は今、多分立ってる。

 だってさっきまで立ってたし。

 だから本当は地面に足を付けてるのに、それを感じられてないだけなんだと思った。

 意識してみると、やっぱり足元に地面があった。さっきまで見えてた星空が消えて、ずっと向こうまで続く地平線が見える。頭に浮かんだのは草原だ。うんうん、よく見てみると地面は草原だった。気持ち良い風まで吹いてくる。そして空は満天の星空。いい景色だ。

 出来ればジュースでも飲みたかったけど、近くには自販機無かったし仕方ないなぁ。


「ん、んん~…………っ」


 大きく伸びをすると口から声が漏れた。

 見れば私は両手を上げていて、このどこまでも続く草原の中で、たった一人で立ってた。


 何度か頭を傾げながら腕を見ていると、右腕に慣れた重量を感じた。私のとっておき、トールハンマーの名を持つパイルバンカーだ。左には手甲。着ているのは赤のドレス。それと同じ色の髪を撫で、私はいつの間にか手にしていたリボンで髪を纏め、ポニーテールにして結ぶ。

 風に揺れた前髪が目元を撫でて、くすぐったさに目を細めた。


 あれ? と思って草原へ目を向ける。

 そういえば夜空なのに明るいな、と。


 草原のずっと向こうには太陽がある。私が眩しいって思って目をそむけてから、なんとなく光が弱まった気がするけど多分気のせいだ。最初からこんくらいだった気もする。まあどうでもいいか。


 さて困った。

 お昼のような明るい草原と、満天の星空。

 その中でドレスを着た私が一人。


「だーれかー?」


 さっきまで近くにアオイとミホが居たんだけど姿が見えなかった。というかそもそも《影》の大集団も綺麗さっぱり居なくなってる。

 こうなる直前、高速言語でミュウが詳しいことを教えてくれた気がするけど、正直良くわからなくて聞き流してた。頭の良い人って話長いか話さないかのどっちかだよね。単語三つとかで言ってくれた方が分かりやすいと思うんだけど。

 いやまあ、私もおしゃべりは好きだし、ツバサなんかと話してると、無駄な会話が数時間も続いたりするから分からないでもないんだけどさ。


 とりあえず理解出来るのは、何かが起きたってことだ。

 何かが起きて青空が無くなった。いや、そういえば街もないな。ツリーもないし。


 思えば無いものがいっぱいだ。

 でもそれがここにあるとなったら、この草原は無くなっちゃうのかな、とも思う。折角いい景色なんだから勿体無い気もする。


「わっ、と!?」

 急に後ろから声がして、かと思ったら背中を押されて一緒にすっ転んだ。

 誰かが私の上に乗っかってる。結構小柄で髪の白い……、


「カナぽん?」


   ※  ※  ※


   淡雪カナの場合


 ミュウが小難しいことを言い出したかと思っていたら、急に五感全てが塞がれた。

 感じるものが無ければ思考はあまり働かない。思考とは刺激の連続だ。電気信号は神経という細胞を通して伝達されるが、より細分化して見れば、神経は単一の分子で出来ているものじゃない。隣り合っている細胞同士が刺激し合い、次へ次へと伝えていくことで電気信号となり、その複雑な行き交いを思考と呼ぶ。

 単純に五感と言ったが、ここはミクロ単位での刺激さえ感じられない場所なんだ。


 そんな場所で思考を働かせられるのは、余程物事を適当に見ている人間くらいだろう。こういう理屈だから不可能で、なんて思考よりもやりたいとか欲しいとか、そういう欲求が先に立つ。


 実際それが可能な場所だった。

 そこはまだ何にも定義されていない場所だったから、そうしたいとさえ望み、それを否定する思考が邪魔をしなければ理論上は可能と言える。

 生憎と私はアズサみたいに単純じゃないから無理だ。


 そうか、アズサなら出来そうだな。

 そんなことを不意に思考した。するとどこからかアズサのものらしき思考が流れてきて、あまりの馬鹿らしさに私も笑った。まあこういうのもアリか、なんて思っていたら、釣られて私も実体化していた。


 今、私は昼のような明るい草原の上で胡座をかいて座っていた。対するアズサも同じで、お互いに行儀がどうこうと言われるのが好きでもないから気にしない。


「つまりそれって、カナぽんが私の次に単純だって話だよね」

「違う、お前のせいだ。私は頭がいいぞ」

「人のこと散々馬鹿にしておいて、今更逃す訳ないじゃない?」

「やめろ馬鹿私を馬鹿に巻き込むな馬鹿」


 適当に言い合いながら星空を眺める。

 全く、妙な世界だ。星空は嫌いじゃないが、こう明るいにも関わらず星が見えるということが信じられん。それもこれも周囲の光が強ければ、外部の光が届きにくいという当たり前の思考を置き去りにしたアズサのせいだ。

 別にこれはこれでいい景色だし構わないかと納得したせいじゃない。筈だ。


「しかし……」

「んー?」

「誰も来ないな」


 そもそもあれからどうなったのかさえ良く分からない。

 だが、この奇妙な場所に私たち二人だけが放り込まれたとは思えなかった。なのにいつまで経っても私たちだけだ。これは……もしかすると由々しき事態ではなかろうか。


「ミュウと話が通じればいいんだが」

「もう完全に便利屋扱いだよね」

「実際便利だったからな、色々と」

 せめて会話が出来れば状況が打開できそうだったんだが、こうなれば自力でなんとかするしかないな。私は頭が良いからちゃんと自分で考えるぞ。

 しかし、どうすれば……、


「皆が出てこれないなら、こっちから引っ張り出せばいいんじゃない?」

「どうやってだ?」

「私がこうだって思ったから、ここはこうなってるんだよね? だったら皆が居るって思えば居ることになるんじゃない?」


 ん、おう……アズサにしてはいい考えじゃないか。

 なんとなく合ってる感じがするからそれでいいな。


「よし、じゃあまずは誰を呼ぶ?」

「じゃあ――」


 一致したので強く意識して、召喚を試みる。召喚でいいのかはわからんが、なんとなく格好良いからいいじゃないか。

 が、どうにも成果が出なかった。


「もしかして……距離があったから来てないのかな?」

「な、なるほど。そういえばおしおき中だとかミュウも言ってたな」


 しばし沈黙。


「アズサ」

「……うん」


「おしおきとは具体的に……その、どういうことを、んんっ……しているんだと思う?」


「………………カナぽん」

「違う! いやっ、何を想像してるんだ私は違う!」


 否定しているのにアズサの目は完全に私を疑っていた。違うぞ!


「おしおきっていうくらいだからねぇ……シズク、結構過激な所あるし」

「カゲキなっ!?」

「例えばぁ~……」

「たとえば……っ」

 目が合った。ジト目のアズサは疑いを隠しもせずに私を見てくる。

 ここで逸らせば認めるような気がして見返していたが、じわりじわりと頬や耳が熱くなった。


「どうしてこんなえっちな子になっちゃったんだか……お母さん悲しいわっ」

「お、おおおお前が原因だろうっ。お前に普通の小説だと言って渡されたアレがどれほどショックだったか!」

「だってカナぽん人間の子作りがキャベツ型培養器でどうこうとか、コウノトリ運搬システムだとか意味分かんないこと言い出すんだもん。そのままじゃ不憫過ぎるから、こうだよって教えてあげただけだよ。それにアレ、本当に普通の恋愛小説だし」

「なっ!? あんなことやこんなことまで書いてあってR指定じゃないのか!?」

「小説って、結構そういうとこあるから」


 なんだと……!


「そうなのか……」

「そうみたい」

「しかし、それにしてはそういうシーンがある作品ばかりだったな」

「そうだっけ」

 目を逸らすアズサ。

 そうだよ。お前に借りた小説、二冊に一冊はそんなシーンがあったぞ。どれも確かに面白かったが、正直アレなシーンは読んでるのも恥ずかしくて飛ばすことが多かった。

「そういうのに限ってやたらと甘ったるい話だったな」

「偶然偶然」


 ほう。


「もしかしてお前、ああいう女に甘くて腰の引けた男が好みなのか?」

「優しいのっ、腰が引けてるんじゃなくて気遣いですっ!」

「ほう」

「っっっ……!」

 大きく仰け反って顔を隠してるが、赤くなってるのが丸見えだぞ。


「い、いいじゃん! 強引なのが嫌いなだけっ。第一私、現実の男は嫌いだし。付き合ったりもする気は無いの!」

「だが作り話ならお姫様のような扱いをされてみたいと」

「カ、カナぽんなんて冷たくあしらわれて、かと思ったら強引に、系ばっかりじゃん!」

「なよなよした男が好かんだけだ」

「いやツバサ良く見てみようよ。ツバサほど乙女全開な男なんてそうは居ないよ?」

「アイツはあれで格好良い所があるじゃないか」


 沈黙。


 やめろ、こっちを見るな!


「カナぽん、割と自爆するタイプだよね」

 ぐっ、思い当たる事が多すぎて言い返せない……!


「その話! 私も混ぜて……!」


 と、ここでいきなり沙月ミホが現れた。


   ※  ※  ※


   沙月ミホの場合


 友情の波動を感じるわ!


 ミュウからの説明を受けて、いかにこの空間で自己を確立し、他を知覚するかに苦心していたけど、あまりに強烈な友情オーラを感じてとにかく突撃してみました。

 世界の理屈よりも友情が勝るわ!

 私も友達っぽいこと一杯したい!


 うきうきして二人の輪に混ざってみたけど、アズサも淡雪さんも、なぜか顔を赤くして俯いてる。あら、もしかして私、お邪魔してしまったのかしら。でも、私も混ぜて欲しいの。淡雪さんとはまだあまりお話出来ていなかったから、もっと仲良くなれたらなってずっと思ってたのよ?

 ほら、皆でお茶を飲みながらお話しましょ。

 私は話すの苦手だから、一生懸命聞くわね?


 いつからそこにあったのか、素敵な白塗りの椅子に腰掛けて、中央のテーブルにあったポットから皆へ紅茶を注いでいく。

 なぜ紅茶が? 答えはね、お友達とのひと時に紅茶は欠かせないものだからよ。


「あのね、実はほとんど認識出来てなかったんだけど、好きとかどうとか聞こえたの。良かったら私にも聞かせて。淡雪さんには好きな人が居るの? どんな方?」

 あら……淡雪さんが落ち込んでしまったわ。

 大変! 友人として慰めてあげないと!


「いい人は他にも一杯居るわっ。ほらっ、ツバサさんなんてとても可愛らしくて素敵な子よ。私の自慢の親友なのっ」


 あら……?

 なぜだか更に落ち込んでしまったわ。

 アズサは紅茶を飲みながら遠い目でどこかを眺めてるし、ここは私がやるしかないのね。


 大丈夫! 私、もっと頑張るから!


「そうね、ツバサさんにはシズクっていう恋人が居るものね。あの二人の幸せそうな間に入り込むのは不可能でしょうし、話に挙げるべきじゃなかったわねっ。だったら――」


 スパーン! と、私の頭が何かではたかれた。


「あら、アオイ?」


 なぜかハリセンを持ったアオイが、微妙な表情で立ってました。


   ※  ※  ※


   藤崎アオイの場合


 やってしまった。

 できればこのまま引きこもって、色々なことが片付くまで隠れていたかったのに、ミホがあんまりにもあんまりな暴走をするもんだから……。


 こういう部分は昔から変わってない。

 頭は良いんだ。すこぶる良い。全科目でトップテンに入るくらいには良い。ごちゃごちゃした物事を纏め上げて要点を繋ぎ、シンプルな考えとして相手へ伝えたり、そういう大人じみた思考をミホは持ってる。小さな頃から世界中を飛び回っていたのもあるだろうけど。

 ただ、本当に望んでいる部分。友達が欲しい、なんていうことになるとまるで頭が回らない。回っているみたいだが空回りする。


 私と大喧嘩したのも、どちらかと言えばそっちが原因だ。

 もう一緒にはやっていけないと私が斬り捨て、その後で元々の友人だったアズサが魔法少女になったらしいことを知った。あーあ、と思いながら様子は探っていたけど、こっちはこっちで事情が出来てきて、利用せずには居られなくなった。


 今ミホは、困惑したような、喜ぶような、ちょっとだけ怯えるような表情でこっちを見上げていた。

 まあ、一年前のアレが終わった後も、特に話したりはしなかったからな。


 とりあえず何故か手元に現れたハリセンを後ろへ放り投げる。

 それは私も含め、全員の死角に入った途端消え失せて、この奇妙な草原に落ちることはなかった。


「……ん?」


 気づいたのは淡雪カナ、だったかな。

 注意深い、というよりは感覚的に鋭い所のある彼女は、前に戦った時も苦労させられた。イムアラムールとしてやりあっていた時よりもずっと強くなっていたものだから、つい反則技を使ってしまい、結果自分も飲み込まれそうになった。

 私を肩を竦めてこちらの足元を見る淡雪カナと、彼女の反応に遅れて気付いた数名へ向けて言う。


「ここは、ざっくり言うと人の認識によって全てが決まる世界だ。全員から意識を向けられなくなった時点で、その存在は消え失せる」

 自己の存在する者であれば自分自身を観測することで実体化は続けられるが、同時にそれさえ放棄すればまた消え失せる。

「それじゃあ人間原理よ」

 人間原理とは、簡単に言ってしまえば人が認識するから宇宙は存在するというものだ。はっきり言ってしまえば、傲慢過ぎる考え方で、言葉遊びを繰り返せばそれらしく納得できるものの、あまりにも荒唐無稽な論説だ。

 当然、ミホが反論してきた。けど彼女は肝心なことを忘れてる。

 この世界がどうやって生み出されたのか。


「この世界の核となったのは、人としての肉体と認識を持った純粋な星の心だ。御影ツバサや桜井マリナとは違って、アイツは私の父が狂いながら完成させた、本物の完成形。それがあの瞬間に目覚めて世界を創造し、根底に人としての認識が植え付けられた。

 だからこの世界に限っては、森羅万象が人の認識する限りにおいて発生し、消えていく」


 自然とアズサに目が向かう。

 話していた私が見たことで全員の視線が集まり、彼女は嫌そうな顔で頬を赤らめた。

 この世界を最初に定義付けたシンプル馬鹿代表だから仕方ない。まあ、一般人とは違って私たちは魔法少女という、元から地球的な発想とはかけ離れた力と関わってるからな。それだけこの状態への順応も早いし、何より飲み込まれる瞬間、ミュウから厳重な保護を受けた。

 それも間に合わなかった一般人では、下手をすると意識が世界に溶けて、既に自己を消失している可能性もある。

 余程自己のしっかりしたシンプル馬鹿でもなければ、他者の存在も無しに自分を確定出来ない。まさしくアズサは、これから増えてくるだろうこの世界の人間の、基点となった存在だ。


「ヒーローどころか、創造神とか、聖母とかになったんじゃないか、アズサ」

「悪意しか感じないその言い方はやめい」

 とはいえ、バカ前提の世界となると、それはそれでいいかもしれない。インテリぶった不感症どもが牛耳る世界よりは楽しそうだ。


「そこまで詳しく知っているお前に、聞いておきたい事がある」

 淡雪カナだ。

「ここは、何処だ」

 やっぱり鋭い。新世界なんていう言葉だけじゃ納得してくれないか。


「元々世界のあった場所に別の世界を重ねるなんて出来ない。その為には一度元ある世界を消滅させる必要があるだろう。一年前のお前がそうしようとしたようにな」

「ん、一年前に世界を滅ぼそうとしてたのは、この為でもあったってこと?」

 とアズサが口を挟んでくるが、

「生憎と違う。狙っていた可能性は否定しないけど、当時の私たちは完全に誰の手からも外れていたからね」

 切っ掛けを思えば胸が痛むけど、今はいい。

 そうなんだ、と言って考えこむ姿を見て、続けようとしていた言葉を切り替える。


「アズサ、簡単に考えよう。アズサの家の中に、他人が勝手に家を作り出したらどうする?」

「出てってって言うよね」

「あるいは叩き出す」

 おう、と閃きの声。

「今の私たちって、作った家ごと外に叩き出されてるの?」

「そうだ。そしてそこは本来家が建つはずの無かった道端で、当然ながらそんな所でいつまでも留まっては居られない」

「どっかに向かってる?」

「設計者が望んだ場所にね」


 周囲もこれで理解出来たようだ。

 そして、より理解出来るだろうミホに関しては、驚きを通り越して呆然としていた。

「不可能よ……」

 ぽつり、と。

「星の心が持つ力は強大だけど、たかが星一つよ。そんなちっぽけな力で世界なんてものを創造出来るのなら、多次元や世界そのものが成り立たないわ。弾き出すとは言っても、それに使われたエネルギーはどこから? 不完全とはいえ世界を次元の狭間に放り出すほどの莫大なエネルギー……もし調達出来たとして、消耗された分は必ず元の世界に綻びを生む。下手をすれば世界の存続すらままならないくなるわ。一体誰がこんなことを……そうまでして元居た次元を飛び出して、人間原理を組み込んだ世界で別次元の解釈まで行わせて、ここまで周到に何をやろうとしてるのよ」


「それだけじゃないな。ここには既に、最低でも四人の魔法少女が居る。私がここに居る以上、灰原ユウカや壬生マコトも同様に来ている可能性もある。

 魔法少女の力は常に星と繋がっていた筈だ。こうして別次元へ放り出された今、かつてないほどの喪失に地球がどうなっているか」

 崩壊はもう既に始まっているかもしれない。

 その事実に気付いたらしい面々が顔を俯け、渦を巻く自分の感情に震えていた。


「助けないと!」


 けど、シンプル馬鹿はそういう、留まって自分を納得させることよりも、進んだ結果に一喜一憂することを選ぶ。何も分からなくても、そこに前へ踏み込める足場があるなら、たとえ一秒後には崩壊してしまうとしても一歩を踏む。


「私たち、魔法少女だよね。地球を守るヒーローなんだよ!」


 アズサの訴えを、私は少し離れて見ていた。

 なんとなく、こうなることを想造していた気がする。


 ケンの、実際には何の繋がりもない弟の、根源である力が父に利用された時、世界がどうなってしまうか何度も考えた。世界を滅ぼすしかないロキの力ではどうにもならないことは分かったし、元々諦めの良い方だ、仕方ないの一言で片付けようとしていた。誰かを頼るという思考も私には馴染まなかったし。

 アズサとの出会いは、結構強引なものだったように思う。自分自身、色んな裏切りや理不尽な要求に嫌気が差して逃げたくせに、同じように諦めていた私へ彼女は手を差し出した。元々私は世の中が悪意で満ちていることを知ってる。不干渉で居たがった私が気に入らなかったらしい者たちから嫌がらせを受けたとしても、あぁやっぱりそうなんだと思うだけで、ショックを受けたりなんかはまるでなかった。ただまあ、アズサがあまりにしつこくしてくるから、それと同じようなミホのことを思い出して、宝くじを買うような気分で手を取ってみた。

 結果は知らない。当たり番号を確認することも私は放棄してたから。


 一年前、御影ツバサと交わした言葉は、今でも何度も思い返す。

 やっぱり納得できなかったり、理解できなかったりして、正直彼と話すのに苦手意識が染み付いてしまった。なんか、怖い。同じだと思っていただけに、その中身が全く別の方向を見ていると知って、余計に理解できなかった。


 人の心が持つ黄金、か。


 今、両手を広げて訴えかけるアズサを皆が見ている。

 事の難しさなんて何も理解してない。具体的にどうするかという方法さえ提示出来ず、子どもそのままの行動で、世界を救おうだなんて言っている。

 救ってどうする、なんて思う。

 救っても世の中の悪意は消えないし、人は醜いままだ。どれだけ言われても、やっぱり私の中にあるクオリアはそう感じさせる。


 ただ、黄金の輝きを望んでいる自分もどこかに存在して、


「ならアズサ、持てる全力でこの世界を打ち抜け。寝ぼけ頭で居る連中を叩き起こすんだ」

「わかった!」

 即答だったことに笑う。

 仮にも裏切り者だぞ。あまつさえこの事態を引き起こしただろう人間の子どもだ。少しくらい疑ってくれないと居心地が悪いじゃないか。


「行くよ!」


 ガキン――と、アズサが天へ掲げたトールハンマーの外部装甲がはじけ飛ぶ。

 拘束を失った神の鉄槌は見る間に体積を肥大化させ、あっという間に天を覆うほどの巨大化を果たした。神話に曰く、その一撃は雷鳴にも例えられ、鳴り響く轟音に人々は畏れと憧れを抱いたと言う。

 あまりに巨大化させた為か、流石にアズサの姿勢が崩れそうになる。

 咄嗟に手を伸ばしてみれば、そこに居る全員が彼女の身体に触れていた。かつては敵対したり、裏切ったり、ずっと仲間だったりする者たちに支えられ、赤の魔法少女は世界に対して目覚めの雷鳴を打ち放つ。


「――ぶち抜けェエエエッ!」


 衝撃はなぜか、胸の内に熱を灯した。

 零れそうになった涙をそっと拭うと、こちらから目を背けるミホの顔が目に入った。


「……ごめん」

「私こそ、ごめんなさい」


 ついた吐息は重く、気づけば、身体が随分と軽くなっていた。




 

 水樹スズカ「…………」


オーディンの力はユーミルの肉体バラして世界を創造するのに使用中ですのでハブられてます。

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