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だから僕は男なんですってば!!  作者: あわき尊継
第四章

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44 魔法少女たち その弐

   灰原ユウカの場合


 筆が踊るわ!


 氷の女王と別れてツリーへ向かっていた傍ら、上空でド派手な戦いが見えたからついつい観戦していたんだけど、思わぬ展開にテンションは一気にマックス!


 いいわね、オトコノコ同士だなんて!


 御影くんのことは知っていたけど、相手のピンクがそうなのも私の目からするとすぐに分かったわ。そんな二人があらあらまあまあ! 事情はあんまり知らないけど、とりあえず事実だけでおいしいわ!

 あぁいけない、テンションが上がりすぎて展開しっぱなしの死霊たちが素敵にラリってる。数が多いだけに個々を丁寧に操るなんて出来ないから、結構大雑把なのよね。あら大変、インクが切れそう、ちょっとそこのソンビ、血を出しなさい。包帯の白い部分に素描だけでもしておきたいの。


「ねー、ツリーが大変なんだってー。急がないと駄目ッスよー」


 お神輿みたいに骨で出来たお立ち台で絵を書き続ける私に、隅っこでふらふらと揺れながら立つマコトが言った。


「ちょっと待って、今良い所なの」

「緊張感ないッスよねーユーカ姉」

「だって仕方ないじゃない。世の中への興味なんてとっくの昔に無くなったわ。私は私の周りと溢れ出る妄想が素敵であればそれでいいの。この世の美男子たちがラヴってれば世界は安泰よ」

「絶えるッス。滅びの道しか見えないッス」

「己の愛に生きて人類が滅びるなら、それも素敵な終わりと言えるじゃない」

「字面だけは綺麗ッス」


 汚くないわよ。

 ソレを好む女たちが腐ってるだけであって恋する美男子はエターナル! つまりはダイヤモンドに匹敵する輝きなの! 萌えるわ! そういえばダイヤも炭素だから燃える筈よね?

 あら、そうなるとダイヤ受け、炎攻め?

 何百年も掛けて完成した無口キャラが熱血男に燃やされちゃって果てるのね! あぁ、駄目よ、そんな浮気をしてるとさっき見た印象が薄れちゃう。


 ホント御影くんはいい素材だわ。

 あんなに可愛らしいオトコノコが現実に居るだなんて、それこそ奇跡の産物よ。顔がいいのよね、顔が。性格はどうなんだろ。正直周辺のBL展開にばかり注目して観察が不十分だったことは否定出来ないわね。

 第一印象はどこか冷たい子。同性には物凄く積極的なのに、異性相手だと距離を取っていてあんまり会話が続かなかった覚えがあるわ。そこがまた私の本能を刺激するんだけど。


 正直、生身の他人には興味が薄いのよね、私。

 心情を推し量ったりは特にしないし、彼ほど必死に関わっていこうとも思わない。監視役として派遣されてきた藤崎弟も基本的にはスルーだったし、自分の中に篭っていられればそれでいい?


 藤崎姉やマコトも揃って孤児だけど、私の場合は両親共に存命中だし。

 まあネグレクト? 育児放棄というヤツで施設に預けられたのもあって、誰かが自分に寄ってくるのが鬱陶しく感じられる時があるのよね。私の親は私を都合のいい人形扱いだったし、私が思うように育たないと分かるとあっさり居ないものとして扱い出した。

 人間関係も結構そういう部分、あるじゃない?

 入学後とかクラス替え後なんかは、皆して仲間を探して、結構親切にしてくれたりするの。けどしばらくすると仲の良い者同士で集まって、あれれと思ってる間に誘われなくなったり。

 まあ私、御影くんみたいに好かれるタイプの人間じゃないから気にしてないけど。

 だって自分の親にさえ嫌われたんだもの、他人が私を好きになる構図が見えないわ。

 なんだかんだで一緒に居た施設の皆とも、藤崎姉の一件以来やっぱり距離が出来てるし。マコトや藤崎弟はなんとかしたがってるみたいだけど、私はどっちでもいいわ。


 あぁそれでも、一年前の言葉は胸に残ってる。

 御影くんが藤崎姉へ言った言葉。


『なら僕が祝福する。他の誰一人望まなかったとしても、僕は生まれ出る命の全てを肯定するし、心から歓迎する』


 聞いた時は、へぇそうなんだ、くらいにしか思わなかった。

 まあ、親にさえ嫌われた私だけど、御影くんは歓迎してくれるのね、と。


 それでぼーっと戦いを放置していたら、なんだか急に胸が痛くなった。

 世界が燃えていて、今にも終わりそうで、それを止めようと必死に戦う人を見ていた。これが終わりの風景なんだって思いながら、気付いたら泣いてたのよね。


 あの時の詳しい心情は今でも分からない。

 小さな頃、世界から――実の親から無視されて、私も世界を無視するようにした。なのにどうしてあんなに泣けてきたんだろ。


 御影くんはひどい子よね。

 私なんかを歓迎しながら、愛してはくれないなんて。


 でもいいの。

 私はアナタがオトコノコに監禁されて、悔しさに涙しながら徐々に愛情が芽生えていく物語さえ描いていれば満足出来る人間だから。御影くんと手錠、いいわね。グッドよ。


   ※  ※  ※


   壬生マコトの場合


 ユーカ姉がまたホモの世界に落ちたッス。


 昔からユーカ姉は人と関わったりしない人ッス。私なんかはいつも誰かが近くに居ないと不安で、今でもたまにユーカ姉のお布団に潜り込むのに。まあでも、寝る直前が一番ホモが捗るらしくって、結果的に放置されるからアオイ姉の弟の、ケンくんの所に行ったりもするッスけど。

 まあでも、自分から関わったりはしないだけで、かなり来る者拒まずなんスけどね。

 私たちの中で一番最初に里親が付いたのがユーカ姉だったッス。けど駄目になったのも最初だったッスね。大人しくて成績の良いユーカ姉に勝手な妄想抱えて引き取った癖に、拒絶しない代わりに興味を持とうとしないから突き放したりして。


 大人って自分勝手過ぎるッス。

 あっちには力があって、私たちには大抵何も無いッスから、逆らえないものッスけどね。


 私の里親も結構なもので、引き取って間もない内からまさかの離婚。お互い良くわかんない内からそんなことになって、折角家族が出来たって喜んでたのにバラバラで。

 あの日も、喧嘩する里親たちを見ているのも辛くて飛び出したんスよね。


 施設に居た時から大事にしてたサッカーボールと一緒に家から出て、近くの公園で暗くなるまで蹴ってたら、ケンくんがやってきたんスよね。それからケンくんは何も言わずパスの相手になってくれて、気がつけば真夜中になってて……、


 ケンくんに付き添ってもらって戻ると、部屋がものけの殻になってたんス。

 家具なんかはあったけど、人の熱が無くて、あぁそうなんだって泣いて、そしたらケンくんが私を担いでアオイ姉の所に連れてってくれた。そこにはもうユーカ姉が居て、おかえり、なんて言うからもっと盛大に泣いた。


 そういえばあの時は何も知らなくて、アオイ姉が魔法少女として戦ってたなんて考えもしなかったッスよねー。

 たまにフラリとどこかに行っちゃうような不安定さがアオイ姉にはあったッスけど、必ず戻ってくるし、必ずケンくんが連れ戻してくれた。


 だから不意に居なくなった時はもう大変だった。

 私は泣くしか出来なくて、そんな私をユーカ姉が鬱陶しがりながら近くに置いてくれて、ケンくんが探しに出てる間、ずっと一緒に寝てくれたんス。


 戻ってきたアオイ姉はとっても怖い女の人を連れていて、その時初めて、私はアオイ姉やケンくんがどうしてあの施設に居たのかを聞いた。

 ずっと優しくてカッコ良かったアオイ姉は、その時物凄く冷たい顔をしていて、私は泣きながら何度もごめんって謝った。なんで謝ってるのかも分からなくて、だけどしばらくしてアオイ姉が困った顔で嬉しそうに「ありがとう」って言ってくれた。


 それから一杯怖い経験をした。

 いきなり裸に剥かれたり、変な薬を飲まされたり、意識が飛んで今がいつなのかも分からないような苦しさ。


 でも、アオイ姉がありがとうって言ってくれたから頑張ったッス。

 アオイ姉は一杯嘘をつくけど、あの時の表情だけは本物だった。だから戦える。怖い思いも痛い思いも我慢できる。


 そうやってちょっと固い感じのスーツさんの部下として働き始めて、裏では毎日あの怖い女の人と会って、その度にアオイ姉がひどい目に合わされてて……。

 私はそれが嫌で、何度もアオイ姉に抗議して、その度に怒られて。ユーカ姉に相談しても好きにさせてればいい、なんて言って、だから喧嘩みたいなこともした。いつもはケンくんが止めてくれるのに、ケンくんはずっと研究所に通ってて、たまに戻るとボロボロだったから知られないようにした。

 コースケ兄が居なかったら、私たちもバラバラになってたかもしんないッスよね。


「ねえユーカ姉」

 のんびり進むお神輿の上で素描するユーカ姉へ声を掛ける。どれだけ集中していても、なぜか無視されることはない。戻ってくる言葉は簡潔だけど。

「なに」

「まだ元通りになれないんスかね」


 一年前のあの日から、アオイ姉は私たちの所から姿を消した。

 街は復興で忙しかったし、仮設住宅なんかはあちこちにあったから、多分そのどこかで生活してるんだろうと思うけど、やっぱり心配だった。

 半年くらい前に一悶着あって、それからコースケ兄が定期的に様子を知らせてくれるようになって、ようやく安心出来た。こっちからもっとアオイ姉に関わって行きたかったけど、正直、あの時の言葉を聞いてから怖気づいてた所もあるんス。

 ずっと一緒に居たのに、あんなにも苦しんでたアオイ姉のこと、なんにも分かってなかった。

 そんな私が当たり前の顔して近づいていいのかなって。

 そんな権利があるのかなって。


『なんだよ権利って』

 アオイ姉のことを伝えに来てくれたコースケ兄に聞くと、軽快に笑い飛ばされた。

『マコト、お前が欲しいのは権利じゃなくて、許しだろ? そんなもん、相手に関わっていかねえといつまで経っても貰えねえよ』


 それからコースケ兄に連れられて、何度もアオイ姉に話しかけるようにしたけど、なんだか怯えられてまるで会話にならなかったッス。でも隣でコースケ兄が笑ってると、まだまだ大丈夫って思えて、だから頑張れるッス。

 ただ、本当は私だけじゃなくて、ユーカ姉にも一緒に来てほしくって。


「元通りなんて不可能よ」

 なのにユーカ姉はそんなことを言う。

 耳と尻尾がしょんぼりするのを抑えられないッス。

「世の中は私たちの望みを斟酌して巻き戻ってなんてくれない。時間ほど問答無用に過ぎてくものはないわ。例え明日が締め切りでも、時間は平等に過ぎていくの」

 最後の一文で冷めるッス。

「私たちの親がアレだったり、里親がアレだったり、汚点は山ほどあるけど、子どもにとって世界は、親が選べないくらい理不尽なの。じゃあ諦める? それはどうかと思うわ。そういう時は持久戦に持ち込むの。成長して自活できるようになればこっちのものよ。巨万の富でも手に入れば、私は一生BL本を読んで過ごすわ」

 最後の一文が余計ッス。

「私たちは私たちで変わった。それと同じくらい世の中も変わっていった。過ぎちゃったものはどうしようもないわ。一度ヤっちゃえば後には引き返せないようにね。そうしてだんだん堕ちていって、気がつけば虜になってるものなのよ」

「ユーカ姉、話、話戻して。ホモは引っ込めて」

「分かってないわね。BLこそこの世の真理よ。人は求め合う、愛し合う、そこに多少の矛盾があろうと、好きになったら性別なんて細かいことはどうでもいいの。ハッピーエンド確定じゃない。過去の失敗をいつまでも引きずるくらいなら、これから想い合える未来を作りなさいな。十年でも二十年でも掛けて、それでまた仲良くなっちゃえば、今のわだかまりなんて笑い話よ。なのに時間を巻き戻そうとする限り、過去の痛みからは逃れられなくなるの。少なくとも、飽きて痛みが鈍化するまではね。だったらとりあえず二・三回突っ込んじゃった方がよくない? 気持ちいらしいわよ」

 本当になんで最後でホモらないと気がすまないんだろう、ユーカ姉は。

 あぁそうか。とりあえずホモっとけば幸せなんだな。


 それでいいのかな?

 うーん、微妙! だけど確かに笑えるかな、苦笑いッスけど。


   ※  ※  ※


   藤崎ケンの場合


 …………語らず。

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