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だから僕は男なんですってば!!  作者: あわき尊継
第三章

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35

 地上に辿り着いて宿り木が引いていくと、すぐ近くに皆が居た。

 アズサさん、ミホさん、水樹さん、淡雪さん。皆ボロボロだけど、ちゃんと生きてる。


 そして皆、揃って空を見上げていた。

 大空へ描かれた白い文字はここからだとよく見えない。でも、不穏な感じはしないから、きっといい言葉なんだと思う。


 アオイさんたちの姿はない。

 でも、きっと大丈夫だろう。


 シズクちゃんの手を引いて僕は皆に合流した。シズクちゃんに助けられた皆は、僕より先に彼女の生存を知っていたみたいで、驚く様子はない。

 僕らは少しだけ視線を交わして、けど自然と空を見上げてしまった。


 掲示板に書かれていた内容は読んだ。

 あれはミュウのものだ。ここには居ない僕たちの仲間が、一人で去っていこうとしている。それはとても苦しくて、寂しくて、涙が出そうになるほど辛かった。

 でも、彼女が胸を張ってそうしたいって言ってるのを止めていいのか。


 いや、もう止める手段はない。

 地上に着くまで何度も呼びかけたけど、もうミュウは答えてくれなかった。


 せめてもっと話したかったのに。ようやく触れ合えたのに。


 涙を拭って夜空に消えていく背中を見送った。

 次に会えるのは何年先になるか分からない。もしかするともう二度と会えないのかもしれない。僕たちが彼女を受け入れる準備を整えられなければ、顔を覗かせてもまた去ってしまうかもしれない。


 また会おう。

 そうだ。僕たちが頑張って、少しでも早く受け入れられるよう働きかければいいんだ。


 大切な仲間との別れは涙の味がした。


 それからしばらくして、僕の腕を抱いてきた小さな、本当に小さな身体が飄々と言った。


「やー、それにしても凄い惨状ですねー」


 ………………え?


「あれ、どうかしましたかツバサ。皆さんも呆けた顔をして」

「え、えええっ?」

「あっ……まだ身体が馴染んでません。手を離さないで下さい」


「ミ、ミュウ!?」


 僕があの艦内で会った、若草色の魔法少女がすぐ隣に居た。彼女はよろけそうになりながら驚いて手を離した僕にしがみつき、目を瞑ったまま安心したように笑う。


「はい、私です。ミュウです」


「ミュウゥゥウウウ!」

「ミュウ!」


 突風のように左右から抱きつくアズサさんとミホさん。もみくちゃにされたミュウはそれでも何処か嬉しそうで、無邪気な笑顔にそぐわない、いやある意味でありそうな言葉を吐く。


「はっはっは。ツバサたちを送るついでにサブの肉体を降ろしておいて正解でした。メインは向こうの艦内にありますが、またサブをこちらに入れておいたんです。どうですか? 私との再会を泣いて喜んでいいんですよ」


 言わずもがなアズサさんはもう滝のような涙を流してるし、ミホさんはさっきからハンカチで涙を拭うので精一杯だ。

 けど、ミュウ的には何かが不満だったのか、物欲しそうな目でこちらを見る。


「えーと」

「はいどうぞ」

「ぶ、ぶち壊しやないかーい」


 棒読みツッコミだったけどミュウは満足してくれたみたい。


「まあ、あくまでサブですし、以前のようなサポートは出来ないと思って下さい。ですが、これからは私も一緒に戦えますよ」


 話によると、メインとも細いながら回線が繋がっているらしい。だからこちらの様子は向こうにも伝わる。残った方のミュウも寂しくないのなら、それは大歓迎だった。


「御影」


 二人に遊ばれ始めたミュウを放置していたら、横合いから淡雪さんが声を掛けてきた。少しだけ不安そうな表情。


「淡雪さん。ありがとう。今回はずっと助けられてばっかりだった」

「礼はいらん。こちらは敗者で、協力者だ」

 らしい返答に笑みが浮かぶ。

 そうだ。彼女には言わないといけないことがあった。


「淡雪さん、僕は――」

「前にお前へ言ったことだがなっ、返事はまだ保留にしてくれ!」

「でも……」

「分かってる! 分かっていたんだ! あの時、公園でお前を見た時に、そうなんだろうと感じていた。だが、私がそう簡単に諦められる性格じゃないのは、お前も知ってるだろう」

 往生際の悪さなら、彼女は天下一品だった。

 自分の中の答えが揺るがないとは思えても、そんな彼女を拒絶することは出来なくて、

「うん」

 そう答えていた。

「いずれ、改めて言う。その時に答えを聞かせてくれ」

「うん」


 ようやく安心したように力を抜いた淡雪さんは、しかしすぐさま挑戦的な顔でシズクちゃんに向かい合った。


「キサマも覚えておけ。そうしてソイツの隣に居られるのも今の内だとな」

 言われたからか、シズクちゃんが僕へ身を寄せる。

 それから淡い笑顔で言った。

「私の」


 どういう訳か淡雪さんは衝撃を受けて膝を屈した。

 辛そうに、まだ氷の女王に立ち向かう。


「ふ、ふんっ! だが私は既に御影とキスもしたぞっ!」


 わあ! そんなこと大声で言わないで!

 折角ミュウへ夢中になっていたアズサさんとミホさんが聞きつけて食いついてくる。


「えっ、これどういう構図!? 三角関係!?」

「キスって言いました? ツバサさんがっ? 私もしたことないのにっ」

 いやいや仮に女同士の親友でもそこまでは普通しませんから。


「…………私は二回した」


 と、今まで黙っていたシズクちゃんが言う。

「に、二回だとっ!?」

「二回目はツバサからしたいって言った。ツバサからしてきた」

「~~~~っ!」


「どういうこと!? いつの間にかカップル成立してたの!?」

「た、大変よ! お赤飯を炊かないと!」

 アズサさんはともかくミホさんは女同士の行為として止めてくれないかな。なんで当たり前のような反応なんですか。って、考えてて落ち込むなぁ。


「な、なら私は胸を触られたこともあるぞ!」

「それは事故ですっ!」


 あまりの発言に思わず抗議する。けど駄目だ。話の勢いはもう僕の言葉で制御出来る所にない。盛り上がり続けるアズサさんとミホさん。そして、今度はシズクちゃんがショックを受けて膝をついた。あまりにもいつも通りの表情のまま動かないのがいっそ怖い。


「おすわり」

「え」

「命令」

「は、はい」


「……なん、だと」

 これは淡雪さんの声。

 シズクちゃんが突然下した命令に僕はおずおずと従っていた。なんというか、有無を言わせない迫力があったんだ……。


 正座してシズクちゃんを見上げる僕を、彼女は満足そうに撫でる。

 そして口元に手を当てて勝ち誇った。


 なんだろう。とても怖い争いが目の前で展開されている。


「あー駄目ですね。コレは完全に尻に敷かれてます」

「二人ともとっても可愛いっ。あのね、二人のお姉様として誰よりも応援するわっ」

「あー駄目ですね。コレは完全にトリップしてます」

 解説役をしていたアズサさんが割とどうでもよさそうに言う。というより、この中で一番疲労が大きそうな彼女はいい加減立っているのも辛そうに見えた。ミホさんが妙にハイテンションなのもそのせいだそうにちがいないそうだよね……?


「そんなことよりツバサ。私はどうですか?」

「うーん、ミュウまでいくと流石にロリコン扱いだよね」

「仕方ありません。まずは妹ポジションから始めましょう。とりあえず目が見えないから手を繋いでて下さい。ずっと」

「だめ」

 僕へ伸ばしたミュウの手をシズクちゃんが弾き落とす。

「えー」

「私の」

「少しくらい分けて下さいよ」

「全部私の」

「指一本だけなら」

「ほら、私が繋いでてあげるから」

 わーい、と姉の手を取る妹。

 掌を合わせ、形を確認するように指を這わせる。それから頬ずり、甘咬み、って何故噛んだ。

 凄まじい勢いで甘えて擦り寄ってくるミュウに流石のシズクちゃんもどうしていいか分からなくなったらしく、僕の方へ援軍を求める。どうやらミュウは目が見えない変わりに人との接触を好むようだった。今まで溜まりに溜まった分もあるのかもだけど。僕はシズクちゃんをなだめて、反対側の手でミュウと繋ぐ。三人で輪になるような形だ。

 うんうん、ちょっと楽しいぞ。なんて思ってたら不意にあくびが出た。


「ほら、立ちなさいカナ。最初から負け戦は決まっていたんですから、引き際は重要ですわよ」

「うるさいお前に私の気持ちがわかってたまるかっ」

「それにしてもアナタがそっちの趣味だったなんて、正直友人としてどうすればいいのか悩む所ですわね」

「う、うるさいっ。その辺りには私も葛藤があってだなっ! 第一向こうだってそうじゃないかっ!」

「おかしいわ……最近の若者は」

「老人か……」


 途中からしか聞いてなかったけど、やっぱり皆疲れてるんだな。

 もう夜も遅いし、普通なら寝ている時間だ。火災は収まっても、まだまだこの夜にやるべきことは多い。なのに、正直僕もさっきから瞼が重く感じてる。


「無理せず寝てていい。宿り木が皆を守ってくれるから」


 それから僕たちは少し寝た。

 シズクちゃんの友達となった宿り木に囲まれて。


 まるでお伽話に出てくる妖精の住処みたいで、そこはとても安心できた。そういえば、妖精はよく子どもを攫って遊び相手にする話もあったよね。住む世界が違うのに、子どもたちへの好奇心が抑えられず、ついつい手を引いてしまう。それで起きた不幸もあったけど、ほとんどの場合、子どもたちと妖精はとても仲良くなれたんだと思う。


 目が覚めると、皆はもうどこかへ行っていた。

 きっと、街の復興を手伝いに行ったんだろう。


 僕はいつの間にかシズクちゃんの膝枕で眠っていて、そんな僕のお腹でミュウがよだれを垂らして眠っていた。ここに居るのは三人だけ。


「シズクちゃんは眠らなかったの?」


 木漏れ日を眺めていた彼女へ向けて問いかける。

 その姿はとても綺麗で、ずっと見ていたくはあったけど、彼女の側から僕に気付いたからだ。


「いろんな音がする」


 言われて耳を済ませると、早くも遠くから土木作業の音が聞こえていた。人の声が折り重なり、力強い活気の音色がやってくる。

 ずっと昔、人間を怖れて距離を取った彼女は、幾つもの音を感じ、そっと笑った。


「負けない音、だよ」

「負けない音?」

「どれだけ叩き付けられても、地に伏せっても、ゆっくり時間を掛けて、人は成長を続ける。ミュウが言っていた通り、僕たちは未熟で不完全なんだ。だから幾らでも成長していける。今はまだ苦しみから顔を上げられない人も大勢居るだろうけど、大丈夫」

 だって、

「僕たちを大好きだって言ってくれた友達が居るんだから、いつまでもそうしてはいられないよ」


「あーん、だめですぅ……いちごはわたしのぉ……」


 世界へ向けて愛を叫んだ子の可愛らしい寝言に、僕ら二人は笑った。


   ※  ※  ※


 後日、正式に宇宙人の存在が政府から公表された。

 情報を秘匿していたことに対して強いバッシングもあったけど、すぐにそれも収まってお祭り騒ぎとなった。街には世界中から支援の手が差し伸べられて、凄まじい勢いで復興していった。

 街にはあらゆる国の人たちで溢れ、それは多少の混乱も産んだけど、皆がどこか期待して生きているように思えた。いつか、この街へやってくる宇宙人を想って。


 一年後、法整備を完了させた政府が正式に街を特別行政特区として制定。

 劇的に変わっていった街の様子と同じくして、僕ら魔法少女の立場も、また大きく変わっていった。




 

第三章、完。


ラストに書いてあった通り、一年後から話が始まります。

ここまでは題材としてきた北欧神話の顛末を、ここからは割りと自由に進むと思います。テイストはそのままなのでご安心下さい。

いきなりツバサくんがマジカルステッキ振り回してキラキラすることはないと思います。ます。


さあ、最終章ですよぅ!

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